多彩なスーパースポーツカーを用意するマクラーレンの中にあって、少々異彩を放つのが「GT」のふた文字を戴くモデルだ。その最新版にして、侮れない実力のニューカマー、GTSを試した。
本格的なロードカー生産に乗り出して以来、マクラーレンのモデル攻勢には目を見張るものがある。とくに、スポーツ、スーパー、アルティメットというシリーズ分けが確立されてからは、それぞれのキャラクターが明確になった。端的に言えば、スポーツ・シリーズは万人向け、スーパーはサーキット走行も楽しむジェントルマン向け、そしてアルティメットはマクラーレンの技術を結集したハードコアなモデルという構成だ。
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そして、それとは別に、マクラーレンの持つスポーツ性能を維持しながら、グランドツーリングがこなせるスーパースポーツも用意されている。それが「GT」モデルである。
2019年に発表、発売されたマクラーレンGTは、ブランドの基本骨格であるカーボン・モノコックをはじめ、脚まわりやパワー・ユニットに至るまで、当時のスーパー・シリーズの代表格であった720S(現在は750Sに進化)と基本を共有するモデル。2シーターのスーパースポーツであることに変わりはないが、ほかのモデルと一線を画すのが、そのデザインとパッケージングである。
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マクラーレンのロードカーで特徴的な、ルーフからリア・エンドにかけての空力処理“フライングバットレス”はGTでは鳴りを潜め、代わりにリア・エンドまで流れるようなガラスで覆われている。これがハッチゲートの役割を果たし、ミドシップに搭載されるエンジンの上部にラゲッジスペースを確保しているのが最大の特徴で、その容量は420リッター。フロントにも150リッターの荷物スペースが確保されており、機内持ち込みサイズのスーツケースなら2個収納可能。前後合わせれば、2人分の2泊3日程度の旅行荷物を楽に積み込めるだろう。リアには小ぶりなゴルフ・バッグの積載も可能というから。スーパーカー+ゴルフという新たなスタイルも実現できそうである。
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そしてそのGTの進化版として登場したのがここで紹介するGTSである。基本コンセプトや設計はそのままに、各部のブラッシュアップを実施。主な変更点は、フロント・エンドのデザイン変更、バンパー下部のエア・インテークの大型化、リア・フェンダーへのエアスクープ追加が挙げられる。これにより空力性能の向上と冷却性能の強化が図られている。
そのフレッシュエアが送られる4.0リッターV8ツインターボは、点火時期の最適化などにより、先代比で15psアップの635psを獲得。630Nmトルク値に変更はないものの、日常域でも扱いやすい特性は受け継がれている。グランドツーリング・カーでありながら、パフォーマンスの追求を決して怠らないのは、やはりマクラーレンの流儀といえるだろう。
デキるクルマの余裕実際、GTSはどんなシーンでも所期の性能を存分に発揮する、驚くほどフレキシブルなクルマだった。
たとえば通常のパワー&シャシー・マネジメントのままでも余裕でスポーツドライビングを楽しめるが、スポーツやトラック・モードに切り替えれば本領発揮。エンジンやギアボックスのレスポンスは鋭くなり、脚まわりも引き締まって、ミドシップならではの、オンザレールでの高い旋回性と俊敏なフットワークが楽しめる。
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また一方でコンフォート・モードを選べば、脚まわりはしなやかさを取り戻し、波間を漂うような優雅な乗り心地に身を委ねられる。
ガラスで囲まれたキャビンからパノラマの景色を堪能できるのもGTSならではの魅力だ。
都内へ戻る高速では、適度な硬さを残した脚まわりがリズミカルに路面の凹凸をいなし、流れるように交通のリズムに溶け込んで、ときには軽くリードしながらスムーズに走ることも可能だ。こうした柔軟な走りができるから、グランドツーリングも疲れ知らずでこなすことができるだろう。
「S」が付されたからといって劇的な変化や進化が見られたわけではないが、磨かれたしなやかな走りとともにピュアなスポーツドライビングも全くストレスなく楽しめるのがGTSというモデル。パッケージングの巧さとも相まってライフスタイルの幅を広げてくれるのは間違いなく、着実なブラッシュアップを重ねて、末長くマクラーレンの屋台骨を支えて欲しいと思う一台である。
文=桐畑恒治 写真=望月浩彦
■マクラーレンGTS
駆動方式 ミドシップ縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4683×2045×1213mm
ホイールベース 2675mm
トレッド 前/後 1663/1617mm
乾燥重量(車検証記載前後軸重) 1485kg(前640/後880kg)
エンジン形式 V型8気筒DOHC32Vツインターボ
総排気量 3994cc
ボア×ストローク 93.0×73.5mm
エンジン最高出力 635ps/7500rpm
エンジン最大トルク 630Nm/5500-6500rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前後 ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(カーボン)
タイヤ 前/後 225/35R20 90Y/295/30R21 102Y
車両価格(税込) 2970万円
(ENGINE2024年4月号)