2025.01.11

CARS

GRスープラA90ファイナル・エディションとレクサスRZ 300e レクサスとGRがもたらす、2台持ちの新しい世界

初夢のような2台持ちペア、レクサスRZ 300eとGRスープラA90ファイナル・エディション。

全ての画像を見る
クルマ好きなら誰でもが憧れる2台持ちの世界。理想のペアを語り始めたら、一晩でも尽きそうにないけれど、たとえば、こんな2台があったらどう? という初夢の提案です。

もし2台持てるなら、どんな組み合わせにするか。理想のペア選びは、クルマ好きにとって悩ましくも楽しい永遠のテーマだ。



たとえば、ガレージに最新の4ドアSUVと2ドアのオープン・スポーツカーを並べたいという、王道を往くクルマ好きもいるだろうし、1台はクラシック・カー・ラリーに出られるような旧車を所有しながら、その横には最新のフル・エレクトリック・カーを置いてみたいという新旧取り混ぜ志向のクルマ好きもいるかもしれない。あるいは、まったく同じ車名のクルマを初代と最新で並べてガレージに収めてみたいなんていう惚れ込んだら一途な浮気とは無縁のクルマ好きもいるに違いない。

クルマ好きの数だけ理想のペアがあるのはもちろんとして、それどころか、一人のクルマ好きの欲望もひとつのペアでは収まらないくらいに深くて大きいから、クルマ好きの何倍もの数の理想のペアが、あたかもシャボン玉のように、クルマ好きたちの巨大な共同幻想の世界に浮かんでいるということになる。



そんな中で、ここではお正月にちなんで、正夢になるかも知れない初夢としての2台持ちの姿を描いてみたい。今月号の表紙にもなっているレクサスRZ300eとGRスープラA90ファイナル・エディション。レクサスでは初となるフル・エレクトリックSUVと、これが現行型のGRスープラとしては最後のモデルとなる内燃機関を持ったピュア・スポーツカーという組み合わせである。

しかも、この2台を単純に自宅のガレージに並べるのではなく、RZは日常使いのクルマとして常に手元に置いておくけれど、スープラは思い切り走りを楽しめるような特別な場所に保管しておき、休日にそこへ出かけて走りを満喫した後、再びRZで自宅に戻るという、2台持ちの楽しみ方を想定してみた。



ロケ地に選んだのは千葉県南房総市にあるTHE MAGARIGAWA CLUB。2023年8月にオープンした、世界のどんなサーキットにも似ていない全長3.5kmの本格的なロード・コースを持つ会員制ドライビング・クラブだ。

自然な感覚の走りのRZ


休日の朝一番、ガレージからクルマを出す時に一番気になるのは音だ。エンジンの始動時には、どうしても回転数が高くなるので、近所迷惑にならないように音に気を使いながら慌てて走り去ったなんて経験が誰にもあるのではないか。住宅街を抜けて幹線道路に出るまで、ずっと落ち着けないまま過ごすことになる。



しかし、電気自動車ならば、むろんそんなストレスとは無縁だ。ボタンを押してシステムを起動させたら、そのまま無音で走り出せる。今回、RZ300eで早朝の都内の住宅地を出発して、つくづくこれは電気自動車の大きなメリットだと再認識した。もし、GRスープラで出かけていたら、こんなにゆったりした気分ではいられなかっただろう。

ドライバーを中心として、視線移動やスイッチ類の操作が自然に行えるように徹底して考え抜かれたコクピット。


いや、ゆったりしていたのは気分だけではない。実際に車内の空間がすこぶる広くて、文字通りゆったりとくつろぐことができるのだ。専用プラットフォームを持つ電気自動車の大きなメリットは、ロングホイールベースにすることで、それをそのまま室内空間に生かせる点だ。ギアボックスやプロペラシャフトのために室内が圧迫されることがないから、足元が広々としていて、とりわけ後席は高級サルーンなみの特等席となっている。

