プジョーとメルセデス・ベンツが早い時期から手を付けていたとはいえ、洋の東西でディーゼル・エンジンが乗用車用に普及の途に就いたのは、第1次石油ショック後の1970年代半ば以降のこと。当時、排気量2.0〜2.2リッターの自然吸気直4ディーゼルは60ps前後の最高出力を搾り出すのが精一杯だった。最大トルクは上手くいっても15kgmほどでしかなかった。それが今やどうだろう。
今回、日本上陸直後に借り出す機会を得たアルファ・ロメオのジュリアに積まれた2.2リッター(2142cc)ディーゼルは、実に190psと45.9kgmを楽に出す。40年で3倍のパワーを捻り出すまで進化したのである。かつてはどうやっても不可能と思われた排出ガスの浄化をきっちり行なってである。しかも、40年前、エンジンの単体重量は自然吸気であっても優に200kgを超えていたのが、このクラス最軽量を誇る、FCAのアルファ・ロメオ専用ユニットは、ターボ過給系の少なからぬ補機が加わっているにもかかわらず、なんと155kgしかない。おかげで、前後重量配分は完全な50対50が実現されている(軸荷重は前後ともに800kg)。まさに夢が現実のものとなったディーゼル乗用車だ。
800kmほどを一気に走ってみて、どう思ったか。もし僕がジュリアを買うなら、これしかない!200ps仕様のガソリン・エンジンを積むモデルに優に匹敵する絶対的な動力性能を備えている上に、高いギアを保持した状態での追い越し加速性能は、遥かにこちらが優れる。アイドリング時、とくに冷間始動直後に少しカラカラいうが、走らせ始めれば、ディーゼルであることを意識させられることはほとんどない。穏やかに走らせて良し、鞭打って走らせて良し。燃料噴射装置と変速機の電子制御プログラムを切り替える“アルファDNA”のN(ナチュラル)とD(ダイナミック)は、走行スタイルに合わせて積極的に使い分ける意義がある。山道でDを選んで興じると、これがディーゼルかと思わせる速さと楽しさだ。脚の仕立てはかなりスポーティで、姿勢変化は少なく、ステアリングは極めてダイレクトな上に、アルファ実験部隊の好みで初期アンダーステアが徹底的に封じ込まれているから、まるでスポーツカーのような感触だ。それでいて、280psのヴェローチェほどには締め上げられていないから、一般道や高速道路のおとなしい巡航でも、乗り心地に不満を覚えることもない。そのさじ加減が絶妙なのである。
このクラスのディーゼル・モデルのなかにあっても、走らせて楽しいということでは、これが随一である。
文=齋藤浩之(本誌) 写真=望月浩彦
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