2025.07.18

CARS

ロールス・ロイスがクルマ好きの聖地、グッドウッドに本社と工場を移転した理由とは?

ロンドンから南西にクルマで約1時間半。クルマ好きには、フェスティバル・オブ・スピードが毎年開催されることで知られるウエスト・サセックス州グッドウッドに、ロールス・ロイスの本社と工場がある。

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ブラック・バッジ・スペクターの国際試乗会が開かれたバルセロナに向かう前に、ロールス・ロイスの本社と工場がある英国グッドウッドを訪ねる機会を得た。2003年の開設以来、進化し続けるその施設は、さらなる変革を遂げようとしていた。

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ロンドンから南西にクルマで約1時間半。クルマ好きには、フェスティバル・オブ・スピードが毎年開催されることで知られるウエスト・サセックス州グッドウッドに、ロールス・ロイスの本社と工場が開設されたのは2003年のことだ。チェシャイア州(アリスのチェシャ猫の由縁の地!?)のクルーにあった施設を、袂を分かったベントレーに譲り、移転先としてこの新天地を選んだ理由はふたつあった、と広報担当者が見学前夜の会食時に教えてくれた。ひとつは、ここがクルマ好きの聖地であること。そして、もうひとつは、ロンドンから通える距離にあるのに加えて(クルーはロンドンからクルマで約3時間半)、まわりに工科大学などもあり、優秀な人材を集めるのに適していたからだという。



そういえば、サウサンプトンやポーツマスといった港町も近く、高級ヨットの製造工場があり、その内装を手がける古くからの職人が多くいることも、この地を選んだ大きな理由だと、昔、聞いたのを思い出した。ロールス・ロイスのような超高級車には、機械技術以上に、ウッドをふんだんに使った内装を仕上げる熟練の技が求められるという話だった。



で、きっと、この道何十年という人間国宝のようなお年寄りの職人さんたちが沢山いるのだろうと想像しながら、翌日、工場に行ってビックリ。そこは昔ながらの自動車工場のイメージとはまるで違った、広大な敷地の中の緑と池に囲まれたウルトラモダンなファクトリーだったのだ。チリひとつ落ちていない白い床の上で働いている人たちも、想像していたよりずっと若かった。年配の職人さんはいないのかと首を傾げたら、「最初はそういう人もいたが、今ではもうその子供や孫の世代に移り変わっている」と苦笑されてしまった。

モデルによって太さが3~4mmに決められたコーチラインは熟練した職人の手によって、片側3時間以上かけて描かれる。

内燃機関モデルから電動モデルまで、すべてのロールス・ロイスはここでつくられているが、2003年には200人の従業員が1日あたり1台、年間299台を組み立てていたのが、今では2500人が1日あたり28台、年間5500~6000台を完成させるようになっているというから、様変わりするのも当然である。とはいえ、今でも圧倒的に手作業が多いのは、組み立てでも内外装の仕上げでも同じだそうで、たとえば、普通の自動車工場なら一カ所30秒くらいの製造ラインのタクト・タイムが、ロボットをほとんど使わないここでは、なんと32分もかけて動いているのだという。



一方、内装については、これまで長年にわたり「ウッド・ショップ」と呼ばれてきた部門が近年は大きな変革を遂げ、木のみならず、カーボン・ファイバーや金属、ラッカーなど、多様な硬質素材の加工にも精通したスペシャリストが集まる「インテリア・サーフェス・センター」と名称変更されているのだとか。コンピューターによるデザインも含めた最新技術と昔ながらの職人技を融合させた新時代のロールス・ロイスづくりが、どんどん進んでいるのだ。

そして、なんと2029年までに3億ポンド(約565億円)をかけて、現在の17万平米の敷地を2倍に拡大する計画をすでに発表している。ロールス・ロイス恐るべし、だ。

文=村上 政(ENGINE編集部) 写真=ロールス・ロイス・モーターカーズ

(ENGINE2025年6月号)

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