ポルシェは時期カイエン・エレクトリックを、極限環境でテスト中だ。いまや自動車開発はデジタル化が進んでいるが、やはり最後は実地での検証がものをいうことを、エンジニアたちは示そうとしている。
120台ものプロトタイプ製作が不要に!?
このカイエン・エレクトリックが画期的なのは、デジタルでの車両全体テストから、先行量産へ直接移行したこと。通常はその中間で120台程度のプロトタイプが製作されるが、その工程を飛ばしたのは今回が初だという。

シミュレーションとAIは、車両テストを劇的に変え、期間を大幅に短縮した。その基本となる柱は3本ある。
まず、ニュルブルクリンクからに事情的な交通環境まで正確にデジタル化したルート。次に、ヴァイザッハのエンジニアたちが数十年にわたりフィールドテストで蓄積してきた経験。そして、リアルタイムのシムレーションを可能にする最新システムの計算能力の飛躍的な向上だ。
これらは車両をヴァーチャルにヴィジュアル化するだけでなく、それをヴァーチャル環境で直接的にテストすることも可能にする。コンポーネンツの開発は初期段階をデジタル化することで、モディファイも容易になり、その結果を踏まえて製造した実物を、ベンチ・テストで検証する。

全面新開発の複合テスト・ベンチは、駆動系やバッテリー、エネルギー管理や充電システムが、現実的なコンディションで同時にテストできる。ベンチにはパワフルな動機モーターは4基が組み込まれ、さまざまな路面コンディションや加速抵抗、回生や制動の際に発生する力などを忠実に再現できるのだとか。
ニュルブルクリンクのラップをシミュレートしたデータでのテストでも、実走行テストの結果と照らし合わせて修正が必要なデータのズレはほとんどないという。

それでも、最後のチューニングに実車テストは当然ながら必要だ。高出力の電気自動車のパワーを最大限引き出すと、バッテリーの温度管理がシビアになるため、加熱も冷却もこれまでのどの電動ポルシェより強力なシステムを搭載。

50度に達する中東やデスバレーから、−35度の北欧まで、極限の環境での充電も問題なくできることを検証した。
デジタルとフィジカルをバランスよく併用することで、開発期間を20%短縮したというカイエン・エレクトリックは、2025年末にも発表される見込み。

ただし、カイエンは電気自動車へ全面移行するわけではなく、純内燃エンジンやハイブリッドを搭載する現行モデルと併売される模様だ。
文=関 耕一郎
(ENGINE Webオリジナル)