2025.11.07

CARS

メルセデスやBMWとは一味違うアウディの美学、新型S6 e-tronの試乗で感じた「S」の流儀とは?

2024年7月に発表された6代目A6。今回試乗したのはスポーツモデルとなる「S6」だ。

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力で走らず、理性で速い、それが新しいSだ。アウディ S6 e-tronはスポーティとラグジュアリーの“間”を自在に行き来する、新世代のスポーツバックである。その実力をENGINE編集部のサトウがリポートする。

次世代アウディの風格漂う

アウディの非SUVシリーズは、Aと数字の組み合わせで構成され、上位グレードとしてSやRSが設定される。一時は偶数番号はBEV、奇数番号がICEとの命名規則を発表したが、早々に撤回された。今回、リポートするS6 e-tronも、本国では6代目となるICE車がすでに発表されている。

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A6およびS6 e-tronはいずれもEV専用プラットフォーム「PPE(プレミアム・プラットフォーム・エレクトリック)」を採用。床下にバッテリーパックをフラットに配置するフロア型構造で、重心は低く保たれている。



駆動は前後モーター式で、前輪は安定性が求められる場面で補助的に働き、主役は後輪側だ。トルク配分も後輪寄りで、伝家の宝刀「クワトロ」の可変トルク分配機能を応用することで、ダイナミクスを高める仕組みとなっている。

しかし、前輪は補助的とはいえ、上り坂の発進や荷重変化が大きい場面では、フロント駆動がしっかりと仕事をすることは少なくなかった。このあたりの制御バランスについて、本国で技術トレーニングを受けたアウディ・スタッフに尋ねると、路面温度や抵抗値をホイールセンサーがリアルタイムで検知し、雨や雪、氷の状態を予測してトルク配分を調整しているとのこと。

「従来のクワトロでも行っていた技術で、e-tronにもそのノウハウを引き継いでいます。VWグループの他のハイエンド・モデルも、この技術をベースにして、各ブランドが自社チューニングをするパターンも多いです」とも教えてくれた。

インテリアはレザーパッケージ(60万円)により、アラス・レッドのスポーツシートを装備。

インテリアはひと目で次世代アウディであることを感じさせる仕上がりだ。水平基調のダッシュボードに、湾曲したパノラマ式ディスプレイが横一線に広がる。ドライバー正面には11.9インチのメーターディスプレイ、中央には14.5インチのセンタースクリーンを一体化。

試乗車はブラックを基調にまとめられ、一見ずいぶんと地味な仕立てだなと思ったが、それには理由があった。アンビエントライトが点灯すると、あっという間に上質なバーラウンジのような空間に一変する。先進感と上質さを両立させる、まさにアウディらしいプレゼンテーションだ。

“間”を突くS

東名高速から首都高速、都内の一般道までを走行してみて、最も印象に残ったのは、その走りがスポーティというよりも、鷹揚でしなやかだったことだ。

街中でのコーナリングでは、サスペンションのストロークをたっぷり使いながらも、ただ柔らかいだけではなく、芯のある強さが感じられた。動的な質感は穏やかでも、車体の動きにムダがなく、思わず「洗練されているな」「イイものに乗っているな」と感じる瞬間が何度もあった。



高速巡行では、抜群の安定感と静けさに包まれていた。モーターならではのリニアなトルク特性により、100km/h前後からでもアクセルをほんの少し踏み足すだけで、クルマ全体が姿勢を乱すことなくスッと加速していく。その加速は、エンジン車のように段階的に力が盛り上がるのではなく、一定の推力で滑らかに速度を伸ばしていくのが印象的だった。

リア主導のクワトロ制御がもたらす直進安定性も極めて高い。追い越しや合流で走行ラインを変えるときは、後ろから押し出されるような自然な挙動であった。ただ、わずかな舵角で車線変更が完結する一方、ステアリングの初期応答は鋭敏なので、高速道路でのクルージングはレーン・キープ・アシストを積極的に使った方が、確実に車線の真ん中を走れるし、ドライビングもだいぶ楽になるだろう。

数日間、S6 e-tronと付き合い、結論として思ったことは、“スポーツとラグジュアリーの間”こそ、Sが狙う領域であり、このクルマの美学だということ。速いのにしなやかで、スポーティでありながら理性的。そして、それらがラグジュアリーというベールの中に、巧みにまとめられている。RSはもちろん、メルセデスAMGやBMW Mとも、流儀も思想もまったく異なる。

いまのアウディにおいて、Sとは何かを最も明確に体現しているのが、このS6 e-tronだと思った。

文=佐藤 玄(ENGINE編集部) 写真=篠原晃一

■アウディS6スポーツバックe-tron
駆動方式 前後2モーター四輪駆動
全長×全幅×全高 4930×1925×1465mm
ホイールベース 2950mm
トレッド(前/後) 1670/1615mm
車検証記載重量(前:後) 2390kg(1180:1210)
バッテリー容量 100kWh
一充電走行距離(WLTC) 726km
最高出力 405ps
最大トルク 580Nm
トランスミッション 1段固定式
サスペンション(前) マルチリンク/エア
サスペンション(後) マルチリンク/エア
ブレーキ(前後) ディスク
タイヤ(前後) 235/45R20/265/40R20
車両本体価格(税込) 1440万円

(ENGINE2025年12月号)
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