それぞれ独自の路線へそしてあらたに潮目が変わったのは現行Sクラスからである。見た目からも乗り味からも、スポーティな要素はほとんど消え失せ、エレガントでラグジュアリーな真っ当なセダンとなった。この時の国際試乗会で、その理由を開発責任者へ聞いた。
「正直に言うと、スポーティとエレガンスを両立させるのは非常に難しく、結局どちらも中途半端なものになりかねない。そこで新型Sクラスでは、スポーティな要素はもうAMGに任せることにしたんです。そしたら開発が一気に進みました(笑)。我々は優れた乗り心地と高い静粛性と上質な乗り味に専念できるのですから。で、我々の理想とする正当なSクラスを作り上げ、それをAMGに託してあとは好きなようにどうぞとしたわけです。結果的にこのやり方はうまくいったと思っています」
これと前後するように、AMGは独自路線を猛烈にアピールするようになる。スポーティとエレガントの両立の極みみたいなモデルだったSLを、原点回帰と銘打ってスポーツカーとしてAMG専属にしたり、“Eパフォーマンス”と呼ぶオリジナルのハイブリッド・システムを新設したり、F1由来のAMG ONEをお披露目したり、AMG専用のBEV用プラットフォームの開発を発表するなど、AMGはAMGでようやくやりたいことを存分にできるようになった。
そしてメルセデスは現行のEクラスを発表する。CクラスがEクラスをカバーできるサイズにまで成長してしまい、CとSに挟まれたEクラスの存在感は薄れていた。それでも存続を決めた理由を、メルセデスの役員は次のように語っていた。
「世界各国でメルセデスと聞いて思い浮かべるボディ・タイプを伺うと、いまでもセダンと答える方が大半なんです。実際にはSUVのほうが売れているのに。つまり、メルセデスにとってセダンはブランドの象徴であり、それを止めるわけにはいかない。カジュアルなCクラスと、ショーファー・ドリブンとしても使えるSクラスが完成したいま、上質なドライバーズ・セダンとしてのEクラスには存在意義があるのです」
変節の収束
ドライバーズ・カーというと、自動的にスポーティな操縦性を連想してしまうが、そんなことはない。クルマとの意思疎通ができてドライバーの入力通り正確に動き、動的質感が高ければそれは立派なドライバーズ・カーであり、Eクラスはちゃんとそうなっている。その上、Cよりも明らかに上等で、でもSほどフォーマルではない絶妙な雰囲気は、デザインと乗り味の両面からも感じとることができる。
AMG GTのフルモデルチェンジのニュースを聞いたときは「SLのクーペ版か」とあまり期待していなかった。先代はリア・トランスアクスル形式の専用シャシーを持っていたからだ。ところが乗ってみるとSLとは別物過ぎて驚いた。正真正銘の硬派なリアル・スポーツカーである。「エレガンスが希薄になった」と思っていたSLの印象が、とてもエレガントなクルマへと一変した。
この2台は現時点において、これまでのメルセデスの変節がようやく収束して誕生した、本物のドライバーズ・カーだと思っている。
文=渡辺慎太郎 写真=郡 大二郎
■メルセデスAMG GT634マティック+クーペ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4730×1985×1355mm
ホイールベース 2700mm
車両重量(前軸重量:後軸重量) 1940(1060:880)kg
エンジン形式 水冷V型8気筒DOHCターボ
ボア×ストローク 83×92mm
排気量 3982cc
最高出力 585ps/5500-6500rpm
最大トルク 800Nm/2500-5000rpm
トランスミッション 9段AT
サスペンション(前) マルチリンク/コイル
(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 295/30ZR21/305/30ZR21
車両本体価格 2750万円
■メルセデス・ベンツE350e
駆動方式 フロント縦置きエンジン+モーター後輪駆動
全長×全幅×全高 4960×1880×1485mm
ホイールベース 2960mm
車両重量(前軸重量:後軸重量) 2240(1000:1240)kg
エンジン形式 水冷直列4気筒ターボ+モーター
ボア×ストローク 83×92.3mm
排気量 1997cc
最高出力 204ps/6100rpm+129ps/2100-6800rpm
最大トルク 320Nm/2000-4000rpm+440Nm/0-2100rpm
トランスミッション 9段AT
サスペンション(前) マルチリンク/エア
(後) マルチリンク/エア
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク
タイヤ(前/後) 245/40R20/275/35R20
車両本体価格 988万円
(ENGINE2024年12月号)
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