英国のF1コンストラクターとして知られるマクラーレンだが、本格的なサーキットを走るためのスーパーカーとして生まれたモデルが720Sだ。
骨格部には軽量高剛性なカーボン・ファイバー製のシャシーを採用し、720psを発揮するV84.0ℓツインターボのパワー・ユニットはエンジン・オイルの潤滑にドライサンプ方式を用いて低重心化。車体の中心にキャビンをレイアウトし、空力性能も高めるなど、各部の設計は高次元のポテンシャルを発揮させるために一切の妥協を許さない。
走り出すと優れた前後重量配分と低重心が相まってコーナーでの回頭性に優れ、ブレーキ、操舵、アクセルペダルの操作に車体の動きが応え、まるで自分の手足の一部のように操ることができる。走行モードをスポーツやトラックに切り替えると、乗り心地は悪くなるどころか、むしろ快適に思えてくるほどで、タイヤが路面の変化を捉えて離さない。見た目はロードカーだが、中身は本格的なフォーミュラ・カーさながら。まさに、走るために生まれたストイックなレーシング・カーそのものだ。
昆虫の顔のようなフロント周りだけでなく、コクピットが前進した全体フォルムも工業製品というよりは生物のよう。マクラーレンは異形異質なスーパー・スポーツカーである。合目的的でストイックなミニマリズム、あるいは「フォーム・フォロウズ・ファンクション」こそマクラーレンの教義である。
冷徹に速さと勝利を追求してきた哲学がそのまま形になっているようだ。4.0ℓに拡大されたV8ツインターボは720ps/7500rpmと78.5kgm/5500rpmを誇るが、街中や高速道路では2000rpm程度も回れば十分なドライバビリティも併せ持ち、単に転がすだけなら誰でも可能。
だが完全に乗りこなすことはよほどの上級者でなければ難しい。たとえばローンチ・コントロールでの全開加速時には(TCSオンでも)ちょっとでも路面のμが低いと大げさに姿勢を乱す。真価を発揮するのは路上では試せないような速度になってからだ。ハンドリングは研ぎ澄まされ、スタビリティはレーシングカー並み。驚異の速さを御すスキルがあれば、別世界に連れていってくれるはずだ。
〔読者コメント〕
●地面に吸い込まれそうな速さ。加速中の音がより速さを感じさせ、もう一周して欲しいなぁとつい言ってしまいました。楽しい。(長藤貴世江さん)
●ほぼレーシング・カーやけど、乗り心地がしなやか。見た目はちょっと恐い。(田渕貞吾さん)
●至福の刺激。自分で運転できるスキルはないけれど、同乗でサーキットを走って欲しい。一度経験できて良かった。(宇佐美雅也さん)
●圧巻のエンジン。圧倒的ボディ/フロア剛性、低重心/ワイド・トレッドによる水平移動状態でのスラロームでスーパーカー堪能です。(杉浦啓修さん)
●さいこうのかそく!!スーパーカーなのに足まわりもさいこう!!(湯浅公太さん)
●異次元の加速、コーナリング。(藤本治生さん)
●なんじゃこりゃ、最高。ブレーキ、トラクション、全てが良い。ものすごくライト・ウェイトな感じがした。(中村孝治さん)
●音と加速はもう公道のものではない。しびれないわけがない。でも、脚が想像とまったく(良い意味で)別物でした。乗り心地、ぜんぜんわるくないんですね。(小川憲一さん)
MP4-12C、650Sの後を受け継ぐのが720Sだ。前後連関式の電子制御ダンパーやエア・ブレーキ機能を備えた電子制御式可変リア・スポイラーなどを備えるまさにマクラーレンのロード・ゴーイング・スーパースポーツの中心的な存在である。つい最近、スパイダーも加わった。ミドシップの4.0ℓV8ツインターボ・ユニットは最高出力720ps/7500rpm、最大トルク78.5kgm/5500rpmを発揮。7段DCTを介して後輪を駆動する。
全長×全幅×全高=4543×1930×1196㎜。ホイールベース=2670㎜。車両重量=1419㎏。車両価格=3338万3000円。
写真=神村 聖(メイン/サブ)
(ENGINE2019年4月号)
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