【全2回(前篇/後篇)の前篇】
追浜と湘南の工場閉鎖にはじまり、GT-Rが終焉を迎えつつあるなど、往年のファンとしては寂しいニュースが飛び交ってばかりの日産。いっぽうでエクストレイルやルークス、エルグランドなどなど、再興へ向けて新しいクルマの情報も出はじめている。ただ、実はほかにも注目すべき、250万円前後〜で購入可能な隠れた日産車もある! 2009年の登場時からその魅力を見定めていた自動車ライターが、クルマ好きも納得できるその成り立ちと紆余曲折、そしてロング・セラーとなった理由について、紹介する。
そのサイズも仕立ても実は初代カングーにそっくり
経営再建中の日産は去る2025年7月15日、ウワサされていた神奈川県は横須賀市にある追浜工場の閉鎖を公式発表した。と同時に、同じく神奈川県の平塚市にある日産車体湘南工場に生産委託している「NV200」の生産も、2026年度に終了することも明かした。2009年4月に国内発売されたNV200の歴史は、約17年で幕を下ろすことが確定したわけだ。

NV200(日本での正式商品名はNV200バネット)が発売された2009年当時の日産は、LCV(ライト・コマーシャル・ヴィークル=小型商用車)事業を世界的な柱とすることを目指しており、NV200はその中心的な戦略商品でもあった。

なかでも日本とともに重視したのが欧州市場で、市販型NV200の世界初公開の場には2009年2月のスイス(のジュネーブ・モーターショー)が選ばれたほどだった。そして、日本と同じ2009年に欧州販売もスタートした。
NV200が国産バンとしてはノーズが長めのプロポーションで、日本式のワンボックスとは一線を画す自然なドライビング・ポジションを実現していたのも、日本より衝突安全基準が厳しく、使われる速度域も欧州基準に合わせる目的が第一だったとか。

その全長×全幅×全高が4400×1695×1855mmというスリー・サイズも、当時生産を終えたばかりだった初代「ルノー・カングー」に毛が生えたレベル。ご承知のとおり、日産とルノーは今以上に濃いアライアンス関係にあり、2009年に国内発売となった2代目カングーが一気に大型化したこともあり、NV200を「和製カングーI」と評する日本の好事家もいたほどだ。
日本と欧州からスタートしたNV200は、その後、中国、アメリカ、アジア、南アフリカなど販路を次々に拡大していく。さらに、2014年には電気自動車の「e-NV200」も追加されて、全盛期には日本、スペイン、中国、インド、メキシコという世界5工場で生産。グローバルLCVと呼ぶにふさわしい存在となった。
優れた実用車だったからこそ世界中のタクシーに
そんなNV200でもうひとつ見逃せないのがタクシーとしての顔だ。NV200のタクシー仕様は2010年末に国内で発売。バンならではの広い室内と乗降性抜群のスライド・ドア、そして乗用車由来のプラットフォームによる疲れにくさ……といったNV200タクシーの特性は、後にトヨタが発売するジャパン・タクシーにも通じるものがある。

その意味では、NV200タクシーは時代を先取りしていた。

NV200は、翌2011年に次世代ニューヨーク市タクシー(いわゆるイエロー・キャブ)に選定されて、日産は2013年からイエロー・キャブの全車両独占供給を開始すると誇らしげに発表した。

続く2012年には、英国ロンドン・タクシー仕様のコンセプト・カーを公開して、実証実験を開始。2014年には市民の意見を取り入れて、専用デザインを施した正式なロンドン・タクシー仕様の公開までこぎつけた。
ただ、イエロー・キャブについてはタクシー車両をNV200に統一することを決めたニューヨーク市の決定に、タクシー業界などが反発して、訴訟ざたに発展してしまう。2015年には最高裁がニューヨーク市の主張を認める判決を出したものの、現実には車両統一は実現しないまま、NV200イエロー・キャブ仕様の生産は2019年に終わってしまう。
ロンドン・タクシーについても、導入直前にロンドン交通局が電気自動車仕様の1充電あたりの航続距離を伸ばすなどの基準変更もあり、日産は「採算が取れない」として撤退を余儀なくされたのだった……。
このように、一時は世界を席巻した(?)NV200も、デビューから16年強が経過した2025年夏現在、生産拠点は日本だけになっている。海外ではシボレー・ブランドでも販売されたり、日本では三菱のバッジをつけた「デリカD:3」としても売られたNV200だが、こうしたOEM案件も今はすべて終了。また、販路も日本と一部アジアにまで縮小している。

ただ、日本でのNV200の人気は根強い。後篇では、実はライバルとされるトヨタ・タウンエースよりも売れている点や、シエンタやホンダ・フリードにも負けていない実力、そしてクルマ好きも納得できるお薦めのグレードについて、細かくご紹介する。
日産NV200のクルマ好きも納得のグレードとは? 後篇はこちら文=佐野弘宗
(ENGINE Webオリジナル)