ボルボの7人乗り大型SUVであるXC90に、導入から3年を経てディーゼルが追加された。2リッターガソリン4気筒ターボのT5、スーパーチャージャーを加えたT6、そしてプラグインハイブリッドのT8に続く、第4のパワーユニットだ。ただしこのディーゼルはすでにV40やXC60、V90で実績のあるD4ユニットではなく、初上陸のD5ユニットだ。D4とD5はどちらも2リッター4気筒のシーケンシャル・ツインターボだが、D5はバリアブル・ターボとなり、最高出力が+45psの235ps、最大トルクが+8.1kgmの48.9kgmに向上している。さらにD5にはパワー・パルスというターボラグ解消のための機構も備わる。コンプレッサーによる圧縮空気を小型タンクに貯め、排気管経由で高圧側タービンに送り込むもので、発進時や低速域の限定だが、トルクの立ち上がりが素早くなる。8段ATとオンデマンド式4WDのみの組み合わせとなるのは従来通りだ。
お昼前に羽田から山形まで空路で向かい、そこから試乗車のXC90 D5 AWDインスクリプションで北上。鳥海ブルーラインを走って鶴岡で一泊。翌日は山形道と開通直後の東北中央道を通ってお昼までに都内へ戻るという強行軍だったが、いやはや、これほど安楽な旅になるとは思わなかった。では快適すぎて心躍る瞬間がなかったのか、と言われればさにあらず。GW開けの鳥海山はXC90にとって最高のステージだった。
最初は緑の森を行く低速コーナーが続くが、視界が開け、日本海が見えるのと同時にヘアピン・カーブが連発。さらに上ると、雪壁が道の両側にどーんとそそり立っている。すれ違うクルマもまばらで存分にXC90の動力性能を味わえる。「うわぁ、チカラあるなぁ」。助手席の山田カメラマンがそう漏らす。標高1150m、鳥海山の五合目まであっという間だ。D4ユニット搭載のV40にはじめて乗った時の、これはホットハッチだ、と思った記憶が蘇った。右足に少し力を込める度に、身体がぐっと押しつけられる。重いXC60やV90とD4ユニットの組み合わせでは、こんな身のこなしはできない。しかも驚くほど静かだ。始動時や走り出し直後こそディーゼルらしい音を意識させるが、走行中は常にロロロッというわずかなサウンドが室内に響くだけ。なお車重はグレードが同じモメンタム同士ならばディーゼルはガソリンのプラス30kgだが、0-100km/h加速はディーゼルが0.3秒上回り、7.6秒をマークする。
脚の仕立てもいい。導入直後のXC90の、特に重量のかさむT8ユニット搭載車は標準装備のエア・サスペンションが突っ張り、路面の凹凸を拾いがちだったが、同じエアサスでも試乗車は別物だった。無料開放となってから久しく、整備の行き届いていない鳥海山のような路面がうねり、ところどころ荒れた道でも、不快に感じるような動きを見せることがない。車高は走行モードに応じて自動または任意で上下できるし、低μ路でスロットルを一気に開けてもずんずん前に進むから、麓のキャンプ場に続くラフロードでも、日本海を見渡す砂浜でも、いっさい気を遣わず走ることができた。都会的でスタイリッシュな見た目からは想像できないが、実はワイルドで頼りになる存在なのだ。
グランドツアラーとしての能力も特筆ものだった。71ℓという現行ボルボ最大の燃料タンクを備える上に、省燃費走行は一切せず、状況に合わせてモードを切り替えながら約800km走っても、積算の燃費は最後まで15km/リッターを下回らなかった。
新しいプラットフォームとデザインの力によってブランド・イメージを刷新し、ボルボ躍進のターニング・ポイントとなったXC90。従来のスウェーデン・デザインを完全に再定義したクールなインテリアやエクステリアには、時にパワートレインの存在を黒子にしてしまうT8ユニットがよく似合うと常々感じていた。けれど遅れて来たディーゼルは、それ以上の魅力に溢れた1台だった。まさに真打ちというにふさわしい。D5ユニットを得てXC90は恐ろしく快適なマルチパーパス・カーになったと、僕は思う。
欧州ではS90、V90、XC60にも設定のある“D5”ユニットだが、日本市場ではXC90以外への導入予定はない。グレードはベーシックな“モメンタム”と上位の“インスクリプション”の2つで後者はシート・ヒーター&ベンチレーション、マッサージなどを標準装備。既存のガソリン・エンジンやプラグイン・ハイブリッドのXC90同様7人乗り仕様のみ(写真上、下)。価格はXC90 D5 AWDモメンタムの789万円〜。
ボルボXC90 D5 AWDインスクリプション
文=上田純一郎(本誌) 写真=山田真人
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