2024.11.30

LIFESTYLE

リビングにはウェグナーやフィン・ユールの名作家具、ガレージには3台のポルシェが並ぶ家 建築家が目指したのは、どんな空間だったのか?

雑誌『エンジン』の大人気連載企画「マイカー&マイハウス クルマと暮らす理想の住まいを求めて」。今回は、良く整備された356からスーパースポーツカーのGT3 RSまで、5台のポルシェを所有するHさん。自宅のリビングにはずらりと拘り抜いた家具が並ぶ。そこはとても居心地のいい空間だった。デザイン・プロデューサーのジョースズキ氏がリポートする。

ポルシェが並ぶガレージ

車庫に356C(1963年製)、964型911カレラ2カブリオレ(1992年製)、991型911GT3RS(2019年製)と、3台の魅力的なポルシェが並んだ会社経営のHさん(48歳)たちのお宅。写真には写っていないが、他にHさんの長距離通勤用の997型911カレラ(2008年製)と、奥さんの普段の足であるポルシェ・マカン(2019年製)があり、合計5台のポルシェ持ちだ。もっとも車庫に入れられるのは4台が限度。実はこの他に、数台の古いメルセデス・ベンツもあり、別の場所に屋根付きの車庫を借りている。そう、相当にクルマ好きの夫婦なのだ。ところが家が建った10年前は、4台分の車庫で十分だったというのだから、少々驚きである。

美術作品が飾られた雰囲気のある玄関ホールを抜けると、広くて明るいリビング・ダイニングに。

庭に面した左側は一面が窓になっており、大きな庭が望める間取り。窓側の天井は低いが、右手の黒い壁にむかって段々と高くなり、最後は3mほどの高さに。天井にはダウンライトなどが存在せず、美しい。庇は長く庭は北西に位置しているので、室内に直接太陽光は入ってこないが十分に明るい。ペンダントライトは、デンマーク製のヴィンテージ。当時の製品には技術的に未熟な部分もあるが、現代の大量生産された工業製品には無い、職人の手が作り出す温もりをHさんは楽しんでいる。

庭の水盤は、地下水を利用したもの。夏はここでカヤックに興じることも。庭の奥に見える高い木は、隣家のもの。

なんといってもこの家の最大の魅力は、広々としたリビング・ダイニングだ。水盤のある大きな庭に面した心地よい空間に、丁寧に作られた温かみのある北欧の家具と、名のある作家の手による現代アートがセンス良く飾られている。これだけ高いレベルのインテリアにお目にかかる機会はめったにない。そのうえHさんは、五感が優れているのだろう、マニア垂涎の名作家具も、作家の名前ではなく手に触れる感触を大切にして選んでいる。3人のお子さんの父親として、「こうした家具のある家で育ったことを、しっかり記憶して成長していって欲しい」と。そもそもHさんは東京育ち。子育てのため空気の悪い都会ではなく、自然の残る北関東の奥さんの実家近くにこの家を建てた。

ため息もののH邸の調度品。リトグラフは、戦後アメリカの抽象絵画を代表する作家、フランク・ステラのもの。結婚の際に、奥様のご両親からプレゼントされた。

ヴィンテージで手に入れた右上のパパ・ベアチェアは、ハンス J.ウェグナーのデザイン。

設計は、雑誌などで調べて選んだ「端正なスタイル」の彦根明さん。Hさんが希望したのは、「自然と一緒に生きる快適な家」だ。そこで建築家は、豊かに流れる地下水を利用し、リビングと庭の間に大きな水盤を作ることを計画。庭は、敷地の北西の位置に配した。屋内からは太陽に照らされた庭を鑑賞できるが、屋内に陽が差し込まない位置関係である。この水盤の効果は大きく、夏にクーラーを使うのは数日ほど。そのうえ蓄熱設備があるので、冬の暖房が不要なエコ住宅だ。美しいリビング・ダイニングについつい目を奪われがちだが、H邸は温度と湿度の管理に優れた、心地よい暮らしの機能が充実した住宅なのである。

また、ソファーが庭を向いていることも注目点だろう。塀の向こうの隣家の木々まで借景として楽しめるレイアウトは、テレビが無いので可能となったもの。お子さんたちは勉強以外の時間、庭で遊んだり読書をしたりカードゲームをして過ごすのだとか。Hさんたちの暮らし方である。

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