ジャパン・モビリティ・ショー(以下JMS)2025で大きな話題になったのが、次期型「ダイハツ・コペン」のコンセプト「K-OPEN」だ。ダイハツは国際展示場・南ホールに入って右手のブースのひな壇の中央に、このグレーの2座オープン・スポーツカーを華々しくディスプレイ。そしてその下には、2019年に登場した「コペン・セロ」がベースとなるクーペ、つまりリアのカウル一体のハードトップを装着した赤と黒のデュオ・トーンの現行型コペンも、フロア下までよく見えるよう、鏡の床の上に置かれていた。
ともに黄ナンバーのグレーのオープンと赤黒のクーペ
お披露目された壇上のグレーの「K-OPEN」が後輪駆動であることは、トヨタの佐藤恒治社長が直前のプレス・カンファレンスで発表済みだったし、 ホール内のほかのコンセプト群たちに比べ、赤い方は機械的な生々しさや、ふだん走っているクルマを磨き上げたような、特有の雰囲気があった。

たぶん改造されたテスト・カーだろうな、と思って近づいていくと、やっぱりそうだった。黄色いナンバー・プレートには「K-OPENランニング・プロト」と書いてある。

しゃがみこんで鏡を見つめると、明らかに既存のフレームに追加された横方向のブレース・バー兼エンジン・マウントや、泥はねの跡や、つなぎ目の溶接跡が生々しい排気菅が見える。

ボンネットが開かれたので覗いてみたが、エンジンはまったく見えない。ものすごく低い搭載位置だ。

さらに首を突っ込んで、ようやく最初に目につくのはオルタネーター。その駆動ベルトは手前のいかにも整備しやすそうなところにあって、エンジン自体が縦向きになっているのがよく分かる。ただし、車体の左側に向かって、ほとんど横倒しの状態である。
現行コペンは横置きの直列3気筒エンジンの前輪駆動車だから、この赤い「K-OPENランニング・プロト」とはまったく眺めが違う。助手席前のバルクヘッド側には縦向きから横向きに搭載方法をこれまた変えたバッテリーがいてよく見えないが、エンジン・ルームの空間そのものは上側も下側も、大きな加工をして広げたような跡はない。プロペラシャフトの通る床下もしかりだ。基本はマウントの工夫などだけで横置きから縦置きへと搭載方法へ変更しているようである。

そうなるとトランスミッションやプロペラシャフト、デファレンシャルやドライブシャフト、ホーシングは、キャブオーバーの縦置きとなる「ハイゼット・トラック/カーゴ」の流用だろうか。「スズキ・ジムニー」と「キャリー」のドライブトレインを流用した「ケータハム・セブン160/170」と手法は同じだけれど、ちゃんと本来横置きのコペン・ボディに収まっているのが何よりすごい。
現場でお会いしたダイハツ・ガズー・レーシング(以下DGR)のチーフ・エンジニアであり、ラリー・ジャパンにも参戦するドライバーの肩書きも持つ相原泰祐さんに話を聞くと、エンジン・マウントおよび車体強化のためのブレースは僕が確認した通りだった。トランスミッション・ケースの分、センター・トンネルは一部幅を「アナログですが、車体を叩いて」広げているという。

「僕らはいま、DGRという形の部署がありまして、モータースポーツ車両、競技車両のノリで造っています(笑)。車体へのスポット増しも、競技車と同じ、ラリー・ジャパンを戦ったコペンと同じポイントにしています」

あのグレーの「K-OPEN」も、この赤いランニング・プロトと中身は同じですか?

「いえ、あれは(前回のJMSにダイハツが出展した)5ナンバーだったコンセプト・カー「VISON COPEN」を軽自動車規格にしたらどうですか? という展示なんです」

確かに新しい「K-OPEN」は2年前の「VISON COPEN」に比べ、明らかに前輪とバルクヘッドの距離感が短く、黄色いナンバーも付いている。

「グレーの方はデザインの方向性を見ているもの、赤い方はランニング・プロトで、いわばガチで造っている(笑)クルマを見て頂くものなんです」
グレーの方にまだ中身がないにしても、どっちもイエロー・ナンバーの軽自動車規格なのだから、「K-OPEN」が市販化となれば、間違いなく赤いランニング・プロトのドライブトレインが組み込めるようになっているのは間違いない。
ラリーの知見をフィードバック
ランニング・プロトについて、さらに詳しく聞いてみた。基本的には現行コペンの車体がベースだが、前述の通りフロント下まわりの強化とセンター・トンネルの拡幅に加えて、車体の後半部分については、まずはありもの、ダイハツの既存の部品で造ってみたそうである。となるとやはりハイゼット系の部品なのだろう。

「FF(フロント横置きエンジン・ベースの前輪駆動)だったら、コペンGRスポーツは完成形のひとつだと思っているんです。もう一回あれを越えるクルマをFFで造れるか? というと難しいな、と思っていまして……」
年々厳しくなる法規への対応なども関係があるのだろうか?
「そうです。だったら一度FR(フロント縦置きエンジンの後輪駆動)にしてみようと。止まる、曲がる、走るという基本的な部分は大事にしたいので、しっかり止まる時は4輪で止まる。ターンインした時にはしっかりノーズが入っていく。そこからリア駆動で荷重がかかって立ち上がっていく。ウェットだったり、滑りやすい路面ではドリフトもできる。そういう“軽スポーツ”ってないなぁ、と思ったんです」

「とりあえずは現行のプラットフォームでFRにしたクルマを造って、走って、楽しいの? 楽しくないの? と課題は何? ということをやりたかった。下まわりに土が付いていますけど、色々な道を走って鍛えて、ラリーで得た知見をフィードバックしています。今後も育成していきますよ」
数年前からちょっと旧いダイハツ・ミラ、いわゆるL285型と呼ばれる4WDモデルを元に、エンジンを横置きのままドライブシャフトを外して後輪駆動化してしまい、ドリフトなどを楽しんでいるチューニング・シップや趣味人たちがいる。ロー・パワーゆえ成り立つ方法ではあるし、横置きFFをやり切ったという相原さんとしてはこの手は検討に値しなかったのだろうか? 彼は目を細めて笑みを浮かべ、そうした楽しさを決して否定するわけではなく、こう答えてくれた。
「もちろんそうしたオーナーの皆さんや、チューニング・ショップの方々がこうして盛り上げてくれることには感謝です! ただ自動車メーカーとして造るなら、しっかりしたもの、後からはできないくらいのことをやらないと、存在意義がないと思います。リアル・スポーツとして、ライトウェイト・スポーツとして造り上げます」

すでにダイハツは現行コペンの2026年8月末の生産終了を明言している。けれど未来へと繋がる種はすでに芽吹き、着実に育ちはじめているようだ。
文・写真=上田純一郎(本誌) 写真=望月浩彦/ダイハツ
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