2024.08.05

CARS

「パナメーラ?  あれはリムジンだろ!」の一言に仰天! アストン・マーティンの4ドアモデル、ラピードはどんなクルマだったのか?

アストン・マーティン・ラピードに試乗!

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中古車バイヤーズ・ガイドとしても役立つ雑誌『エンジン』の貴重なアーカイブ記事を厳選してお送りしている人気企画の「蔵出しシリーズ」。今回は、2009年12月号に掲載されたアストン・マーティン・ラピードのリポートを取り上げる。2009年9月のフランクフルト・モーターショウでデビューしたばかりのアストン・マーティンの新しい4ドア・スポーツカー、ラピードに同乗試乗する機会を得たエンジン編集部のムラカミは、このクルマをどう評価したのか?

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4枚ドアのスポーツカー


チャンスは突然巡ってきた。

「来週、英国でラピードのパッセンジャー・ドライブが体験できるのですが、行きませんか」

アストン・マーティンのアジア・パシフィック・オフィスからの急だけれど願ってもない誘いに、むろん私は即座に「行きます」と返事した。

正面から見ると、これが4ドア・モデルとは到底思えない。ほとんどロールすることなくコーナリングする姿はスポーツカーそのものだ。


2006年のデトロイト・ショウでコンセプト・カーとして発表されてから4年足らず、今年9月のフランクフルトで正式デビューを飾ったこの画期的な4ドア・スポーツカーに、同乗とはいえ、いち早く乗れるというのだ。個人的には、ラピードの最大のライバルと目される、今年6月に国際試乗会で乗ったばかりの、これまたスポーツカー・メーカーが放った画期的な4ドア・グラントゥリズモであるパナメーラとの違いを見極めたいとも思った。

同乗試乗の前夜に開かれたCEOのウルリッヒ・ベッツ氏主催のディナーの席で、かつてポルシェにいたこともあるベッツ氏ご本人に、ストレートな質問を投げかけてみた。

「ラピードの最大のライバルはポルシェ・パナメーラ・ターボですか?」

すると、ドクター・ベッツは言下に否定して、こう言い放った。

「パナメーラ? あれはリムジンじゃないか。ラピードは4枚ドアがついたスポーツカーなんだよ」

彼の見解によれば、アストン・マーティンの倍を遥かに超える台数を毎年世に送り出しているポルシェのプロダクトは、様々なマーケティング的な要求を飲みながら、つくられているという。たとえば、後席のレッグ・ルームにはこぶしが何個入らなければいけないとか、頭上はこれだけの余裕がなければいけないとか……。その結果、妙に胴長でずんぐりした、アグリー(醜い、ブスな、といった意味)な見かけのクルマが出来上がったと言いたいらしい。「だからパナメーラはスポーツカーとは言えないし、ラピードのライバルはこの世には存在しない」というのが彼の主張である。


後席もスポーツカー

フランクフルト・ショウには行かなかった私は、翌日初めてその4ドア・スポーツカーと対面することになった。ひと目みてアストン・マーティンとわかるラピードは(どのモデルもあまりに似過ぎているのも問題ではないかと思うのだが、それは余談)、なるほどベッツ氏が自慢するような美しく、華麗でいながらも、その下には筋肉が蓄えられているのが見てとれるサラブレッドのような研ぎ澄まされた肉体を持っていた。

同乗試乗したラピードの内装は作りかけだったので、ここでは広報写真をお見せする。インパネまわりはDB9と共通。特徴的なのは後席で、背を前に倒して荷室を広げることもできる。


基本プラットフォームはパワートレインも含めてDB9からの流用だが、ホイールベースは244mm長い2989mmまで引き延ばされており、全長×全幅×全高は5019×1929×1360mm。すなわちDB9より309mm長く、54mmワイドで、90mmだけ高い。ちなみに、パナメーラのスリー・サイズは4970×1931×1418mmで、ホイールベースは2920mm。ラピードの方がわずかに長いにもかかわらず、ルーフは低いというあたりに、ベッツ氏の言うマーケティング的要求のあるなしが表れているのかも知れない。

それでも、ラピードの後席には身長195cmの人が座れるように設計されているという。実際に178cmの私が座ってみると、最初こそセンター部分にトランスアクスルのギアボックスとディファレンシャルの大きな膨らみを持ち、隣の席と分断された小さな空間に違和感を覚えたものの、慣れてしまえば包まれ感がむしろ居心地良く感じられてきた。ドアも小さいながらも70度まで開くし、ノブを引くと窓が自動的に3分の1まで下りて、乗降しやすくする工夫がこらされている。とはいえ、パナメーラと比較するのは難しい。ベッツ氏の言うリムジンとスポーツカーくらいの違いはある。



同乗試乗は約45分。4名フル乗車のラピードを、チーフ・エンジニアが自ら解説しながら運転してくれた。私が乗ったのは助手席の後ろだったが、これは驚くべき体験だった。小さなシートにすっぽりと収まって身体が固定されているせいか、呆れるほど運転が上手なチーフ・エンジニアが、DB9ゆずりの477馬力のV12気筒にムチをあてて、英国の狭く、荒れた路面の田舎道を飛ばしても、振り回される感じがないのである。DB9と同じくらい乗り心地は硬いし、路面の荒れもかなり直接的に伝わってくるが、決して不快ではない。むしろ、スポーツカーに乗っているという緊張感と歓びを、後席でも共有できるのが楽しかった。190kg増した車重に合わせて適正化されたギア比を持つ6速タッチトロニック2も、ホイールベースの長さを考慮してDB9よりややシャープに躾けられたステアリングも、すこぶるスポーティかつスムーズに感じられたが、実際にはどうなのか。国際試乗会は来年2月、スペインのバレンシアで開かれる予定だという。


文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=アストン・マーティン・ラゴンダ・リミテッド


(ENGINE2009年12月号)

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