2022.08.26

LIFESTYLE

「これから活躍する若い建築家と家をつくりたい」という施主が出した100の要望を、アッと驚くローコストでかなえた建築家の提案とは

100の要望受けて100の模型がつくられた驚きの家。

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週末はドライブに

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高井さんは、生まれも育ちも三重県鈴鹿市。そうした生い立ちもあって、F1もクルマも好きだ。クルマがあって当然の生活を送ってきた。

最初のクルマはMTの日産スカイライン(R34)。家族が増えてからは、あまり大きくない、カワイイクルマを選び、フィアット・グランデプントに。「小さなクルマから、元気な子供3人が次々に降りてきて、よく驚かれた」とか。家を手に入れる前にプジョー2008(2015年型)に乗り換えている。

「休みの日は他の交通手段に頼るのではなく、自分でクルマを運転してどこかに行きたい」と考える高井さんにとって、ドライブは週末の大事な楽しみ。買い物や近くのお出かけが中心であるが、運転は楽しく、良い気分転換になっている。

さて、建築家に住宅の設計を依頼した場合、設計に1年、施工に1年で、合計2年で住めるようになるのが普通のペースだ。ところが、工期が短縮できれば、コスト削減となる。そこで高井さんは、1年で入居できるように、進行管理を積極的に手伝った。日頃、オフィスの設計や構築マネジメントを行っているプロだからできることだ。



100の要望を提出

まず高井さん夫婦は、100ほどの希望を書いた「要件シート」を作成する。その中で最も重要な項目が、プライバシーと日当たりの確保だった。家の前は人通りが多いうえ、道路を挟んだ南側は商店で、絶えず店主が店先で番をしている。また、中庭も優先順位が高いものであった。

こうした建て主の要望に対し、建築家は幾通りもの解決策を検討し、実際に百近い数の模型を作成。その中の最善の案が、この家となったのである。

そして最重要の課題を解決したのが、2.4×2.4mの大きな窓をふたつ、通行人の視線より高く、家の中が覗かれない位置に設置する案だ。東側ははめ殺しのガラス窓で、南はぽっかりと穴の開いた、中庭に通ずる大窓。この大きなガラス窓は、ビル用サッシの既製品だ。日差しの強い時は、ロールカーテンで遮ることもできる。しかも東側のお隣さんは、地下が防火水槽となった更地で、建物が建つ可能性は無い。これだけ大きな窓を設けても、隣家から覗かれる心配は無いのだ。そしてリビングの先の中庭は、空間を広く見せるだけでなく、家族に安らぎを与える場所となっている。

その他、要件シートにあったのは、「みんなの居る部屋を広く」「玄関からリビングを通って、個室に行く間取り」など。希望通り、一階は大きなリビングダイニングに。木造住宅にもかかわらず、太い梁のおかげで、天井高2.75mの柱のない大空間となった。ここから階段で2階に上がっていく間取りだ。

三人のお子さんが共同で使っている2階の子供部屋も、大きなひと間。中庭と吹き抜けに面した、大きな開口部がある明るい部屋だ。吹き抜けを通して、1階から2階の気配が感じられるのも、高井さんたちが希望したことである。一方、夫婦の寝室などは最小限のサイズ。収納にも扉は設けず、ロールスクリーンとした。キッチンのシェルフも、扉の無い見せる収納で、コスト削減を徹底している。



家づくりは楽しい

段取り上手な高井さんと、熱心な久保さんたちの頑張り、そしてお互いがプロであるからこその早い決断で、家は予定通り1年で完成した。しかも高井さんたちの希望要件を満たした、若い建築家ならではの、新しい提案に満ちた家である。久保さん都島さんの二人にとって、この家はさらなる飛躍の機会になったのではなかろうか。そして何より、この家で遊んでいるお子さんたちの、楽しそうな姿が印象に残った。

「戸建て住宅を建てるのはいいですね。仕事の面でも勉強になりましたが、それ以上に楽しいものでした。できたらもう一回、家を建てる機会があればいいですね」

高井さんは満足そうに呟いた。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

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■建築家:久保秀朗 1982年東京生まれ。東京大学大学院修了。吉村靖孝建築設計事務所を経て、2011年に久保都島建築設計事務所を共同設立。都島有美 1982年愛知県生まれ。中村拓志&NAP建築設計事務所勤務を経て独立。二人は公私とものパートナー。まるほん旅館風呂小屋は出世作である。コンペで勝ち取った5階建ての銭湯スパが、両国にオープンした。

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雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネートを担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」がスタート。建築、インテリア、アートをはじめ、地方の工房や名跡、刺激的な新しい施設や展覧会など、ライフスタイルを豊にする新感覚の映像リポート。第1回配信は、エンジンでも紹介したことのある国際的建築家、窪田勝文さん設計の山口県のミニマリスティックな住宅。最新のルームツアーは、詩人でもあり建築家でもあった立原道造が1938年に設計した「ヒヤシンスハウス」を紹介中。素敵な音楽と美しい映像で見るちょっとプレミアムなライフスタイル番組は必見の価値あり!


(ENGINE2018年3月号)

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