2026.04.24

CARS

普通ではあり得ない色の「マセラティ・クアトロポルテV8」とフェラーリV8搭載の「ランチア・テーマ8.32」!! こんな希少なペアはもはや世界遺産級だ!【オートモビルカウンシル2026】

これほど希少なV8搭載のイタリアン・サルーンが2台揃うなんて!

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オートモビルカウンシル2026の会場となった広い幕張メッセ内を練り歩いていると、その鮮やかな色のおかげか、注目を集めているクルマたちがいた。

これぞ来場者が選んだ、2026年の1台だ!


愛知県名古屋市のLusso Cars(ルッソ・カーズ)が出展したマセラティは、そんな車体色に加えて、周囲を圧倒するような強いオーラを放っていた1台だった。てっきりその鮮やかなブルーの外装色から、新車当時よく雑誌などに掲載されていたギブリ・カップかと思ったのだが、そうではない。ギブリほどワイドなフェンダーは備わっていないし、そもそもドアの枚数が4枚だ。同じく1990年代のマセラティではあるけれど、これはクアトロポルテである。



1994年登場のこの4代目クアトロポルテは、ビトゥルボ系のスクエアなスタイリングを踏襲しつつ柔らかなラインを加え近代化させた、かのマルチェロ・ガンディーニの傑作の1つだ。





マセラティの象徴のトライデント以外に余計な装飾はほとんどないのだが、サイドのマーカーのすぐ上に付く筆記体の小さなエンブレムが“otto cilindri(オット・チリンドリ)”であることから8気筒、つまり335馬力を発揮する3.2リットルのV8ターボ搭載モデルだと分かる。

それにしても美しい。真新しいミシュラン・タイヤを履いていることを除けば、内外装ともに、まもなく30年の時を経ているとは、にわかに信じがたいコンディションだ。

だが、この世代のクアトロポルテにこんなボディ・カラーが存在したのだろうか? 少なくともカタログ・モデルではなかったはずだけど……と思い、ルッソ・カーズ代表、岩山幸生さんに話を聞いてみた。



「このクルマは新車当時、お客様の“どうしてもこの色でオーダーしたい”という熱意から私が輸入元にお願いした1台なんです。ちょうどガレーヂ伊太利屋からコーンズ・イタリアに切り替わった時で、担当だった方も乗り気になって、この話にご協力して頂けて……」



そういって岩山さんはクアトロポルテのリア・フードを開けてくれた。





荷室内には当時のまま、CDチェンジャーが残っている。そしてフードの裏側にはカラー・コードが記されている、シルバーの小さなステッカーが貼られていた。

大抵こうしたステッカーの文字はこの年代になると印刷であることが多いのだけれど、なんと手書きで色の名と色番号が記されていた。やや薄れかけ、でもいかにもイタリアの職人が描いたような雰囲気あるその文字を読み取ると、オリジナル・ペイントの名は“BLU SPRINT”、カラー・ナンバーは“231866”とある。そう、“ブルー・スプリント”がこの色の正式名称。カタログにはなかったオーダー色だ。



インテリアに目を向ければ、この外装色とコーディネイトしたのだろう。張りがあり、小さなひび一つ見当たらない濃いブルーのレザーと、艶やかで明るめのウッド・パネルによるこの時代のマセラティ独自の世界が広がっている。





岩山さんによれば初代オーナーは、このブルー・スプリントに惚れ込んで、その後も同じ色でフェラーリも何台もオーダーしたのだとか。それにしてもギブリ・カップのイメージ・カラーだったこの色をギブリではなく、あえてクアトロポルテで、しかもV8と6段マニュアル・トランスミッションの組み合わせでオーダーするとは……。マセラティがフェラーリ傘下になる直前の、いわばビトゥルボ系モデルがもっとも輝いていた時代であることを察し、この見事なまでのカスタム・オーダーを行ったオーナーをはじめ岩山さんのような趣味人たちがいたからこそ、こんな希少な1台がいま、ここ日本にある。



加えて今まで維持をしてきたのは、さらに並大抵のことではなかっただろう。幸いこのクアトロポルテは2代目のオーナーの手に渡ってからも、ガレージでただ惰眠をむさぼることもなく、オドメーターは2万5千kmほどを刻みつつ、クアトロポルテにふさわしい扱いと適切な整備を受け、長らく良好なコンディションを保ってきた。

「中古車は、作られているんですよ」という岩山さんの言葉には、強い説得力があった。最初のオーナーの熱意はもちろんのこと、そのオーナーの思いを叶えるためにどれだけ多くのひとが腐心したことか。そしてやって来た1台をどれほどのひとたちが丁寧に扱ってきたのか。いくらお金をかけて整備や保管していたとしても、関わる誰かが一回でも無体なことをしたり、一瞬でも手を抜いたり、まして不運にも事故に遭ったら……。失われたら、もうけっして戻らない。中古車とは、確かに作られてきたもの、なのだ。現代ではたとえイタリア本国などにこんな極上のクアトロポルテがあったとしても、手に入れることはまず難しいだろう。

跳ね馬エンジンを搭載したランチアのサルーンも!


そんなクアトロポルテの横に並ぶのは、ランチア・テーマ8.32である。



こちらも負けず劣らず、どこからどう見ても新車のような1台だ。



ドアを開けると、サイドシルの金属プレートには、まだブルーの保護ステッカーが貼られていた。





クアトロポルテ以上に傷みやすそうなポルトローナ・フラウのレザーはしっとりと滑らかだし、後席など、座った形跡がまったく見受けられない。艶が出やすく、スティッチがほころびやすい同じ革が巻かれたステアリング・ホイールも、その奥のウッドパネルも、時の経過がほとんど感じられない。

あちこちで風合いの差が出てしまっているようなことも一切なく、レストレーションによって綺麗になったわけではない。走行距離はまだ3万1000km弱とはいえ、どうやったらこんな風にインテリアのコンディションを維持ができるものなのか。これまた歴代オーナーの深い愛が感じられる。



エンジン・フードを開けてもらう。ランチアの名にふさわしい味つけが施されたフェラーリ308の3リットルV8ユニットは、わずかに結晶塗装が剥がれかけているところもあったものの、黒々とした活きの良いゴム・パーツや、真新しいホース類などから、しっかりと整備され走ってきた様子がうかがえた。



この2台を眺めながら、どんなひとが受け継いだなら幸せなのだろうか? と考えてしまった。



申し訳ないのだけれど「希少だから価値が上がるかもしれない」とか「ヤングタイマーっていま流行だから」だとか「普通に乗れますか?」となんて考えるような人には、この2台はふさわしくないと、僕は思う。



「ただ保管するだけでなく、走らせる方ですね。普通に乗ること、は次期オーナーの“任務”であり、普通に乗れるように維持すること、が“義務”だと思ってくださるような方でしょうか……」

岩山さんはそう口にし、僕も確かに、とうなずいたのだった。なお、この2台にかけるそうした思いは、しっかりとこのイベントで伝わったようだ。来場者の投票によって選出されるオートモビルカウンシル・カー・オブ・ザ・イヤー2026には、このブルー・スプリントのマセラティ・クアトロポルテが選出されたのだから。

文と写真=上田純一郎

(ENGINE Webオリジナル)

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