2024.11.25

CARS

【海外試乗】新たなマスクを得たボルボのフラッグシップ、XC90に北欧で乗る まだまだ内燃エンジン車の進化も続く!

デンマークとスウェーデンを繋ぐトンネルと橋、通称オースレン・リンクを行くボルボXC90。

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以前とは別物

橋の路面は平滑だったけれど、それを過ぎるとつぎはぎが多めの、ジョイントも轍もある旧い幹線道路が中心だった。静岡エリアで新東名から東名に移ったくらいの感覚だ。最高速度の標識はころころと変化するが、前があくと同時に110/km/hの標識が見えたので、速度を上げる。

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シュターン、スターン。継ぎ目の越え方に耳をそばだてるとこんな感じだろうか。思わずおっと声が出る。静かな上、足さばきが上手い。ボルボの中大型車、60/90系が採用するSPAというシャシーは標準サスペンションの場合、フロントはショックアブソーバーにコイルだが、リアは樹脂の横置きリーフ・スプリングを組み合わせる。Rデザインなど足を硬くするスポーティな仕様は統一感があり、結構踏める記憶があるが、標準仕様はやや姿勢変化が大きい印象があった。でもこのB5は足がきちんと動き、視線が揺れる感じがしない。冬季ゆえあたりの柔らかなウインター・タイヤを履くことをふまえても、改良前とは別物だ。



大きな曲率のコーナーはジャンクションの合流路くらいしかないが、速度を上げたまま侵入していっても、ゆっくりきれいにロールしながら曲がっていく。ステアリングの感触は2段階に調整ができるが、いずれも伝わってくる情報量は豊かだ。反応は穏やかで、重く大きなものを操っていることをドライバーにちゃんと認識させる仕立ても変わっていない。でもクルマ全体が、なんだか一回り小さく感じる。これならもっと飛ばせる、と思ったのだが、その先は市街地だった。町の入口の、速度規制の大きなバンプも衝撃を伝えずいなすことは分かったが、気になったので昼食会場で、ヴィークル・ダイナミクス担当のロバート・ルノルフソンさんに尋ねてみた。



「今回の改良は標準のサスペンションにフォーカス。フレキュエンシー・セレクティブ・ダンピング(FSD)機構を組み入れ、スプリングはより柔らかなもので再セッティングしました」

FSDはショックアブソーバーの中にオイル経路を追加し、ダイナミックな動きとコンフォート性能のいいとこ取りを狙った、周波数感応式と呼ばれる電子制御を必要としない、純メカニカルなものだという。

「より予測可能でコントロールしやすいセッティングを狙っていったら、結果的にコンフォート性能も向上したんです。T8のエアサスはハードウェアはそのまま、標準のサスペンションと同じ性格を狙って仕立てました。静かに感じたのは、追加されたA、Bピラーの遮音材とラミネート・ウインドウの効果でしょう」



午後になって乗り換えたT8は、確かに彼のいうとおりの印象だったが、速度を上げていくと、落ち着かないところも見せた。B5に比べバッテリーやモーターの重量増が響いているのだろう。ルノルフソンさんはエアサスには車高調整機構などのメリットもある、というが、僕はB5こそが、まさにフォーカスがぴたりと合った感じがした。

しかしT8で代わりに舌を巻いたのは、インフォテインメントと同じく著しい進化を遂げた電子制御だ。電力を急激に出し入れしないようにしつつ、けれど効果的に使い、守備範囲を広げたモーターの威力は大きい。静けさも滑らかさもB5とは段違いだ。



なお自動追従やレーンアシストなど先進運転者補助はT8で主に試したが、反応はきめ細やかで改良前よりずっと滑らかなものになっていたことも付け加えておきたい。
 
地道な改良は続く

ボルボは目標の到達時期を変更はしているが、電動化へのルートはハッキリしている。内燃エンジンを載せたXC90は主流ではない。だからこそ様々なところを焦点を絞って手当をしたのだが、それが見事にいい結果として出ている。

スウェーデンから再びオースレン・リンクを経てデンマーク・コペンハーゲンへ戻る。

1台の自動車が世に出ても、熟成もされず短期間で消費されている現代において、登場から時間が経ったXC90のようなクルマが地道に改良されることは希だ。電動化が一気に進んでいたらXC90は早々にEX90にその座を譲り渡していただろう。

夕食の席では、850時代からボルボに勤め、最初は変速機を、今はハイブリッド担当というラース・ハリーンさんと一緒になった。日本で旧いボルボが人気なことが話題になり、僕が「XC90も240のように長いモデルライフを持つかもしれませんね」というと、彼はこう答えた。「たしか240は1974年から1993年までだから、……19年ですよ」。

「XC90は少なくとも、2030年までのあと5、6年くらい長生きするでしょうね。残念ながらそれでも少し240にはおよばない。でも、いいクルマは長生きです」と続けた僕に、彼は笑みを浮かべ、うなずいた。まだまだやるべきことがある、そういう思いが伝わってきた。

新しいボルボXC90は、2025年の前半、あまり遅くない時期には日本へやって来るという。

文=上田純一郎(本誌) 写真=ボルボ・カーズ

■ボルボXC90 T8 AWD
駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4953×1923×1771mm
ホイールベース  2984mm
車両重量 2297kg
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ+モーター
圧縮比 10.3:1 
排気量 1969cc 
最高出力(モーター) 310ps/6000rpm(146ps)
最大トルク(モーター)  400Nm/3000-4800rpm(309Nm)
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前)  ダブルウィッシュボーン+エア
                 (後) マルチリンク+エア 
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前後)  275/35R22
車両本体価格  未定

■ボルボXC90 B5 AWD
駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4953×1923×1771mm
ホイールベース  2984mm
車両重量 2080kg
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ+モーター
圧縮比 11.5:1 
排気量 1969cc 
最高出力(モーター) 250ps/5400-5700rpm(14ps)
最大トルク(モーター)  360Nm/2000-4500rpm(40Nm)
トランスミッション 8段AT
サスペンション(前)  ダブルウィッシュボーン+コイル
                 (後) マルチリンク+リーフ 
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前後)  275/40R21
車両本体価格  未定

(ENGINE2025年1月号)

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