今月号のドライバーズ・カー特集の中で、最新の911カレラGTSとカレラをテストすることになったので、ついでに79号車もロケに連れて行き、乗り比べてみることにした。同じ911でも、先々代の996型と最新の991後期型ではずいぶんと乗り味が異なっていることは、すでに79号車導入時の記事でも少し触れたが、それにしても改めて乗ってみると、あまりの違いに驚かされてしまった、というのが正直な感想だ。
ひとことで言ってしまえば、996の「重厚」と991の「軽快」ということになるのだが、ステアリング・ホイールにしてもペダル類にしても、79号車の操作フィールがかなり重めで、湿り気を伴っているのに対して、新型991のそれはすこぶる軽く、どこまでもドライな感触なのだ。パワステが996は油圧式、991は電動という違いがあるにしても、ちょっと唖然とするくらいの違いがあって、それは足回りのフィールにも通じている。すなわち、79号車には岩盤のように硬いフロアに乗っている感覚があり、それがこれまた硬めのサスペンションを通じて路面の荒れを強引にドシン、バタンと押さえつけるようにして走るのに対して、991はそれよりずっと軽い乗り物に乗っている感覚が強く、サスペンションもどこまでもしなやかに動いて、路面の荒れを押さえつけるのではなく、上手にいなして駆け抜けていく感じである。
実際の車重の違いを車検証で確認すると、確かに79号車が一番重くて1520kgもある。6MTでもこんなに重いのは、4輪駆動でターボと同じワイド・ボディを持っているせいもあるのだろう。一方、後輪駆動で7MTの991後期型カレラは1450kgで、これは軽い。しかし、同じく後輪駆動だが7PDKのカレラGTSは1500kgで、79号車との違いは20kgしかないのに、乗っているともっと大きな開きがあると感じられるのだから、実際の車重がもたらす以上に大きな味付けの違いがあると言うべきだろう。この味付けの方向性の違いが出てきたのはいつからなのだろうか、と考えてみると、996から997に切り替わった時に、基本は同じシャシーを踏襲しているにもかかわらず、操作フィールも足まわりも大きく変化したように思う。それが991でシャシーが一新されると、軽やかでしなやかな味付けが完全に定着したのである。その意味でも、いま991と乗り比べてみると、79号車には重厚な味付けのクラシック・カーのような趣きがある。こと乗り味に関しては、同じ水冷の997以降よりも、993以前の空冷時代に近い感覚を持っているように思えるのだ。
もうひとつ意外だったのは、かつて「巨人の手で後ろから押し出されるような」と形容された911ならではのトラクションの掛かり方は、4WDであるにもかかわらず79号車の方に後輪駆動の最新モデル以上の濃さで感じられたことだ。最新991は驚異的にバランスが良くなり、とにかく速いし、非の打ち所がないのだけれど、こと911濃度の点では79号車が上と思えたのだ。むろん、“最新が最良”の格言がそれで覆るわけではないけれど……。
■79号車/ポルシェ911 カレラ4S(996型)
PORSCHE 911 CARRERA 4S
購入価格(新車時) 340万円(1244万2500円)
導入時期 2017年4月
走行距離(購入後) 8万4027km(1642km)
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=望月浩彦
(ENGINE 2017年10月号)
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