1955年創業のアルピーヌは70周年を記念し、新型車のA390を発表した。ハッチバックのA290に続く、市販BEVとして第2弾のクロスオーバー・モデルだ。
アルピーヌ史上初のSUV
車名は“3”がサイズ、“90”が日常使いできるマルチパーパスなモデルを示すとされるA390である。車体サイズは全長×全幅×全高が4615×1885×1532mm、ホイールベースは2708mmのCセグメント級だ。

最低地上高は152mmと、クロスオーバー・モデルとしてはやや小さめ。車両重量は2121kgで、前後重量配分は49:51。前1基/後2基のモーターと、89kWhのバッテリーを搭載する。アルピーヌとしては歴史上初めての4WDだ。

プラットフォームは、ルノーのEV部門であるアンペアが手掛けるアンプRミディアム。コンセプト・モデルのA390-βで予告されたとおり、前後と左右後輪のトルク配分をアクティブ制御し、A110のように俊敏な走りを目指した。

また、ブレーキはフロントにアルピーヌ初の6ポッド・キャリパーを採用し、365mm径のディスクと組み合わせている。
ラインナップは、ベーシック・グレードのGTと、高性能版のGTSを設定。

GTは最高出力/最大トルクが400ps/650Nm、GTSは470ps/808Nmで、0-100km/h加速と最高速度はGTが4.8秒/200km/h、GTSが3.9秒/220km/hに達する。急速充電は190kWに対応し、航続距離は520〜555kmをマークするという。
航続距離を左右する要因はタイヤで、GTが履く245/45R20のミシュラン・スポーツEVのほうが、GTSの鍛造ホイールと245/40ZR21のパイロットスポーツ4Sとの組み合わせより有利だ。

このほか、20インチのオールシーズン・タイヤである、クロスクライメート3スポーツも設定。タイヤはいずれも、A390専用設計である。

フロントはコズミックダストと呼ばれる、大気を貫く流れ星がモチーフのイルミネーションが特徴的。ノーズ先端には、ボンネット上へ気流を導くブレード形状を採用し、空力性能を高めた。
そのほかにも17度のルーフ角や、後輪への空気を整流するフラップなど、エアロ・ダイナミクスの追求は全身に及ぶ。8度の角度に設定されたディフューザーは、LMDh(ル・マン・デイトナh)マシンのA424にインスパイアされたものだ。

Cピラーには、A110同様にトリコロールのアクセントが入る。

キャビンは5シーター。ダッシュボードやディスプレイには、ルノーのメガーヌE-テックとの共通性を見出せるが、センター・コンソールにはA110のようなボタン式シフト・セレクターを備えるなど、アルピーヌ独自の設えとなっている。
フラット・ボトムのステアリング・ホイールは、リムにブルーのナッパ・レザーを使用。赤いボタンはオーバーテイクのためのブーストやローンチ・コントロール、青いダイヤルは回生レベルを選ぶためのもので、F1に着想を得ている。ブーストは、30秒のリチャージを行うと10秒、その後15秒経つとさらに5秒使うことができる。
走行モードは、サーキット向けも含めて5つで、出力のほか、トルクベクタリングやESC、トラクション・コントロールなどのセッティングを調整。ESCは、個別のボタン操作で完全オフとすることもできる。

フロント・シートは2タイプを用意。スタンダードな仕様は、アルカンターラなどを張ったヒーター付きスポーツ・シート、上級仕様はサベルト製のナッパレザー張りで、マッサージ機能も備える。オーディオは、フランスのデヴィアレが手がける850W・13スピーカーのシステム。荷室容量は、スポーティなクーペ・ルックでありながら532リットルを確保した。

生産は、モーターがアンペアのクレオン工場、アッセンブリーがアルピーヌ伝統のディエップ工場で行われる。受注開始は2025年第4四半期だが、導入記念モデルのプルミエールは、2週間早くオーダーをスタートする。
発表会では、ブルーのA390が、F1パイロットのピエール・ガスリーと、アルピーヌのアンバサダーを務める元サッカー選手のジネディーヌ・ジダンを乗せて登場。

また、A290とA390のほかに、もう1台のティーザー画像が公開された。その姿は、低い位置に4灯が輝く、A110のようなスポーツカーと思しきもの。パワフルな4発ターボのミドシップとの別れを予感させるとはいえ、新たなEVスポーツカーの全容も早く知りたい。クルマ好きとしては、複雑な心境だ。
文=関 耕一郎
(ENGINE Webオリジナル)