クラシカルなシーンにも、モダンな風景にもピタリと合う新型ルノー・キャプチャー。混み合う初夏の東京で、都市とクルマの関わりについて、フランスにゆかりのある建造物の前を次々と駆け抜けながら、その理由を探ってみた。
建造物を連想させる新型キャプチャー
マイナー・チェンジを受けたルノー・キャプチャーに対面した人は、まず顔つきが一新されたことに気づくだろう。

インポーターのルノー・ジャポンによれば、これまでルノー・ブランドのチーフ・デザイナーを務めてきたローレンス・ヴァン・デン・アッカー氏が、グループ全体を見る立場になり、代わりにプジョーからきたジル・ヴィダル氏がブランドのチーフ・デザイナーになったためだそうだ。

彼はルノーに入ると、ルノーのシンボルである菱型のロゴ・マーク、ロザンジュを刷新し、電気自動車として生まれ変わったルノー5(サンク)E-TECHエレクトリックを描いた。
かつてのサンクのエッセンスを受け継ぎながら、ノスタルジックに走らず、クールでポップなコンパクト・カーに生まれ変わらせた力量は、賞賛に値する。欧州カー・オブ・ザ・イヤー獲得も、デザインの力が大きかったはずだ。
モダンでアサーティブなデザインを目指したという新型キャプチャーの造形も、サンクE-TECHエレクトリックと共通することがあると感じている。動物的ではなく、むしろ建築を思わせるところはそのひとつだ。
思えばルノーには、そういうクルマが多かった。アッカー氏の前にチーフ・デザイナーを務めていたパトリック・ルケモン氏の作品は、僕が所有するアヴァンタイムを含めてそうだったし、4年前に逝去したロベール・オプロンもシトロエン時代とは明らかに違うタッチだった。


もちろん歴代のルノーのデザイナーが思い浮かべたのは、パリなどフランスの景観であるはずで、日本の都市に置いてどうなのかというと、ちょっと話が違ってくる。
とはいえ日本にも、フランスを感じさせる建造物はある。
フランスの建築家というと、スイス生まれのル・コルビュジエをまず思い出す人は多いだろうが、彼の弟子として前川國男、坂倉準三、吉阪隆正の3人が学んだことは知られているし、前川の事務所に在籍していたこともある丹下健三など、影響を受けた建築家は多いと言われている。


第二次世界大戦後、高度経済成長期に建てられ、現在も名建築と評価されているものの中に、ル・コルビュジエと直接的あるいは間接的につながりのあるものは、けっこう多いというわけだ。
「住宅は住むための機械である」という言葉で有名なル・コルビュジエは、自動車のデザインを提案したことでも知られている。時代に先駆けて、都市とクルマの関係を考えていた建築家のひとりとも言えよう。
一方でヴィダル氏が新型キャプチャーのデザイン・テーマに用いた“アサーティブ”は「調和を取りながら主張する」という意味を持つ。都市景観を乱さず、しっかり存在をアピールする建築物にも、この考え方は通じるところがある。
◆ルノー・キャプチャー・エスプリ・アルピーヌ・マイルド・ハイブリッドの詳しい情報はこちら
時代を超えた深さがある
そこで今回は、ル・コルビュジエの思想を継承する建造物を訪ねながら、今の東京を新型キャプチャーで移動してみたのだが、さすがだと思ったのは、都市の風景にしっとり溶け込みつつ埋没しない存在であったことだ。


パリに行くと、昔ながらの街並みの中にウルトラ・モダンな建造物が現れて、でも不思議と違和感はなく、クラシックとモダンがパリというひとつの世界の中で調和していることに感心する。
新型キャプチャーがモダンなスタイリングをまといながら、最新のビルだけでなく、ル・コルビュジエとつながりのある作品の前に置いても似合うのは、やはりフランスのデザインが、時代を超えた深さを備えているからだろう。

新たに設定されたエスプリ・アルピーヌもまた、景観を乱さない。コンパクトなBセグメントSUVに19インチのアルミ・ホイールは強烈な存在感をアピールするものの、それ以外はドアの前のロゴ・マークが控えめに主張するぐらい。スポーツシックというコンセプトのとおり、しっかり景観の一部になってくれている。
ではキャビンに身を置くとどうなのか。

マイナー・チェンジでセンターのディスプレイが大型化したその空間には、ステアリングにトリコロール、シートやセンター・コンソールなどにはブルーとホワイトのスティッチが入る。特別仕立てであることを伝えつつ、押し付けがましくないところに好感が持てる。

