ホームステージャー?
Kさん夫妻の東京の住まいは、30歳の時に建築家に設計を依頼して建てた、両親の家の隣の一軒家。今回が2回目の家作りとなる。もっともKさんは、「以前の経験よりも、妻が“ホームステージャー”として働いていることで得た知識の方が遥かに役に立った。動線が整理されているので、随分と暮らしやすい」と話す。

ホームステージャーとは聞きなれない言葉だが、欧米では広く知られた仕事である。個人が家を売却する際にインテリアに手を入れ、その魅力を高めるのが基本業務。奥様はそれに加えて、家具の配置換えや整理など、安全で心穏やかに暮らせるための手伝いも行っている。
家作りにあたってK夫妻は考えた。唯一無二のこの敷地の別荘の設計をお願いするのは、建築だけでなく庭を含めたランドスケープを、時間をかけて自分たちと一緒に考えてくれる方だと嬉しいと。リサーチの末に声を掛けたのが古谷俊一さんである。植物を上手く取り込んだ住宅プロジェクトが評判の、造園家の肩書も持つ建築家だ。

とはいえ、これだけ広い敷地である。建物を建てる場所から検討しないといけない。古谷さんは、眺めの良い敷地の一番奥に建てることも検討したが、最終的に南端の崖の縁を選んだ。ここから富士山や大島だけでなく、地域の人々の信仰の対象にもなってきた鋸山が正面に見えるのだ。神秘的な雰囲気の山で、夕日が当たり輝く姿は実に美しい。山は約40年前まで石切場として稼働しており、壁には切り出しの際に付いた幾何学的な文様が残っている。別荘の独特なフォルムは、この聖なる山に刻まれた意匠から来た。
完成した別荘は、風が相当に強い場所に建つので、平屋でコンクリート造。地面の色に合わせた塗料が、外壁に塗られている。全ての部屋から海が見えるのが最大の魅力だ。K夫妻の希望を反映させた間取りは、客人やKさん家族が心地よく過ごせるよう考えられたもの。玄関ホールに入って右側が、来客用エリア。海の見えるバスルームもこのゾーンに用意されている。玄関左の建物中央部にリビング・ダイニング・キッチンがあり、その奥がKさん家族のプライベートエリアだ。玄関からキッチンに続く裏動線は、途中でパントリーを抜ける、極めて実用的なものである。
夫婦で作る別荘ライフ
キッチンは、3人でも作業ができる余裕のある設計。カトラリー類は、キッチンから離れたダイニングテーブル横のキャビネットに納まっている。来客時のテーブルセッティングは、Kさんが担当。2人で協力しながら、客人を迎えている。


建物だけでなく、置かれている家具も素晴らしい。リビング・ダイニングにあるのは、これまで愛用してきたものや、設計前に夫婦でインテリアの検討をしている際に出会った逸品。古谷さんは、それらの家具が合うように空間を作り上げた。そのため、センス良くまとまっているのはもちろんのこと、空間と家具のサイズも適切で居心地が良い。また、山の上にもかかわらずこの別荘には電線が見当たらない。わざわざ地下に埋めているのだ。合理的だがエレガントな、Kさん夫妻の美意識の表れである。

山の上に建つ別荘での生活に、SUVは最適だ。Kさんの愛車は、プラグインハイブリッドのボルボXC90(2021年型)。両親と2人の子供を乗せて6人で移動する時のため、7人乗りのクルマを選んだ。近くの駅まで客人を迎えに行くことも少なくない。愛犬2匹のケージに加え、食材や日用品を載せることも多い。こうした使い方であれば、XC90は便利なうえ、運転して楽しく燃費も良いので、Kさんのライフスタイルにマッチしている。一方奥様は、インテリア関係の荷物を積むため、ミニ・クラブマンを愛用。別荘の可愛い車庫には、Kさんが釣りに行くための軽四駆が納まっている。
ところで古谷さんと夫妻で進めてきた庭づくりは、現在試行錯誤中である。山に住む猿や鹿、イノシシなどに食べられてしまう植物が想定外に多いのだ。それでもKさんはおだやかに、「ゆっくり敷地を整えようと考えている」と話す。現在敷地の一部に、友人たちがテントで泊れるよう準備を進めている。「10 年、20年かかっても構わない。土地も、この別荘が結ぶ人との縁も、丁寧に、“たがやして”いきたい」と語った。
文=ジョー スズキ(デザイン・プロデューサー) 写真=田村浩章
■建築家・造園家:古谷俊一、1974年、東京生まれ。明治大学卒業後、世界各地の建築を探訪し、早稲田大学の大学院で石山修武氏に師事。同院修了後、IDEE、UDSを経て独立し、自身の事務所を設立する。植栽と共に建築を設計するのが特徴で、農園の中の集合住宅「スイシャハウス」などがグッドデザイン・ベスト100に選ばれている。写真は4月に川崎市・溝の口に開業する森の中のオフィス/商業施設の「MAZAKA」。著書に『みどりの空間学』等がある。愛車はボルボXC90。
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