内田 誠氏が社長を退任。後任としてイヴァン・エスピノーサ氏がその座に就き、日産のかじ取りを行うことになった。この交代劇により日産は本当に生まれ変わることができるのか? このような状況に陥った原因と今後の動向をモータージャーナリストの国沢光宏氏が解説する。
まずは原因を分析しなければ日本の良さであり、欠点でもあるのが「引退したり他界した人の批判はしない」。海外だと失敗した人に対する批判は現職から去った後でも止まない。なぜか? 現在進行形で失策を続けている現役に対し「引退したら厳しい日々になるぞ!」というプレッシャーを掛けられるからだ。検証だって必要。日産の経営状況をここまで酷くした「内田体制失敗の原因」を分析しなければならない。事故は「調査」をしなければ次の事故を防げないですから。
日産低迷の理由日産低迷の理由は何か? 簡単に言えば「自動車メーカー・トップの資質がなく、しかも決断力やリーダーシップ無い社長と、これまた自動車ビジネスのことが全く解らないけれど猛烈な自己主張をする星野さんという副社長、さらにはこの2人を助け、無事コレ名馬作戦を決め込んだ開発と生産を担当する中畔副社長と坂本副社長の責任」です。
解りやすく説明すると、明らかに危険な運転をするドライバーを見て、内田さんは「どうしていいか解らない」。星野さんは「怒鳴ってばかりで、しかも間違った運転を強要」。だったらヘタでも安全に走れるクルマを作る担当の中畔さんは「どうやったら安全になるか?」を考えているだけ。坂本さんは「面倒くさい」とその状態を是正しようとせず。ダメだこりゃ、です。
そもそも内田さんが社長になった当時の状況を考えると、日産は混沌としていた。ゴーン氏の逮捕で右腕だった西川さんが社長に横滑り。その西川さんも悪事発覚で飛ぶ。次の社長をどうしようとなった際、日産をコントロールしようとしていた皆さんは「考えている時間も根回しをする時間もない。この人なら言うことを聞くだろう」。リーダーシップを持つ関潤さん(現、鴻海精密工業グループ電気自動車事業最高戦略責任者)はエリミネートされた。
内田さんは記者会見で「社員からの批判が激しかった」ということを言った。さもありなんである。
イヴァン・エスピノーサさんで再興できるかさて。イヴァン・エスピノーサさんの社内評価はけっこう高い。日産をダメにした4人をバッサリ切ることで再興できるだろうか?
日産に潤沢な資金があり、無かったとしても借金可能であれば自力で業績回復も十分ありえる。しかし現状を見たら日産の状況は極めて悪い。
内田退陣を伝える報道を見ると、相当の権威や影響力を持つメディアであっても自動車のことを理解できていないように思う。確かにJALが破綻した際、経営陣の交替で急激に業績は回復した。飛行機は毎日飛んでいるため、カイゼンすればその日から効果が出る。一方、自動車産業はそうもいかない。そもそも新しい体制でクルマ作りをしても、開発中の新型車を出すまで2年近く掛かってしまう。
トレードもできないで戦う野球チーム新規開発であれば超特急で3年。評判の悪いデザインを変えるのも3年掛かる。それまでの間、現在の戦力(車種)で戦わなくちゃならない。期待の新人なし。トレードもできないで戦う野球チームのようなもの。ドジャースの正反対だと思えばいい。加えて予算なし。現時点で1兆3千万円のキャッシュフロー/手持ち資金があるというが、2026年に償還しなければならない社債(借金)は8千億円。
ルノーにも現在供託されている日産の株式4000億円分を近々払わなくちゃならない。これで1兆2000億。そして2024年度は800億円の赤字予想なので、遠からずキャッシュフローは無くなる。健全な企業なら社債などで借金することも可能ながら、投資家が社債を買う際に参考とする「格付け」も、今や「ジャンク級」や「投資不適格」。ここまで酷い財政状況だと誰も買わない。
その上で、トランプ2.0である。円高傾向になると赤字額は雪だるま式に増え、アメリカに多くの完成車を輸出しているメキシコに25%の関税が掛かれば販売台数落とす。関税から逃れるためメキシコや日本の工場をアメリカに移転させようとするなら、巨額の投資が必要。その上で魅力的な新型車を開発するための予算を計上しなければならない。将棋だったら「投了ですね」状態。
今後どうなる? やはり日産をバックアップする企業は絶対必要。平たく言えば借金の保証人です。様々な企業が上がっているけれど、工場などアセットだけ必要な企業の手に渡れば、10年すると日産は無くなってしまう。自動車好きにとって嘆かわしいこと。できれば「お金と人事と財務」だけ口出しをするようなジェンルマンの企業がホワイトナイトになって欲しい。やっぱりホンダですね。

文=国沢光宏
(ENGINE WEBオリジナル)