「これこれ、シトロエンはこうでなくっちゃ」。シトロエンの新しいコンパクトSUV、C5エアクロスSUVの運転席に収まった瞬間、往年のシトロエンのようにふんわりと優しく体を包み込むような(パッケージ・オプションで装着されていた)ナッパレザー・シートの掛け心地に、そんな胸の内が思わず声になって出てしまった。
シート以外にもC5エアクロスSUVはシトロエンらしさに溢れている。まずは外観。どれがヘッドライトだかわからない独特のフロント・マスクはちょっと大人の雰囲気を持つ2段式グリルへと進化を遂げているものの、シトロエンC4カクタスから始まった最新世代のシトロエン のデザイン言語はしっかりと受け継がれている。ダブルシェブロンのエンブレム以外に昔のシトロエンを彷彿させる意匠はないけれど、ほかのどのクルマにも似ていないという意味では、まさにシトロエンと呼ぶに相応しいデザインと言えるだろう。もちろん、同じPSAグループの兄弟車であるプジョー3008 / 5008、DS7クロスバックとはプラットフォーム以外にも機能面の多くを共有しているはずなのに、見た目ではしっかりと差別化が図られているのは言うまでもない。

外観ほど個性は強くないが、内装にもシトロエン風味は盛り込まれている。それを一番強く感じられるのは先に取り上げたシート。そして、その次に来るのがメーターだ。兄弟車同様に採用されたフル液晶メーターにはドラム式速度計のボビン・メーターを模した表示が盛り込まれている。アナログでボビン・メーターを再現するのはお金と手間を考えるとなかなか難しいが、液晶表示のバーチャル・メーターならそれが一気に解消というわけだ。残念ながら視認性はイマイチだが、デジタル式の速度計が別表示されるので、機能的に困ることはない。
C5エアクロスSUVは走りにもシトロエンらしさが垣間見れる。シトロエンらしい走りといえば、 ハイドロニューマチック・サスペンション、通称ハイドロをおいてほかにないだろう。金属バネとダンパーの代わりに窒素ガスと油圧回路を用いた特異な構造は空飛ぶ絨毯と賞された独特の乗り味を生み出し、それがシトロエン好きを虜にした。残念ながら2017年に採用が終了し、現在新車で手に入れるのは不可能だ。ハイドロを復活させることはないというシトロエンの言葉どおり、シトロエンC5エアクロスSUVにハイドロは備わっていない。しかし、路面からの入力を1回の行程で収めようとせずに何度かストロークさせながらいなしていく様はハイドロを思い起こさせる。しかも、その乗り味はとても柔らかで、心地よいのだ。そんなサスペンションの動きに貢献しているのが新しいダンパー・システムのPHC=プログレッシブ・ハイドロリック・クッションである。
これはダンパーの中に内蔵されたストローク・エンド付近で機能するもうひとつのダンパーが通常のバネやダンパーでは処理しきれない衝撃をバンプストップ・ラバーに代わって吸収する機構を取り入れた新しい構造のダンパーだ。バンプストップ・ラバーでは効きが唐突過ぎるのと減衰機能がないので衝撃が逆方向に跳ね返ってしまうが、PHCでは連続的に衝撃の吸収力を強められ、しかも減衰もできる。もちろん似た機構はルノーなどにも採用されているから、PHCそのものがシトロエンらしさの源ではないが、しかし、それを実現するうえで、大きな役割を担っているのは間違いない。


3兄弟の中で最後に登場したC5エアクロスSUV。すでに2ブランド、3モデルがラインナップする中で、どのような差別化を図ってくるか、そしてそれがどれだけ上手くいっているのか興味深かったが、シトロエンは見事にいい仕事を成し遂げてきた。しかもデザインだけでなく、中身もしっかりシトロエンになっている。C5エアクロスSUVの出来映えなら、2015年に最後のハイドロ仕様となったC5の導入が終了してから、行き場を失っていた日本のシトロエン・マニアも納得するのではないだろうか。

シトロエンC5エアクロスSUVシャイン
文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
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