2023.10.22

LIFESTYLE

見つけた土地は10mのサンゴの丘の上 真っ青な海に沈む太陽を毎日眺める凄い場所の凄い別荘 設計に5年、職人が数ヶ月住み込んで完成した世界的な現代美術家の家

写真:Sahira Construction Co., Ltd

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雑誌『エンジン』の大人気連載企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は、沖縄の宮古島に昨年、完成した個性的な建物。ここは世界的に活躍する現代美術家、森万里子さんのアトリエを兼ねた別荘だ。彼女の作品でもあるこの不思議な家は、いかにして生まれたのか? デザイン・プロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。

自然に溶け込む有機的なフォルム

この建物は、現代美術家・森万里子さんの〈ユプティラ〉(Yuputira2022)と名付けられた作品だ。映画のセットかCGのようだが、幅30m、高さ15mの堂々としたサイズで、実際に宮古島の海沿いに存在し、森さんのアトリエ兼別荘として使われている。東京から南西に1800km。沖縄本島からも300kmの東シナ海に浮かぶ宮古島。取材で訪れたユプティラは、個性ある形だが違和感なく自然の風景に溶け込んでいた。有機的なフォルムのお陰だろう。

「自然界には直線のものは存在しません。海岸で見つけた、波に削られて丸くなったサンゴがデザインの原点です。また巻貝を見て、この中で暮らせたらどんなに幸せだろうと想像したことも関係しています」

そう話す森さんが、海辺の暮らしの不思議な魅力に気付いたのは20年ほど前のこと。知人が持つ沖縄の海沿いの家を訪れた時だ。



海の生活の魅力

「海がこれほど、満ち引きするものとは知りませんでした。しかも、海を前にドローイング作品を制作したところ、潮が満ちてくる時間帯は創作がはかどるんです。宇宙の力がこのように反映されるのに驚きます」

以来、毎夏の1カ月を沖縄の家で過ごすようになり、いつの日か海辺の場所を持ちたいと願うようになる。

それから十余年。地元の人との縁もあり、海が美しい宮古島で魅力的な土地に巡りあう。場所は、賑わう島の中心部から離れた、自然が多いエリア。近くの村には、何世紀も前から続く先祖崇拝の風習が残っている。敷地はそんな村の外れの、高さ10mのサンゴの丘。西に広がる海を遮るものは何もなく、海に沈む太陽が拝める場所だ。



断っておくが、ユプティラは森さんのスケッチをそのまま形にしたものではない。過酷な宮古島の自然環境に耐え、アトリエ兼別荘として快適に過ごせるよう熟考が重ねられたものだ。発想のスタート地点は、太古の人類の洞窟での生活。「人はそこで守られていると感じたのでは」、そんな思いが、空間に反映されている。また、強い風が抵抗なく流れるよう、建物は突起物のない有機的な外観に。特に冬に絶え間なく吹く北風に対応するため、北側を低くした。さらに最新のソフトウェアを用いて、太陽の位置をシミュレーション。建物の窪んだ部分の上部を庇として利用し、夏の強い日差しが直接、屋内に入らない位置に窓を配した。このプロセスは、古代の人々の祈る気持ちを、現代の最新テクノロジーで形にする、森さんの作品作りと同じだ。



設計はコンピューター・ワークだけでなく、時には大きな模型を作り人間の感覚で判断したことも。細かい調整は何度も行われ、設計が完成するまで5年の月日を要した。最終案の実施設計を担当したのは、東京が拠点のリング アーキテクツだが、驚いたのは、極めて難しい施工を現地で行ったのが、技術力のある地元宮古島の会社だったこと。人口5万5千人の島にこのような会社が存在するのは、奇跡に近い。カーブが連なる外壁、特別な仕上げが求められる茶室は、それぞれ専門の職人が島に数カ月住み込んで対応した。

自然が生み出したような形を目指していた森さん。完成したユプティラは、瓢箪を半分に切ったようなフォルムをしている。建物の内外は、森作品に共通する白を基調としたもの。小さな玄関扉から屋内に入ると、壁と天井の境がない空間は洞窟の中のよう。「凄い」と感じながら、不思議と落ち着く。それでいて、圧倒的な美意識が貫かれているのだ。体験型のアート作品のように、意識が揺さぶられた。

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