前席のシートはゆったりした中にも適度なホールド感を持つ。

そして、音が静かなのは外に対してだけではなく、室内も同じだ。電気自動車はエンジン音や排気音がないため、かえって風きり音やロード・ノイズが大きく聞こえて不快な場合がある。しかし、レクサスはそのあたりは抜かりなく、初めてつくった電気自動車とは思えないくらいにしっかりと余計な音が消されていて、走っていることを感じるのに必要な程度のロード・ノイズや走行音だけが自然に耳に入るようになっていた。



運転していてとても気持ちがいいのは、聞こえてくる音もそうだが、それ以上にまずクルマの動きがとても自然だからというのが大きいと思った。RZは骨格がとてもしっかりしていてボディ剛性が高いことが運転していて感じとれる。ステアリング操作に対するクルマの動きが急すぎず遅すぎず、ちょうど自然な感覚なのだ。脚は路面の状態によってはやや硬いと感じることもあるが、高速道路で速度を上げていくと、路面に吸いつくようなフラットな乗り心地になり、なるほど、欧州車のように少し高めの速度域に合わせ込んであるのだと納得する。先に登場した450eに対して300eは前輪駆動になっているが、高速安定性は抜群だし、追い越し加速でも十分以上に早いから特に不満は感じられない。



逆に駆動システムの軽量化のおかげで、一充電での航続可能距離がこれまでの494kmから599kmまで延びたというのだから、そのメリットの方が大きいかも知れない。もちろん、どんな使い方をするかによって、450eと300eというふたつの選択肢があることが重要で、使う地域によってはどうしても4輪駆動が必要だという人もいるはずだ……などと考えながら走っているうちに、2時間弱のドライブを終え、THE MAGARIGAWA CLUBに到着した。



サーキットで楽しめるスープラ


THE MAGARIGAWA CLUBの、まるで高級ホテルのエントランスとロビーを合わせたようなゴージャスなピットレーンで待っていてくれたのは、まだリリースが出ただけで、いつどんな形で発売されるかも公表されていないGRスープラA90ファイナル・エディション。マットブラックの精悍なボディを持つそのピュア・スポーツカーの横に、乗ってきたレクサスRZを並べて撮ったのがトビラの写真だ。初夢に出てきた自分のガレージというイメージである。



この車両はプロトタイプだったので、許されたのは撮影のみで試乗は叶わなかったが、メーカーの担当者が動かしての走りの撮影をさせてもらうとともに、チーフエンジニアの坂本尚之氏から、今回のファイナル・エディションの開発にまつわる話を聞くことができた。

アルカンターラを多用したレーシーな雰囲気満点のコクピット。


坂本氏によれば、2007年からモータースポーツ起点のクルマづくりを掲げてニュルブルクリンクを舞台に本格的なスポーツカーの開発に着手し、結果としてBMWの手を借りることになったものの、2019年に17年ぶりの復活を遂げた現行スープラは、GRブランドにとって大きな節目となる重要モデルなのだという。発売後もスーパーGTやGT4をはじめとする様々なモータースポーツのシーンで活躍し、多くのカスタマーに愛されてきて、すでに先代A80型スープラの生産台数を超える人気モデルになっている。その感謝の気持ちも込めて、最後に量販車としても改良型を出すとともに、象徴的なモデルとして少量生産ならではのこだわりを詰め込んだ1台を出すことにしたのが、このA90ファイナル・エディションというわけだ。

軽量かつ高剛性なレカロ製のカーボン・フルバケットシートのシートパッドは左右で赤と黒に分けられており、運転席まわりは赤で統一されている。


実を言うと、現行スープラはBMWとの共同開発なので、A90というのは愛称であって正式なコードネームではない。しかし、それをあえて正式な車名に入れたところに、スープラというスポーツカーに対するトヨタGRの矜持が感じられる。

開発の狙いは明確だ。モータースポーツのシーンで活躍してきたことを受けて、まずはサーキットで楽しめるクルマをつくることに主眼を置いたという。とはいえ、GRが開発するからには一般道でもしっかり走りを楽しめるように作りこんだ、とも付け加えていたが。



