ヤフー・オークションで落札した7万円のエグザンティア。板金塗装に70万円、部品代と整備に130万円、さらに走り出してからの修理代を合計すると、新車当時の価格を超える勢いだ。だったらほかのクルマという選択もあるのでは? ……という煩悩だらけの編集者が、とある夜に夢見たお話です。
原油価格の行方が気になる今、スーパーチャージャー、またまた無料です
エグザンティアが車検から帰ってきた。ハンドルを握るたびにあの油圧の独特の浮遊感に、にんまりする日々が戻ってきたのだ。

うれしくて夜桜を撮りに河川敷を走っていたら、白い筒状の充電器と、そこに描かれた真っ赤な色の「TESLA」というロゴでお馴染みの、テスラ社のスーパーチャージャーを見つけた。暗がりに怪しく赤く光る充電器の台数は8基。たまたまいたモデルYのオーナーに聞けば、1年ほど前に開設し、ほぼほぼ空いているという。うわ、完全にノーマークだった。

そういえばテスラから、2026年4月1日から6月30日までに新車を注文・納車すれば、スーパーチャージャーの利用料金が3年間無料になるキャンペーンのお知らせも来ていた。そういえば以前は、5年間無料もやっていた。

先日はモデルYの上位バージョン、モデルY Lの日本上陸のニュースもあった。こちらは3列6人乗りというテスラのジャパン・マーケットに対する次なる一手で、価格は749万円である。
それはさておき、まずはもっとも安価なモデル3のプライスを冷静に計算してみたら、苦悩することになったのだった。

というのも、CEV補助金(クリーン・エネルギー自動車導入促進補助金)はモデル3の中でベーシックなRWDにも127万円が交付される。エコカー減税で環境性能割は非課税、自動車重量税は免税、グリーン化特例で翌年度の自動車税まで下がる。東京都在住の僕が自治体補助を最大限活用すれば、531万3000円のモデル3 RWDは実質360万円台になるという試算ができる。

ここで現実を見つめ直す。2021年6月に7万円で落札した僕の1996年型エグザンティア。板金70万円、部品・整備130万円、計200万円を投じて2022年3月に納車。それでも走り出した日から不調は数知れず。LHMと呼ばれるハイドローリック・シトロエンの緑色の体液を幾度もまき散らし、すでに数百万円以上が消えた。修理総額はおそらく近々30年前の新車価格、339万円を突破しそうな勢いだ。

電卓を叩く。例えば年間1万5000km走り、ハイオクで燃費10km/リットル、185円/リットルで計算すると年間燃料費は約27万7500円だ。
エグザンティアの仮にここまで払った額を339万円とすると、実質4年乗ったから、1年あたり約84万8000円。テスラでは免除される税金はさておいて、ここにとりあえず年間燃料費27万7500円だけ加えると、1年あたり112万5500円。
モデル3 RWDをスーパーチャージャーが無料になる3年間乗るとして、コストは実質360万円を3年で割るから1年あたり120万円。
いやいや、全然差がないじゃないか! 加えてモデル3の下取り価格や今後の修理リスク、イラン情勢による原油価格高騰も考えれば、逆転するのは間違いない。
いっそ2台持ちになるか?
しかもこのスーパーチャージャー、自宅からわずか10分である。24時間利用可能で、3年間タダ。「電気自動車は充電インフラが……」という言い訳は消滅した。

でも、それでもエグザンティアを手放すなんて、僕には考えられない。
しかしここで別の案も思いついた。なぜ“乗り換え”という発想しか浮かばないのか。日常の足と週末の愛車は分けて考えればいい。通勤・買い物などの実用移動はモデル3に任せ、週末や好き者同士の集まりはエグザンティアで、あのしなやかなハイドローリック・サスペンションの乗り心地を堪能すればいい。

モデル3が日常をカバーすれば、エグザンティアの走行距離は大幅に減り、燃料代も修理リスクも下がる。3年間の燃料費ゼロが生む約83万円の節約と走行距離削減による維持費低下を合算すれば、2台分の駐車場代や任意保険料の追加コストも吸収……できないこともないのでは?
僕個人としてはテスラの自動車会社としてのスタンスやイーロン・マスクの考えには共感できない。現在中国生産のモデル3へのこれだけの補助金の在り方にも納得はしていない。でも実はアシグルマをモデル3に代えたり買い足している先輩エンスージァストたちも多く、彼らが「普段のクルマはもう、これでいいよ」とこぼしていることも知っている。モデル3の、特にRWDモデルの完成度とコスパの高さも知っている。
とはいえ、だ。モデル3を迎え入れるのにお金を投じるよりも、さらにエグザンティアにかけた方が幸せではないか、という思いに僕はやっぱり勝てなかった。特にハイドローリック・シトロエンは日々走っていたほうがぜったいに調子はいい。うん、そうだ、やっぱりテスラよりエグザンティアだよ。
……と前向きな結論を書いていたら、車検の修理明細が届いた。簡単には飲み込めない金額がそこにはある。

負けるもんか、テスラになんか。でも、万一だけど、かつてモデルSなどで行っていた「永年スーパーチャージャー無料」だとか、そこまでいかなくとも「7年間スーパーチャージャー無料」くらいのキャンペーンのニュースが届いたら……その時は春の夜の夢は正夢になる、かもしれない。
■CITROEN XANTIA V-SX
シトロエン・エグザンティアV-SX
購入価格 7万円(板金を含む2024年5月時点までの支払い総額は309万6773円)
導入時期 2021年6月
走行距離 18万6761km(購入時15万8970km)
文と写真=上田純一郎 写真=テスラ
(ENGINE Webオリジナル)
◆前の記事 4/1施行開始! 自転車新法時代に、クルマ好きに左ハンドル&マニュアルの粋な小型車を推薦する理由とその実例【ヤフオク7万円のシトロエン・エグザンティア(1996年型)長期リポート#71】◆過去の連載一覧エンジン編集部員がヤフオクで買ったシトロエン・エグザンティアの長期リポート!