レーシングカーやチューニングカーの設計、開発者として知られる伝説的なエンジニアの解良喜久雄さんが、マイカーとしてルノーのアルカナ E-TECHフルハイブリッドを購入したという。解良さんはいったいどんな理由でアルカナを選んだのか。モータージャーナリストの藤原よしおがリポートする。
すごく気に入っている!「クルマを買おうと思ってるんだけど、ルノー・アルカナってどうかな?」

電話の主は、日本を代表するレース・エンジニアとして国産F1マシン、コジマKE007、KE009をはじめとする数多くのレーシングカーの設計、開発を手がけたほか、日本初の公認チューニングカー、トミーカイラ・シリーズを開発。さらにはオリジナル・スポーツカーのトミーカイラZZ、ASLガライヤの生みの親としても知られる解良喜久雄さんだった。

電話をもらったのは昨年秋のこと。ちょうどアルカナ・エスプリ・アルピーヌ試乗会の1週間ほど前だったので、かつて試乗した記憶から良いクルマであること、そして試乗会の後で改めて感想をお話しすることを約束して電話を切った。

試乗会当日。実際に乗って改めて良いクルマであることを確認し、早速解良さんに電話をすると「もう注文しましたよ。今納車待ち。来たらまた連絡しますよ」との返事が。その数週間後、解良さんから届いたメールには、すごく気に入っていること、早速足回りに手を入れようと計画していることなどが綴られていた。

それから数ヶ月が経った冬晴れの京都市郊外。解良さんはブラン ペルレMと呼ばれるホワイトに彩られたアルカナに乗って現れた。すぐ目についたのは、黒いWork製の10スポーク・アルミホイールで、ノワール メタルMのルーフカラーとも合っていてカッコいい。

「仕事柄、これまで自分のクルマでもいろんなことを試してきました。前に乗っていたクルマはタイヤとホイール変えたくらいだけど、アルカナは最後のクルマだと思って、ちょっと遊ぼうかなって」
そう言って解良さんは笑う。しかしながら、なぜ解良さんは数あるクルマの中からアルカナを選んだのだろうか?

「他にも色々なクルマを検討したんだけど、まずはデザイン。クルマを選ぶ時は、なにはともあれカッコいいデザインであるのが大事だね。もうひとつはアフターサービス。ルノー京都の対応がしっかりしているのが良かった。輸入車はそれが大事だからね。あと輸入車を選ぶ理由のひとつはシート。アルカナは座り心地もそうだけど、ペダルとの位置関係もいい。僕は左足ブレーキを使うから、あまり配置がオフセットし過ぎていると具合が悪いんです」
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選んだ理由はそれだけにとどまらない。
「今78歳なんだけど、娘に“免許返納したら?”って言われたんですよ。乗るなら安全なクルマ、運転支援システムが充実したのにしたらってね。あと女房には“小さいのにしたら”っていわれたんだけど、小さいと乗り降りしづらいしね。そういう意味でアルカナは大きさ的にも良いし、アクティブエマージェンシーブレーキとか360°カメラとか、運転支援システムが充実してるのも良かった」

そしてもうひとつの決め手になったのが、アルカナのE-TECHフルハイブリッドだと解良さんは言う。
「例えば前に乗っていたクルマは、デュアルクラッチトランスミッションを自分で体験したくて買ったんです。そういう意味で今回はハイブリッドの新しいのに乗ってみたかった。ハイブリッドを買うのはこれが初めてなんですよ」

「PHEVもいいんだろうけど、僕の場合、燃費よりもF1の技術を活かしたシステムとか、それをどう乗るのが良いか? というのに興味がある。だから今もスポーツモード、エコモード、そしてギヤもオートマティックとマニュアルモードを色々試しながら乗っています。エコモードにするとブレーキペダルを踏まずにワンペダルで操作できるくらい回生が効くし、スポーツモードもそこそこ速い。それで燃費も特に気を使わずに16~17.5km/リッターくらい走るんだから良いよね。トランスミッションはドッグクラッチっていうけど、あんま感じないな。というか問題なくスムーズですよ」

解良さんのインプレッションは実に明確でわかりやすい。それもそのはず、解良さんはエンジニア、メカニックでもありながら、1970年のJAFグランプリ、フォーミュラ・ジュニア・レースで3位、全日本富士1000kmレースR1クラス優勝、日本オールスターレース、フォーミュラ・ジュニア2位。さらに1975年のF2000(今のスーパーフォーミュラに当たる日本のトップ・フォーミュラ)富士フォーミュラチャンピオンレースでも見事3位入賞を果たしたという腕前の持ち主であるのだ。

「アルカナにパッと乗ってみて、最初に気になったのはタイヤ。ちょっと表面的にゴツゴツする感じでね。僕はずっとブリヂストンかミシュランのタイヤを使ってきたからミシュランのクロスクライメートに換えました。空気圧はフロント2.4kg、リア2.2kg。純正よりちょっと低いんだけど、色々やってみた結果、これが一番しっくりくる。サイドウォールの剛性も高くて、換えたら好みのフィーリングになりました。あとこの前京都で雪が降ったけど。雪道でもいいんだよ。前輪駆動だけどまったく問題ない。ちゃんとグリップしてくれる。走り出しがモーターでしょ。それもいいのかもって思ったね」

足元を引き締めるWork製EMOTION ZR10アルミホイールを換えたのも、タイヤと同じタイミングなのだが、そこにはこんな意図があった。
「日産用のものとPCDが合うんです。とにかく一番軽いのをとオーダーしたら、ホイールとタイヤで1本当たり5kgも軽くなった。これは正解だったね。4本でバネ下が20kg軽くなるのは大きいですよ」

そのうえで解良さんは、さらにセッティングを煮詰めようと、サスペンションのスプリング交換も試したという。
「ノーマルサスにこのタイヤ&ホイールの組み合わせは悪くない。ただ僕としては、もうちょっと車高を下げた方がカッコいいと思う。そこでEibach(アイバッハ)のアルカナ用のスプリングを組んで40mm車高を下げてみた。確かに格好は良くなったんだけど、リアが40kg軽いマイルドハイブリッド用だったから、段差なんかで峰打ちしちゃうんです。そういう意味では純正のサスペンションは良くできているんです」
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という通り、現在は純正のサスペンションに戻したという解良さんだが、ほかに策がないか日々考えるのが楽しいと話す。
「何かできないかって、ずっと考えてますよ。そうそう、アルカナってブレーキがすごくいいんです。感覚的にクッと後ろが沈み込む感じがする。何も変えてないけど、前後バランスを含めて効き方がちょうどいい。だから車高下げたらもっと良くなると思うんだよね」

では他に気になる部分はあるのだろうか?
「僕は昔からずっと左足ブレーキを使っているんですが、左足で踏んでいると、ブレーキを残しながらアクセルを踏むというような時に、一瞬エンジンが吹けなくなる感じがある。制御が入るんだろうな。こればかりはどうしようもないから、慣れるしかない。そのあたりは逆に安全対策がしっかりしている証拠だね。まぁ何か足りないところ、気に入らないところがあれば変えてみればいいんです。それは昔から厭わない。レーシングカーもロードカーも求めるものが違うだけで、考え方は一緒ですよ」


取材に訪れた日も、林みのるさんが童夢を設立前に開発したフォーミュラカー、マクランサ・パニックを作った時から50年来の付き合いというエンスージァスト、山中信博さんとアルカナを前に色々なアイデアを話していた解良さん。
「昔からやってることは何も変わらんね」と笑うが、それこそが若さと元気を保っている最大の秘訣なのかもしれない。
文=藤原よしお 写真=望月浩彦
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