初代登場からすでに30年の時が過ぎようとしているロードスター。量産メーカーにあってほとんどのパーツが専用設計という稀有な存在だ。素のモデルともいうべきロードスターSと、最硬派のRFRSに乗ってみた。
齋藤 日本のスポーツカーといえば、コレ、マツダのロードスターを忘れるわけにはいかないでしょう。1980年代末に初代モデルが登場して以来、絶えることなく続いてきて今のモデルが4代目。3代目と同じく、格納式メタル・ハードトップとしたRFもラインナップされている。そのロードスターから2台を連れ出して、改めて乗って見ました。幌屋根のロードスターの方はいちばん安いロードスターSの6段MT仕様。もう1台はRFのいちばん硬派なモデルとなるRS。これにはオプションのブレンボ社製ブレーキとBBS社製鍛造ロードホイールも加わっていて、ほんとに走り最優先の仕様になっている。そういう2台です。
大井 僕の場合、チューニングしたクルマに乗る仕事が多いんですよ。なんらかの改造が施されたクルマに。今回乗ったロードスターSって、いちばん安くていちばん軽い。それって、チューニングのベース・カーになる仕様でもある。脚を変えたりホイールを変えたりという場合に、捨てるパーツが安いから。なもので、ついそういう目で見てしまいがちなんだけれど、今回、このすっぴんのロードスターSに乗ってみたら、これがすごく良かった。素のままの良さがかなりあることを再発見した。
齋藤 そうなんですよ。これぞロードスターっていう感じがする。
大井 脚は柔らかくて、リアのスタビライザーも入っていない。差動制限デフも付いていない。
齋藤 オープン・デフのままです。
大井 でも、その脚の柔らかさが、車体の剛性とマッチしていて、ボディのカチッとした感じが伝わってくる。もし、これでサーキットを攻めるような使い方をすれば、早々にサスペンション・ストロークを使い切って駆動内輪が空転したりするかもしれないけど、ワインディング・ロードを走るのなら、これがいちばんいいんじゃないかという気がした。
齋藤 クルマの重さ、ボディの剛性、エンジンのパワー、脚の設定、それらがちょうど上手くバランスしていて、どこにも綻びがない。有機的に結びついているような感触すらある。だから、山道を走っていて、これ以上何が要るの? という気がしてくる。動かしがたい均衡がそこにある。
荒井 うんうん。
齋藤 パワーを上げれば、脚を締めなくちゃならない。脚を締めるにはボディを強化しなくちゃならない。加速性能が上がったら、制動能力も引き上げなくちゃならない。いたちごっこの連鎖になる。そのなかで上手くバランスをとっていく作業って、容易なことじゃない。ものをよく知ったプロでなければできない仕事。
大井 まあ、そうですね。
齋藤 この4代目ロードスターが出た時、このSというモデルは、開発陣が目標のひとつに掲げた1t切りを実現するためのスペシャル・モデルなんじゃないかと訝しく思った。リアのスタビまで外されているし。ところが、そうじゃなかった。むしろ、これこそが理想的な仕様だった。僕なんかは、「ロードスターに乗るならコレだよ!」と思う。何度接しても、この思いは強くなることはあっても、翻ることがない。
大井 結局、ロードスターを評価する上で核心となるのは、スポーツカーとは何か、ということだと思う。この4代目ロードスターって、例えばジムカーナなんかをやると、驚くほど速い。エンジンのパワーは所詮1.5リッターの自然吸気だから大したことないにもかかわらず速い。グイグイ加速するトルク感があるわけじゃないのに速いのは、ボディの軽さが一番だと思うけど、ギヤ比の良さとか、全体で作り出す速さ。それってスポーツカーとして王道なんですよ。
荒井 爽やかな好青年に出会ったような感じがする。こんなに爽やかなヤツがいるんだったら、世の中捨てたもんじゃないなって思った。クルマを操る楽しさは、スピードとはまた別のものだと気付かされた。
齋藤 マツダは2リッターエンジンを持っているのに、幌屋根のロードスターには載せないという方針を貫いている。もう1台の方のRFには最初から2リッターエンジンが積まれていて、つい先ごろには、1.5リッターと同じように高回転性能を改良したユニットを投入したりしているのに、それでも幌屋根版には載せないんだから、敢えてそうしているということでしょ。
