2026.05.16

LIFESTYLE

住所非公開・完全予約制の「坂本図書」が白金に “教授の知性”を体験する

フランス人が住んでいた家をショップにリノベーション。天井高のある空間構成が心地いい。蔵書は定期的に入れ替わる。

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逝去してなお存在感を放つ坂本龍一。知性を支えた読書欲を体感できる素敵なスポットが白金にオープン。

坂本龍一、愛称は「教授」。東京藝術大学修士課程修了の学歴に加え、音楽理論に精通していたことから、YMOの盟友である高橋幸宏が呼び始めた。洒脱なドラマーらしい敬意とユーモアを感じさせるが、その後の人生を顧みれば秀逸な命名だったと言える。

坂本は無類の読書家として知られていた。実父坂本一亀が三島由紀夫や水上勉などの代表作を手掛けた文芸誌編集者というバックボーンもあっただろう。生涯を通じて万単位の書籍を集め、晩年には現代社会への批判を織り交ぜつつ愛読書を紹介する『坂本図書』を刊行している。さまざまな音楽で才能を発揮した感性の裏に、圧倒的な読書体験による知性があったことは間違いない。

縁のある街で愛読書を発見

坂本は古書店の主になるのが夢だったらしい。逝去から半年後の2023年9月、都内にオープンした書名そのままの「坂本図書」としてそれは実現する。“本は共有財産”という思いに沿う形で、1万冊以上の蔵書を手に取ることができる図書空間だ。ただし場所は非公開、2か月前からの完全予約制。訪れるのには少々ハードルが高い。そこで昨年12月に白金にあるライフスタイルショップ「ヤエカ ホーム ストア」内に坂本ヤエカというコーナーが誕生した。ここは「坂本図書」にある蔵書と同じタイトルの古書が常時250~300冊並べられており、自由に読み、気に入れば購入できる。

生前最後のインタビューを収録した『ぼくはあと何回、満月を見るだろう』や好きな本について語った『坂本図書』、CDは常に取り揃えている。



古書店の棚の並びは往々にして主あるじの嗜好と思考、人生の志向を物語る。坂本ヤエカにある本も、教授の名にふさわしく音楽、デザインやアート、小説、建築、民俗学など多彩でアカデミック。コーヒーやデザートをお供に気軽な読書を楽しめる。さらに見逃せないのが庭のピアノ。3.11の津波で流されたピアノを見たことから、ニューヨークの自邸の庭でピアノが「自然に還る実験」を行っていたが、ここでは坂本が子どもの頃に実際に弾いていたピアノを置いて再現している。

奇しくも白金はかつて彼の祖父の家があり、幼い頃の自宅の改装時に住んでいたエリアだ。幼年期に縁のある街で、音楽だけでなく、書物というレガシーを共有することは活字での追悼であり、同時に貴重な知の継承となる。心地よい空間の中で、あらためて「教授」の教えを発見してみたい。

庭のピアノを前にした晩年の姿。最期まで精力的に活動していた。Photo by Neo Sora (C) zozoKAB.Inc.

■坂本ヤエカ 
https://www.yaeca.com/news/sakamotoyaeca/

※坂本図書は毎月28日正午から予約受付開始
https://www.sakamoto-library.com/

文=酒向充英(KATANA) 写真=杉山節夫

(ENGINE2026年6月号)

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