今年も乗りまくりました2025年版「エンジン・ガイシャ大試乗会」。各メーカーがこの上半期にイチオシする総勢33台の輸入車に33人のモータージャーナリストが試乗!
渡辺慎太郎さんが乗ったのは、フォルクスワーゲン・ティグアン、アルファ・ロメオ・ジュリア、メルセデスAMG E 53ハイブリッド、ヒョンデ・アイオニック5、フィアット600eの5台だ!

フォルクスワーゲン・ティグアンeTSI Rライン「すべてにおいて盤石」VWのティグアンはいまや、VWでトップの販売台数を毎年のように叩き出す屋台骨である。そういうクルマを「作り続けること」は想像以上に難しい。いったんトップを獲ってしまうと、絶対に失敗できなくなるからだ。

そんなプレッシャーを背負った新型ティグアンは、それでもすべてにおいて盤石だった。
ダッシュボード中央部には15インチのディスプレイが鎮座しており、ディスプレイに格納するものと、機械式スイッチとしてダッシュボードに残すものが整理され使い勝手は全般的によくなっていた。
乗り心地が上質になっているのは、DCC Proと呼ばれる電子制御式ダンパーの効果もある。伸び側と縮み側それぞれにバルブを持ち、任意で15段階もの減衰力が設定できる。MQB evoのアーキテクチャとなり、体幹はさらにしっかりしてサスペンションはよく動き、加減速やコーナリング時の路面の追従性も文句ない。

マイルド・ハイブリッドは十分な動力性能と省燃費を両立している。まさしく“継続は力なり” な1台。
アルファ・ロメオ・ジュリア・クアドリフォリオ「アルファの本当の乗り味」ジュリアのみならずジュリアのクアドリフォリオにも乗るのは、前回がいつだったか思い出せないくらい久しぶりだった。媒体からの要請で試乗するのは、ステルヴィオやトナーレのほうが圧倒的に多かったからだ。

そのせいで、身体に馴染んだアルファの乗り味はすっかりSUVに上書きされてしまっていた。
でもジュリアに乗ったら、クラッシュしたデータを掘り起こしてくれたかのように、アルファの本当の乗り味の記憶が蘇ってきた。

ステアリングを切ると、先読みしていたかのように間髪いれず向きを変え始めるゲインの高さや、しっかりとトラクションのかかった後輪が後ろからグイグイと押してくる“FR万歳” みたいな感触とか、細かいコントロール性はイマイチでもガツンと踏めば圧倒的な制動力を見せるブレーキとか、もはや古典的とも言えるけれどそれが許されるダッシュボードの風景とか、とにかくすべてが潔い。そしてこれこそがアルファ・ロメオの真骨頂である。時代に迎合せず、ずっとこのままでいて欲しい。
メルセデスAMG E 53ハイブリッド・4マチック・プラス「普段はジェントルに」現在のAMGは数種類のパワートレインを持っていて、それぞれに特有の個性が与えられている。爆音をまき散らしながら怒濤の加速を披露するような昔のイメージを踏襲しているのは主に“63”。

“53”にも最高出力が612psまでアップする「RACE START」機能や、サーキットでのラップタイムやテレメトリーが表示できる「AMGトラックベース」など血気盛んな装備があるものの、普段はジェントルに走れるセッティングになっている。
加えてこのE53はPHEVでもある。満充電なら最大101kmのEV走行距離が確保されているので、爆音どころか静々と走ることすら可能となる。2.4トン超えの車重は重厚感をもたらし「Comfort」モードでは乗り心地も快適だ。

同時に通常時は柔らかく、スポーティな走行時は硬くしてエンジンの動きを抑え込む可変式エンジンマウントがいい仕事をして、快適性と操縦性の両立を実現している。以前、本誌にEクラスはドライバーズ・カーだと書いたけれど、AMGになってそれはさらに際だっていた。
ヒョンデ・アイオニック5ラウンジ「ベースがきちんとしている」ヒョンデのクルマに乗っていつも思うのは、「クルマ屋が作ったクルマ」ということである。
BEVを中心に新しい自動車メーカーが続々と誕生していて、どれも悪くはないのだけれど、走る・曲がる・止まるの基本性能のどこかにちょっとした不穏な動きがあったりする。ヒョンデはこの基本性能がしっかりしていて、そういう部分においては安心してステアリングを握っていられるのである。

アイオニック5Nという、ニュルブルクリンクで鍛えたなんてスポーティなモデルが用意されているのも、ベースのアイオニック5がきちんとしているから実現できたに違いない。
内外装も走りも動的/静的質感が高く価格もリーズナブルで、アイオニック5は商品力の極めて高いモデルである。

ただ、韓国料理も韓国コスメも韓流ドラマもK-POPも大好きな日本人は、どういうわけか韓国車に対してだけは距離を置く傾向にある。車内でハットグなんかを食べながらBTSでも聴いたら、アイオニック5の印象も少しは変わるかも。
フィアット600eラ・プリマ「すっかりイタリアン」フェラーリ本社へ行った際、エラい人専用の駐車場がフィアット500Xだらけで驚いた。
フェラーリに勤めている人はみんなフェラーリに乗っているはずもないのだけれど、跳ね馬を誰よりもよく知る彼らの日常のアシとして、500Xは認められていたのだろう。

そんな “跳ね馬御用達” の500Xの後継者的存在が600で、600eはそのBEVモデルである。
600eを魅力的と感じる人は、きっとそのスタイリングに惹かれているに違いない。500をふくよかにした格好からは、イタリア出身であることがきちんと伝わってくる。インテリアの造形もドイツ車や日本車では絶対にお目にかかれないもので、走り出す前にすっかりイタリアンな雰囲気に洗脳されてしまう。

走り出した後も、もしこのクルマがジープ・アベンジャーと中身が一緒だと知らなかったら“イタリアン脳” のまま幸せに過ごせたかもしれない。両車の乗り味が似てしまったのは600eのせいではない。アベンジャーを4WDにして、もっとジープらしくするべきだと思う。
「挑戦するからこそ」渡辺慎太郎から見た、いまのガイシャのここがスゴい!いまのガイシャがスゴイと感じてしまう理由のひとつには、いまのニホンシャがあまりスゴくないからではないかと思っている。
BEVだけにするとかしないとか、自動車メーカーはさまざまな国や地域や市場の事情や都合にいまだ翻弄されている。
そんな混沌とした中にあっても、外国メーカーは技術開発に果敢に挑み、世界初の装備や他に類例を見ないニュー・モデルなどを精力的に世へ送り出している。

翻って日本のメーカーは、よく言えば事態を冷静に分析しているように見えるが、悪く言えば失敗を恐れて挑戦することを避けているようにもうかがえる。日本のメーカーは失敗を忌み嫌う。それが日本車の信頼へつながったのかもしれないが、外国メーカーは失敗するととっととそれを引っ込めて、何もなかったかのように次の一手を繰り出して信頼を勝ち得ている。
挑戦は人をワクワクさせ、それがうまくいったときに「スゴイ」と称賛されるのだ。
文=渡辺慎太郎
(ENGINE2025年4月号)