ブラックとブルーのグラデーション加工が施されたインパネ助手席側のパネルは、その象徴と言えるだろう。スポーツ・モデルだからといってカーボン・パネルにしないところにセンスを感じる。
高揚させる走りと、クールダウンさせてくれる室内
そんな新型キャプチャー、メカニズムでは独創的なフル・ハイブリッドE-TECHに加えて、マイルド・ハイブリッドが用意されたことが新しい。エスプリ・アルピーヌは両方のパワーユニットが選べ、それ以外にカジュアルなテクノをマイルド・ハイブリッドに設定している。今回乗ったエスプリ・アルピーヌもマイルド・ハイブリッド仕様だった。

同じハイブリッドを名乗ってはいるものの、E-TECHとマイルド・ハイブリッドは、メカニズムが全然違う。
E-TECHのメカニズムはいままでどおりで、1.6リットル直列4気筒エンジンに2基のモーターを組み合わせ、エンジン側にはドッグクラッチを用いた4段、メインモーターには2段のトランスミッションを用いるというものだ。

一方のマイルド・ハイブリッドは、1.3リットル直列4気筒ターボにアイドリング・ストップや加速アシスト、減速時のエネルギー回生を行うモーターを組み合わせ、7段のEDC(エフィシェント・デュアル・クラッチ)というデュアルクラッチ式自動MTを介して前輪を駆動する。
このクラスの輸入SUVは、ガソリンあるいはディーゼル・エンジン車、電気自動車が多く、ハイブリッド車は数少ない。ゆえにWLTCモード燃費では、E-TECHは23.3km/リットルをマークしトップの座にある。

マイルド・ハイブリッドは17.4km/リットルで、ガソリン車のライバルを上回るが、こちらにはさらなる魅力がある。ターボが効いてからの加速がかなり力強いからだ。おまけに7段EDCにはパドル・シフトがあるので、積極的に速さを引き出していける。
都市内の道路は目まぐるしく状況が変わる。だからこそ加速と燃費を両立したこのキャラクターはありがたいし、このクラスの輸入SUVとしては少数派の4気筒であることも、ペースを上げたときの吹け上がりやサウンドで効いてくる。

それでいてクルージングでは、エスプリ・アルピーヌのインテリアが気持ちをクールダウンさせてくれる。スポーツ・マインドをアピールしつつ、クールな空間にもなってくれるところがいい。
19インチのホイール/タイヤということで気になった乗り心地は、路面の感触をリニアに伝えつつ、鋭いショックはたくみに吸収してくれて、都内でも辛くない。それでいて高速道路では、背の高さを忘れさせるリニアな身のこなしが味わえる。
驚きが喜びに変わっていく
今回は東京駅の丸の内口をスタートして、あちこち巡りながら、神楽坂からほど近い東京日仏学院に行き着いた。

坂倉準三が設計し、1951年に完成した建物が今も現役だ。

過去に何度か訪れたことがあるけれど、デザインという視点で眺めると、世界的にも珍しい二重らせん階段を収めた「坂倉の塔」など、独創的な発想を美しく形にした姿に魅了される。それでいて使い勝手についても考え抜かれている。だから70年以上経っても色褪せないのだろう。

僕がこれまで出会ってきたルノー各車にも、共通するものがある。新型キャプチャーも例外ではない。SUVやハイブリッドといったトレンドを織り込みながら、驚きが喜びに変わっていくデザインはフランスそのもの。そこにエスプリ・アルピーヌという魅惑のソースが、深みを加えている。

だから東京日仏学院のような名建築との競演でも違和感がなく、当たり前のように溶け込んでいたのだと教えられた。
■ルノー・キャプチャー・エスプリ・アルピーヌ・マイルド・ハイブリッド
全長、全幅、全高はそれぞれ4240mm、1795mm、1590mm。ホイールベースは2640mm。車両重量は1330kg。1.3リットルの水冷直列4気筒DOHCターボ・エンジン(最高出力と最大トルクはそれぞれ158ps/5500rpm、27.5kgm/1800rpm)とベルト駆動式の補助モーター を搭載。7段デュアルクラッチ式自動MTを介して前輪を駆動する。車両本体価格(税込)は409万円。
◆ルノー・キャプチャー・エスプリ・アルピーヌ・マイルド・ハイブリッドの詳しい情報はこちら文=森口将之 写真=岡村智明 撮影協力=東京日仏学院
(ENGINE Webオリジナル)