大井 1.5リッターで作った新型ロードスターなのに北米市場からは2リットルじゃなきゃ受け入れられないみたいなこと言われて、マツダは嫌々2リッターを載せた。メタル・ルーフのRFはどうしても車両重量が嵩むんで、それにも2リッターを載せた。でも、ロードスター専用に他のメーカーでは考えられないような専用の仕立てを用意した1.5リッターに比べると、古い2リッターはなんかもっさりしている。マツダ自身も心苦しかったのか、遅まきながら2リッターの方も1.5リッターのように専用のチューニングを念入りにやって、先のマイナーチェンジでRFに投入したという感じだよね。
荒井 素のロードスターって、マツダの開発陣の志でできたクルマだという感じがする。マーケティングでできたクルマとは思えない。志そのものに乗っているような気がする。
齋藤 クルマがどんどん大型化して重くなってパワフルになってという流れの中で、軽いものをほどほどそこそこのパワーで軽快に走らせる、ということが経験できなくなってしまった。クルマのカテゴリーを問わず2ペダル変速機が当たり前になってしまって、3ペダルのマニュアル・ギアボックスを操る喜びもなかなか味わえない。ほんとうにロードスターって貴重な存在。
大井 マツダは偉いよぉ。エンジンはもちろんだけど、MTの変速機やデフも内製しているんだから。
荒井 マツダの考える幸せは他の会社の考える幸せと違う気がする。
大井 かつてフォード傘下に取り込まれて強い制約で締め付けられた時代があったからこそという気もする。
荒井 大きくなって、パワフルになって、ゴテゴテしていってという世の趨勢のなかで、必ずしもそれだけが幸せに辿り着く道じゃないんだということを教えてくれるクルマというのは、素晴らしいと思う。
大井 マツダの"人馬一体"と言うコンセプトがこれほどよく実感できるクルマもないと思う。NDロードスターの真髄ここにあり、だな。
荒井 これに乗って楽しいと感じられなくなったら、俺、免許返納しようかなという気になった。
齋藤 一方で、RFのRSはマツダ自身によるチューニング・カーという感じのクルマだった。脚の仕立ては、これ以上やったら普段使う上で破綻が生じるギリギリのところで寸止めしてある感じ。2リッターエンジンは上までスムーズに回るようになって、GT的な感触だったクルマの性格がスポーツカー寄りに修正された。
大井 オープンと較べちゃうとRFの動きには重さを感じるけど、それを忘れさせてくれるパワーがあるし、屋根を閉めている時の剛性感とか、ボディ・ラインの綺麗さとか大人っぽい魅力がある。そういう魅力を楽しむのであれば、RSよりソフトな仕様の方が似合ってる。
■マツダ・ロードスター S
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 3915×1735×1235㎜
ホイールベース 2310㎜
トレッド 前/後 1495/1505㎜
車両重量 990㎏(前520㎏:後470㎏)
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴
総排気量 1496cc
ボア×ストローク 74.5×85.8㎜
最高出力 132ps/7000rpm
最大トルク 15.5kgm/4500rpm
変速機 6段MT
サスペンション形式 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 195/50R16V
車両価格(税込) 258万6600円
マツダ・ロードスターRF RS
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 3915×1735×1245㎜
トレッド 前/後 1495/1505㎜
車両重量(DIN) 1100㎏(前560㎏:後540㎏)
エンジン形式 直列4気筒DOHC16V直噴
総排気量 1997cc
ボア×ストローク 83.5×91.2㎜
最高出力 184ps/7000rpm
最大トルク 20.9kgm/4000rpm
変速機 6段MT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 205/45R17V
車両本体価格(税込) 386万6400円(テスト車:419万400円)
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話す人=荒井寿彦+齋藤浩之(以上ENGINE編集部)+大井貴之 写真=望月浩彦
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