アストン・マーティンが、ハイパー・カーのヴァルキリーに、サーキット専用モデルの「LM」を10台の限定で設定した。LMは、もちろんル・マンの略だ。
専用のドライビング・テクニック上達プログラムも用意
ル・マン24時間を含むWECや、北米で開催されるIMSAの最高峰クラスは、完全自社開発マシンのLMHと、規定シャシーをベースとしたLMDhで構成されるハイパー・カーで、アストン・マーティンはLMHで参戦する。

LMHには市販車ベースとレース専用車のプロト・タイプが存在するが、市販車で参戦するのはアストン・マーティンのみ。もちろん、ベース車はヴァルキリーだ。
まもなく開幕するル・マン24時間で目指すのは、キャロル・シェルビーとロイ・サルヴァドーリがドライブした1959年のDBR1以来となる、総合優勝にほかならない。
LMHクラスのヴァルキリーは、コスワース製6.5リットルV12自然吸気を、リーンバーン化することでレギュレーションの出力制限である707psにチューニングして用いる。

今回発表されたヴァルキリーLMには、これと同じエンジンが、共通のパドルシフト式7段シーケンシャル・トランスミッションとともに搭載され、後輪を駆動する。

前後ダブルウィッシュボーンのプッシュロッド式サスペンションもレース用で、調整可能なサイド・ダンパーとセントラル・ダンパーを備える。タイヤはF1のサプライヤーであるピレリと、パフォーマンス志向の専用品を開発している。
その他の部分も、レースカーとの差異は最小限。ただし、バラストや、FIA規定関連の電装系などは装備せず、レギュレーションに適合するための電力供給を管理するドライブシャフトやインプット・トルクのセンサーもなくし、アマチュア・ドライバーにも扱いやすいよう調整。また、市販車であることを考慮して、一般的な燃料も使用できるようにしている。

いっぽう、コックピットのインターフェースはサーキット走行に最適化されており、ステアリング・ホイールにはドライバー用ディスプレイとシフト・ライトが組み込まれる。シートはカーボン製で、ショルダー・サポートとヘッドレスト・パッドを装着。サーキット専用車らしく、6点式のハーネスや消火装置も用意される。
耐久モータースポーツ責任者のアダム・カーター氏が、現在のWECとIMSAで戦っているマシンとほぼ同じものであることを強調するヴァルキリーLM。

エイドリアン・ホールマークCEOも「世界でもっともエクスクルーシブなアストン・マーティンのオーナーズ・クラブの一員となることのできる、極めて魅力的な機会です」と述べる。
納車は2026年第2四半期までに行われる予定だ。
このクルマを所有し、サーキットで思う存分走らせるだけでも、たしかに十分魅力的だ。しかし、さらにヴァルキリーLMを堪能できるよう、専用の能力開発プログラムも用意される。

マシンはアストン・マーティンによる保管とメンテナンスをはじめ、サーキットとの往復運搬や、現場でのセットアップなども手掛ける。ヘルメットやHANS、スーツ類なども付属し、走行前にはシミュレーターや座学でのプロによるコーチング、走行後はデータやオンオード映像の分析も行われる。
納車時には特別イベント、第3・第4四半期には、F1規格のサーキットで完全サポート付き走行会、12月にはゲイドンの本社におけるディナーも振る舞われるイブニング・イベントも開催される。すべて、運転手付きの送迎と宿泊が設定されているという豪華さだ。
同様のプログラムはフェラーリなどでも存在したが、レース直系のマシンでそれを味わえるというのは、格別な体験になるだろう。10人のオーナーに加わることのできる見込みすらない身としては、想像するほかないのだが。
文=関 耕一郎
(ENGINE Webオリジナル)