2024.05.29

LIFESTYLE

「大人の素敵さがここにある」 踊りたくなるノラ・ジョーンズ これまでのイメージを覆す4年ぶりの新作『ヴィジョンズ』を聴く

ジャジーなピアノ曲で人々の心を癒す歌姫のイメージだが

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2002年のデビュー以降、ジャジーなピアノ曲のイメージで捉えられがちなノラ・ジョーンズ。だが彼女の久々の新作は、自由で踊りたくなるような、力強いエネルギーに満ちたものだった。

明るくて軽やかな仕上がり


ノラ・ジョーンズと聞いて、あなたは彼女のどんな音楽を思い浮かべるだろうか。柔らかなピアノと歌声に癒されるデビューアルバムのジャジーな音楽?

それとも2作目『フィールズ・ライク・ホーム』のカントリーっぽい音楽?

4作目『ザ・フォール』でやっていたR&Bポップ的な音楽?

いや、ノラ・ジョーンズと言えばエレクトリック・ギターを弾いて歌っていた5作目『リトル・ブロークン・ハーツ』のオルタナ・ロック調が最高なんだという人もいるだろう。そんなふうにアルバム毎に音楽の方向性を変化させながら進んできた彼女が発表した新作『ヴィジョンズ』。これをどういう音楽性かと一言で表すのは難しく、「これまでやってきたいろんなジャンルの音楽を有機的かつシームレスに繋いで織り込んだもの」と、そんなふうに言えばいいかもしれない。

3月に世界同時発売となったノラ・ジョーンズの『ヴィジョンズ』(ユニバーサル クラシックス&ジャズ)。

ここ数年は暗めで重めのオリジナル・アルバムが続いていた。わけても約4年前の『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』は喪失感や嘆きを歌った曲が多く、コロナ禍で先が見えづらくなった我々の息苦しさに通じ、ズッシリとみぞおちに響く作品だった。でも新作の彼女はもう嘆いていないし、憂いてもいない。4年前に自分を呑み込んだトンネルから抜け出して、光を見つけることができたのだろう。そう思えるくらいに今作は明るく軽やかで、楽しい雰囲気もある。それでいて歌声の説得力はいっそう深まっている。彼女が今、とてもいい状態にあることがわかる作品だ。

好奇心そのものが音楽に


2021年に発表したクリスマス・アルバムに続いて、ヴィンテージ・ソウル的な音作りが得意なリオン・マイケルズがプロデュース。というか、大半の曲をほぼ彼とノラのふたりで演奏して作っている。だから音数は少ないのだけど、ふたりで好きなように音遊びしているような自由さがある。パーソナルな感覚(シンガー・ソングライター的な弾き語り感覚)とバンド感のようなもののどっちもあって、尚且つ質感は豊か。歌詞もシンプルでいい。なかには「アイ・ジャスト・ワナ・ダンス(ただ踊りたいだけ)」と繰り返しているだけの曲もあったりする。

特大ヒットとなった「ドント・ノー・ホワイ」を含むデビューアルバムが鮮烈だっただけに、未だにジャジーなピアノ曲で人々の心を癒す歌姫といったイメージで彼女を捉えている人もいたりするが、ここではピアノもギターもベースも弾いているし、なんというか彼女の好奇心そのものが音楽になっているような開かれた感覚と型破りさがある。「立ち上がっては転ぶ/迷い、そして悟る/それが人生というもの」と本編最後の「ザッツ・ライフ」でノラはそう歌い、ララララとハミングする。深くて、軽やか。大人の素敵さがここにある。

■ノラ・ジョーンズ『ヴィジョンズ』(ユニバーサル クラシックス&ジャズ) 2020年に発表した『ピック・ミー・アップ・オフ・ザ・フロア』以来、約4年振りのオリジナル・アルバムとなる。収録された全12曲は、活気にあふれたポジティブなものが多く、そのサウンドも懐かしい雰囲気を漂わせながらも、どこか新しさを感じさせる。日本盤にはボーナス・トラック『キャン・ユー・ビリーヴ』を収録。


文=内本順一(音楽ジャーナリスト)

(ENGINE2024年5月号)

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