長野県長野市にあるエムウェーブで催された、ながのノスタルジックカーフェスティバル2026。会場から入ってすぐのスペースに展示され、となりのミゼットとともに注目を浴びていたのが、周囲のクルマを見下ろす小山のようだったブラウンの「ウニモグ」だった!
お役御免となった災害時用の移動無線車を……
入場ゲートからすぐ左手。「DMC-12デロリアン」を横に見ながら列を辿っていくと、まわりのクルマに比べ、圧倒的に巨大な1台が並んでいた。隣に小さな3輪の「ダイハツ・ミゼット」が並んでいたので余計にそう感じたのかも知れないが、それにしてもデカイ!

ブラウンの巨体がダイムラー・トラックの「メルセデス・ベンツ・ウニモグ」であることはすぐに分かったのだが、ルーフの上の追加ライトやイエローのフォグ・ランプ、そして荷台部分が立派なキャビンに換装されている。

いかにも働くクルマ、という装いではあるけれど、ペイントは美しく、傷どころか汚れ1つ、ついていない。どうやらクルマそのものも、クルマにかけるオーナーの思いも、タダモノではなさそうだ。
そこでクルマの後ろでゆっくりされていたオーナーの宮下ご夫妻に声をかけ、お話を聞かせてもらった。
このウニモグは1985年型の「U406」だという。現在のNTT、当時の電電公社が災害時の移動無線車として使用していた1台だったとか。この406シリーズ自体は1963年に登場し、1988年まで生産されていたから、宮下家の「ウニモグU406」はかなり後期のモデルということになる。当時の輸入元はウエスタン自動車だが、販売とこの架装作業を行っていたのはヤナセだそうだ。

室内に目を向けると100km/hまで目盛りが刻まれたメーターや、細身のステアリング・ホイール、飾り気のないシート、極々シンプルな変速&トランスファー切り替えレバーなどなど、いかにも往年のメルセデス・ベンツらしい、質実剛健さが感じられる仕立てだ。

キー・シリンダーをはじめ、各種ボタンやメーター、スイッチすべてに日本語の説明書きが追加されているのは、移動無線車という成り立ちゆえ、なのだろう。不特定のドライバーが操作することを踏まえて国内で追加されたものと思われる。

いっぽう、ドアを開けると、黄色の張り替えられたとおぼしき内張の下に、ホイールの締め付けトルクが記されたイラストと注意書きが残っていた。こちらはドイツで新車時に貼られたものだろう。


車体の左側には前輪のすぐ後ろに燃料タンクとは別にタンクがさらに2つ配置されており、前側が50リットルのガソリン(発電機用)、後ろ側が10リットルの灯油(ヒーター用)、とラベルがあった。側面後方タンクのすぐ後ろには、通信基地として働く際の車両の固定用だろうか、ジャッキが備わっているのも確認できた。
反対側にも当然ジャッキは装備されていたが、その前はタンクではなく、鍵付きのケースのようである。
ナンバー・プレートも取得しており「もちろん自走してきましたよ」と笑うのはウニモグをここまで仕上げた宮下典生さん。これまでイベントなどに参加したことはなく、ながのノスタルジックカーフェスティバル2026は主催者と知り合いだったことから、初めてこうした催事へエントリーすることになったという。

「私が手に入れてからは、架装されていた車体後部のキャビン内のインテリアを、前のオーナーが棚などを制作されていたのを引き継いで完成させたのと、ボディの色を元に戻したくらいですね。もともとは移動無線車なので、外装は白とくすんだアルミ地だったんですが、ドアの開口部に残っていたオリジナルの、このココア・ブラウンで塗り直しました。逆にインテリア、運転席や助手席なんかは元のままですごく状態が良かった。でも程度がいいのは当然で、まだこのクルマ、1万7000kmしか走っていないんです」
特別な用途ゆえに、そうそう走る回ることもなかったようだ。そんなウニモグ、乗ってみると、どんな感じなのだろう?
「うるさいですし、ほぼほぼトラクター(笑)。跳ねる感じも似ています。高速走行をすると、もう轍をひろっちゃってなかなか大変で。50km/hがせいぜいです。だから高速道路は走らずに、下道を走って、車中泊ができるところへだけ出かけています」

このクルマで車中泊!? ……実はまったく外観からは想像できなかったのだが、なんと無線車時代は機材が載せられていたキャビン部分は、まるでログハウスのようになっていた!

ポータブル電源や、対面式だがソファも置かれ、マットレスの位置を変えるとベッドにもなるのだという。
「ゆくゆくは以前デッキのあったルーフに縞鋼板か何かを貼って、ポップアップするようなルーフ・テントも付けたいですし、車体の横に、270度回転して展開するサイド・オーニングも取り付けようかと計画中です」

よく見れば、リアのドア内側には、キャビン内に出入りしやすいように折り畳み式の踏み台がセットされているし、乗り降りするときのアシスト・グリップの代わりだろうか。布製のベルトがちゃんと設置されていた。

「これは輸入当時に付けられたものですね。このベルトというか紐の切れ端、最初はなんだろう? って思っていたんですよ。さすがに公共の作業車だけあって、安全対策がしっかりしています」
ベルトはいかにも働く男達の汗が染みこんだせいか、いい具合にエイジングが進んでいた。

隣でにこにこと話を一緒に話を聞いてくれていた、この日一緒にイベントに参加していた典生さんの奥さまも、笑顔でこうおっしゃる。
「後ろはこの間、はじめて乗りました。もうガッタガタで(笑)。こうやって、しがみついていないといけなくて……もう、笑っちゃいますよね」
話を聞いているといかにも大変そうなのだが、それでも二人が楽しんでいるのがよく分かった。この日行われたパレード・ランでは、助手席から観客に手を振って、笑顔で応えてくれていた。
「このクルマの良さは、分かる人にしか分からない。でも、このイベント会場だと、わかってくれる仲間もいますからね」
と典生さんはおっしゃるが、家族の理解あってこそのクルマ趣味である。仲睦まじい宮下夫妻の車中泊の旅は、今後も速度こそスローなペースながら、ずっと続いていくに違いない。
文と写真=上田純一郎
(ENGINE Webオリジナル)