具体的に狙いを実現する中で重視したのは、GT4やスーパー耐久で鍛えられて学んだボディ剛性、シャシー剛性の強化、そしてエアロダイナミクスの性能を高めることだ。床下にブレースを追加したり、ブッシュをピロー化するなど、基本骨格をつくり上げた上で、吸排気系とECUを変更してエンジンの最高出力を387psから435psへ、最大トルクを500Nmから570Nmへと大幅にアップさせている。さらに前後ともにレーシングカーさながらのエアロパーツを装着して、空力性能を高めていることは見てわかる通りだ。

スワンネック式リアスポイラーもカーボン製だ。


そのほか、GT4車両が装着しているKW製サスペンションの採用、冷却系やブレーキの強化、レカロ製カーボン・フルバケットシートの装着による軽量化など、できることはすべてやってきた感がある。その結果、どのくらい速くなったのか、数字で示せないかと尋ねたら、正式なタイムアタックではないけれど、という前置きつきで、こんな答えが返ってきた。

マット・ブラックのホイールの奥にブレンボ製の大型ブレーキ・ディスクとキャリパーが覗く。

「富士スピードウェイでの改良型スープラのラップタイムが1分55、56秒くらい。ファイナル・エディションが52秒を切るくらいじゃないか、という感じです」


スリック・タイヤを履いたスーパー耐久のGT4車両が1分46秒か47秒くらいというから、ふつうのラジアル・タイヤで51秒台というのは、相当な速さだと言っていいだろう。

3リッター直6ターボは吸気経路の見直しやコンピューター制御の最適化で387psから435psに増強。

いったい、どんな走りを見せてくれるのか。ぜひとも早く乗ってみたいものだが、現時点では世界での限定台数が300台ということ以外、価格も日本での発売がどうなるのかも発表されていない。とはいえ、これが夢で終わることはないはずだ。



さて、GRスープラA90ファイナル・エディションの取材を終えた私たちは、その間に充電を済ませたRZ300eに乗り込み、THE MAGARIGAWA CLUBを後にした。帰り道は手伝いにきてくれた編集部の後輩に運転を頼んで、私は助手席に座りながら、いろいろな思いを頭の中に巡らせていた。

最後のスープラと新時代を切り拓くレクサスの電気自動車。やっぱりこれは、なかなか素晴しいペアなんじゃないか。そして、走りを楽しむ1台をクローズド・コースのある施設に置いておくという2台持ちの楽しみ方も、今後はもっと増えるだろう。むろん、私にとっては初夢で終わる話になりそうだけれど……。

文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬 取材協力=THE MAGARIGAWA CLUB

■GRスープラA90ファイナル・エディション
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4380×1865×1275mm
ホイールベース 2470mm
車両重量(EU値)  1528kg
エンジン形式 自然吸気直列6気筒DOHC
排気量 2997cc
ボア×ストローク 82.0×94.6mm
最高出力 435ps/6500rpm
最大トルク 570Nm/3000rpm
トランスミッション 6段マニュアル
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前)265/35ZR19、(後)285/30ZR20
車両本体価格(税込み) 未発表

■レクサスRZ300e
駆動方式 フロント電気モーター前輪駆動
全長×全幅×全高 4805×1895×1635mm
ホイールベース 2850mm
車両重量(EU値) 1990kg
モーター 交流同期電動機
電池種類 リチウムイオン電池
総電力量 71.40kWh
最高出力 203.9ps
最大トルク 266Nm
トランスミッション eアクスル
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ (前後)235/60R18
車両本体価格(税込み) 820万円(version L)

(ENGINE2025年2・3月号)

無料メールマガジン会員に登録すると、
続きをお読みいただけます。

無料のメールマガジン会員に登録すると、
すべての記事が制限なく閲覧でき、記事の保存機能などがご利用いただけます。

いますぐ登録

タグ:

advertisement

PICK UP



RELATED

advertisement