79号車として加わった2005年式ポルシェ911カレラ4S。中古車を手に入れたら、最初にやるべきは内外装の磨きと車両のメンテナンスだろう。そこでまずは磨きのプロである赤羽橋のハイランダーに入れ、年3回のメンテ付きガラス・コーティング・コース(税別15万円)で徹底的に磨き上げてもらうことにした。
79号車をひと目見たハイランダーの田中 督(たなか・ただし)社長が、「パッと見てシャキッとした感じがあるからいいんじゃないの」と言いながら、右リア・フェンダーが塗り直してあることを指摘したのには、正直驚かされた。先月号にも書いたように、買う前の調査で、79号車には当て逃げにあった過去があり、リアのバンパーとフェンダーが修理されているのはわかっていたのだが、それが左右どちらでどういう修理をしたのかは私も知らなかったのだ。しかし、プロの目で見ると、右リア・フェンダーの色が微妙に違っているという。
79号車のボディ・カラーはアークティック・シルバー・メタリックだが、この色は微妙に黄色がかっているのだとか。その黄色味が右リア・フェンダー部分だけちょっと違うというのだが、私にはいくら見てもわからなかった。ホイール・アーチの部分に板金跡があるとも指摘されたが、私にはそれさえわからない。ただ、言われてよく見ていたら、リアのコンビネーション・ランプとフェンダーの間のすき間が、左側に比べて右側の方がかなり広いことに気付いた。プロの目の鋭さに感心しつつ、一週間の海外出張中に預けて、仕上げてもらうことにした次第である。
帰国後、さっそく引き取りに行ったら、79号車はまるで新車のようにピカピカに磨き上げられていた。そして田中社長が開口一番、「これは当たりのクルマだよ!」と言ってくれたのは、心底うれしかった。なにしろ、編集部のなけなしのお金を投じて手に入れたクルマである。もしハズレだったら私の鑑識眼が問われると、内心ビクビクしていたのだ。それはともかく、どこが当たりかというと、クルマの保管状態がとても良く、長年の間、屋根付き車庫に置かれていたと想像されるというのだ。なぜなら、紫外線がクリアの表面にあたり続けたことによってできる髪の毛のようなヒビが見られないからだ。
田中社長のように何万台ものクルマを見ていると、そのクルマがどういう状態で使われてきたか、わかるようになるという。飛び石やゴム類の劣化、ボディ表面の状態や焼け方で、走行パターンやどんな場所で保管されていたかまで見えてくる。車庫が東西南北のどちらを向いていたかまで、ハッキリわかるケースもあるそうだ。その点、この79号車はボディの焼けが少なく、とてもコンディションのいい状態で保管されていたと思われると聞いて、私はホッと胸をなで下ろした。
ただし、洗車にはそんなに気を使っていなかったのではないか、というのが田中社長の見立てだ。これまたワックスの滓や磨き残しでどういう手入れをしていたかがわかるというのだが、このクルマにはプロが定期的に手を入れていた跡がなく、オーナーが自分で洗っていたのではないかと想像されるという。そのために隅々まで手が行き届いていたとは言い難く、たとえば、ワイパーの前にあるプラスティックのパーツは白くなっていたし、リアのスポイラーの下はホコリで真っ白で、蜘蛛の巣まで張っていたそうだ。今回は、ボディのコーティングに加えて、そういうプロでないとなかなか磨き上げられない細かい部分をきっちりと丁寧に仕上げてくれたのだ。
内装で感動したのは、レザー・シートの輝きがまるで違うものになっていたことだ。磨く前にはテカテカと光っていたのだが、これは人間の皮脂がついたことによるもので、本来は艶消しの黒であったのを初めて知った。いや、かつて試乗車に乗ったことがあるのだから知っていたはずなのだが、もう忘れていたのだ。
それに左フロント・フェンダーにあったタッチ・ペイントによる補修跡も跡形もなく消えていた。磨いたらタッチ・ペイントの下にあった引っかき傷まで消せたのだという。田中社長によれば、磨きはディテールが大切で、ホイールやマフラーの内側まで、とにかくすべてをきれいにすることによって、はじめてクルマ全体が引き締まっていくのだという。トータルでどう手を加えていくか、最後はセンスの問題になるというのだが、ここまでシャキッとするなんて、本当に脱帽である。今後、ダッシュボードのレザーのはがれ跡やフロント・バンパーの擦傷も順番に修復してもらう予定だ。
■79号車/ポルシェ911 カレラ4S(996型)
PORSCHE 911 CARRERA 4S
購入価格(新車時) 340万円(1244万2500円)
導入時期 2017年4月
走行距離(購入後) 8万3269km(884km)
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=山下亮一
(ENGINE 2017年8月号)
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