2026年の幕開けとなるウィーン・フィルのニューイヤー・コンサートに陽気で祝祭的な新しい風が吹き込まれた。
毎年恒例のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のニューイヤー・コンサート。1939年12月31日にクレメンス・クラウスの指揮によって始まったこのコンサートは、やがて1月1日の正午に開催されるようになった。1955年からヴィリー・ボスコフスキーが指揮を担当し、1959年からは世界各国に中継されるようになる。現在はテレビとラジオを通じて世界150カ国以上で放送され、5000万人が視聴するという大規模なイヴェントとなっている。

クラウス以後、ヨーゼフ・クリップス、ヴィリー・ボスコフスキー、ロリン・マゼールが複数年にわたり指揮を担当したが、1987年にヘルベルト・フォン・カラヤンが初めて指揮台に立ち、以降同じ指揮者が2年続けて指揮することはなくなった。これまでカルロス・クライバー、小澤征爾、ズービン・メータ、ダニエル・バレンボイム、マリス・ヤンソンス、ニコラウス・アーノンクール、リッカルド・ムーティら人気指揮者がタクトを振っている。
ニューイヤー・コンサートの会場となるのは、ウィーン・フィルの本拠地である楽友協会大ホール。座席数1744のホールは世界一美しい音響をもつ「黄金のホール」として知られ、歴史の重みを感じさせる堅牢な外観と、真紅と金色の華やかな内装が特徴。筆者は1985年のマゼールと1987年のカラヤンの2度ニューイヤー・コンサートを聴きに行ったが、ここで聴くウィーン・フィルの音楽は、まろやかで情感豊かで流麗。ステージから放物線を描くように音がゆったりと響いてくる。
そんな歴史と伝統に彩られたニューイヤー・コンサートに、新たな風を吹き込んだのが1975年カナダ生まれの指揮者、ヤニック・ネゼ=セガンだ。フィラデルフィア管弦楽団の芸術監督とニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の音楽監督を務め、その指揮は明快でのびやかで自然体。洞察力に富み、指揮姿も踊るような躍動感にあふれている。

今回はヨハン・シュトラウス2世をはじめとするシュトラウス一家の作品に同時代に活躍したカール・ミヒャエル・ツィーラー、ヨーゼフ・ランナーが加わり、女性作曲家のヨゼフィーネ・ヴァインリッヒ、フローレンス・プライスの作品が初めて選ばれた。
特筆すべきはネゼ=セガンの指揮。全曲暗譜でウィーン・フィルとのアイコンタクトを重視し、オーケストラが本来備えている舞曲のリズム、旋律の優雅さ、自由闊達で深々とした響きを存分に引き出し、踊るような生き生きとした指揮を披露した。最後は客席に降り、聴衆と一体となって祝祭的な音楽を楽しんだ。まさにネゼ=セガンの魔術にかかったようなニューイヤー・コンサート。ライヴ録音からは、その臨場感が伝わってくる。
文=伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)
(ENGINE2026年4月号)