ヤフー・オークションに出品されていた7万円のエグザンティアを落札し、走り出す前に板金塗装で70万円、部品代と整備で130万円、さらに動きはじめてからも修理で総額300万円以上(!)をつぎ込んでしまった。それにも懲りることなくエグザンティアの部品を求めて格安航空券を駆使して向かったのは東欧リトアニア・カウナス。持病を抱えるハイドローリック・シトロエンを完治させる部品の詳細を世界初公開!
これでもう“ボンネット突き上げ病”とはおさらばだ!
リトアニア・カウナスにあるハイドロ・シトロエンの救世主、エラストマー.EU(Elastomer.EU)における、僕と代表のイルマンタス・ガリニス(Irmantas Galinis)さんによる、英語とリトアニア語と日本語がちゃんぽんかつディープな会話は続いていた。

旧いシトロエンの、しかもXMとBXとエグザンティアという3車種の維持には必須なサスペンション・ストラット・アッパーマウント。だけど、それ以外のオーナーにはまったく役に立たない内容だけに詳細は省く。ただ、特筆すべき点として記しておきたいのは2つ。

1つはエラストマー.EUのガリニス一家による再生には、オリジナルの分解、清掃、サビ落とし、ゴムからポリウレタンへの入れ替え(この金型はお父さんのカロリスさんの作で、はじめた当時はイルマンタスさんも自らウレタンの鋳造や整形を行ったそうだ)、再塗装という一連の作業に加え、重要な改良が施されている。


実は死に至る病である“ボンネット突き上げ病”を完治する、金属製の抜け止め加工が内部に施されているのだ!

純正品も後期のタイプは抜け止めがあるのだが、エラストマー.EUのものは引っかかりがさらに大きい。この加工のおかげで万が一ポリウレタンが破損しても、抜け止めが干渉し、ボンネットまではダメージが及ばない!!
2つめはオリジナルのゴムのマウントに対し、ポリウレタンだからと単純に硬くなって乗り心地が悪化してしまうことはなく、当時の新品マウントのゴム硬度に合わせるよう調整されていること。例えいま、シトロエン純正の新品デッドストックが見つかったとしても、製造からかなりの時間が経ち、保管状況によってはゴムはカチカチのはずだ。ポリウレタンを用いたエラストマー.EUの再生品の方が、ヘタった在庫品より柔らかいそうである。

いちおう、同社が再生マウントに付与している保証期間は販売から2年。通常の使用で10〜20年は持つらしい。過去には再生品が数個だけ、破損したということで戻ってきている。ただそれはアフリカ在住の女性オーナーからで、彼女はスフェアをまったく交換せず、ポリウレタンがすべての路面からの負荷を受け続けて壊れたのだとか。いわばガチガチのノーサス状態だったのだろう。それでも完全に裂けたりボンネットを突き上げず、ガタガタと音を立てながら、数年走ったそうだ。

ちなみに後々ご報告する予定だが、エラストマー.EUで再生された、この日僕が手に入れたマウントは、装着から2年を過ぎても、車体をしっかりと支え続けてくれている!

もちろん破損に繋がるような劣化は見られないし“ボンネット突き上げ病”といういわば死に至る病とは、縁はない! 実例だけに、なかなかに説得力はあると思う。
イルマンタスさんは、僕にこんなエピソードも教えてくれた。

「上に4台、下に4台の車両を載せるような大きな積載車の上の段から、ハイドローリック・シトロエンの落下事故があったそうです。約3メートル、建物の2階くらいの高さから落ちたんですよ。でも点検しても、なんのダメージもなかったそうです。優れた衝撃干渉システムである証明ですよね」
そんな素晴らしいハイドロを、シトロエンはもう辞めてしまった。
「なぜシトロエンが継続しなかったのかは分かりません。旧いクルマのほうが、新しいものより優れている。でももしかしたら、将来的に誰かがこの機構を復活させるかもしれませんね。例えば日本のメーカーだとか」
液体ベースではロスが多く反応速度が引き上げられずトラブルを引き起こしやすいので、そのまま復活はさすがにできないだろうけれど、パワートレインが様々な方向に向かっているのだから、サスペンションだってまだ改良の余地はある。可能性がないわけではない。

僕とイルマンタスさんの会話は、従兄弟のゲディミナス・ガリニス(Gediminas Galinis)さんと、創業者のカロリス・ガリニス(Karolis Galinis)さんから、そろそろお茶でも、と自宅2階のプライベート・スペースに誘われるまで続いた。

そこでリトアニアのなかなかに強いお酒やお菓子、たくさんの果物も頂き、さらに話は止まらなくなった。イルマンタスさんは続ける。
「私は世界で少なくとも15社がこのマウントを造ろうとしているのを知っています。しかしどこも成功せず、長続きしていません。おそらく我々が残った数少ない存在です」


確かにBXやXM用に関しては、他国でも再生品が造られてはいるようだ。

しかしこれほど製法がきちんと分かっているものは他になく、エグザンティア用については、少なくともエラストマー.EUと仏アクティバ・クラブでしか見聞きしたことはない。
なお50個に1個くらいの割合で、再々生も行っているそうだ。これもうれしいニュースである。

僕はイルマンタスさんたちの目をしっかり見て握手し「ありがとう、あなたたちのおかげで、僕はこれからも自分の好きなシトロエンに乗り続けることができる。このビジネスが、これからも続くことを望んでいます」と伝えた。
「We will keep!」
イルマンタスさんは、力強くこう答え「注文があり、旧い部品を送ってくれる限り、私たちは再生を続けます」と笑ったのだった。
さて次回は、これほど苦労して手に入れた大切な大切なマウント入りのスーツケースが、なんといよいよリトアニアを離れる段になって、空港で一悶着あったことを報告する……。
■CITROEN XANTIA V-SX(1996)
シトロエン・エグザンティアV-SX(1996年型)
購入価格 7万円(板金を含む2024年5月時点までの支払い総額は309万6773円)
導入時期 2021年6月
走行距離 18万6761km(購入時15万8970km)
文と写真=上田純一郎 撮影協力=エラストマー.EU
(ENGINE Webオリジナル)
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