2019.11.08

LIFESTYLE

たった3mの幅で暮らしてわかったスポーツカーのような家の面白さ! 施主の希望に想像を超えた独創性で応えた建築家のアイディアとは


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Hさん達が家作りを計画し始めたのは、仕事のためタイで暮らしていた11年前から。ハウスメーカーのものではなく、思い通りの家を建てられるようにと、ガレージのある魅力的な家を手掛けていた、地元福山の建築家である前田さんに、早くからコンタクトしていた。

新居に希望したのは、(1)大きな空間を小さく壁で仕切らないこと。(2)全てのエリアを毎日使いたい。めったに使わない客間は不要。(3)屋根のあるガレージ。(4)できれば書斎、というものだった。この中で(2)は、奥様のスポーツカーに対する考え方と似ていて興味深い。そしてHさんは、クルマ好きを盛んにアピールしていた。

ところが前田さんの提案は、2人の想像をはるかに超えた独創的なもの。随分と驚いたそうだ。なんとプランは、細長い積み木を十字に重ねたようなもの。一段低くなった平らな土地に、東西に延びる長さ11mの短い箱があり、その上に北側の平らな土地から南に向けて、長さが30m近くある箱が載った構成なのだ。しかも室内幅は3mで、南の先端7mは斜面の上に浮いている。こんな住宅、めったにお目にかからない。それでいて、前述の(1)(2)(4)の希望も満たしているのである。

ところが、Hさんにとって大事な車庫は、箱に斜めに開けられたトンネル部のみ。屋根の下には1台しか停められない。「あれだけクルマのことを話していたので、当然シャッター付きの大きな車庫があって、もしかすると部屋からクルマが見えることも想像していたのですが……」

だが、前田さんのプランの最大の魅力は、ダイニング脇の、3m幅の大きなガラス窓の向こうに、緑豊かな竹林が広がっていること。実はHさん達は、「リゾートハウスのような家」というリクエストも出していた。タイで買った、海外事例を集めた写真集「ヴァケーション・ハウス」を前田さんに渡し、イメージも伝えていたのである。そう、建築家は、土地の特徴を最大限に生かした、毎日暮らせるリゾートハウスを提案したのである。

窓から竹林しか見えないリゾートのような雰囲気のダイニング・キッチンはH邸のハイライト。この眺めと天井高が3m近いお陰で、幅が3mの空間で暮らしている窮屈な感じはない。窓は1枚の大ガラスに見えるよう、途中にカウンターを設け、上下2枚のガラスが一体に見える工夫を。

3mの幅で暮らす

「前田さんと打ち合わせを重ねるうちに、生活の中に自然な形でクルマがあるという考え方も、悪くないと考えるようになりました。でないと、車庫のために家を建てることになってしまいますから。次に悩んだのは、細長い部屋の幅が約3mということでした。3m幅の空間で暮らす生活は想像もつきませんでしたので。とはいえ、普通と違う家を、前田さんのスタイルでお願いした訳です。何度も丁寧に説明してもらい、最後は納得してお任せしました。住んでみると、天井高も3m近くあるので、かなりの広さを感じます」

しかも7mも宙に張り出していているお陰で、隣家の気配すら感じられず、緑あふれる窓からの景色は、ここがどこだか忘れてしまうほど。ダイニング・キッチンは、この景色が楽しめるだけでなく、リビングもよく見えるので、「我が家の中心です」と、奥様も大変気に入っている。

サラリーマンでも手の届く、しかもそのライフスタイルに合った、個性ある家を目指したH邸。それは、限られた予算で、楽しい走りを実現させた量産のスポーツカーにどこか通じるところがある。Hさん家族の、2座のクルマを楽しめる合理的な考えが、この唯一無二の家を生んだのは間違いないだろう。



■建築家:前田圭介 1974年 広島県福山市生まれ。国士舘大学卒業後、工務店で現場に携り設計活動を開始。その後、福山を拠点とする自身の設計事務所 UIDを設立。住宅、商業施設、保育施設など、幅広く手掛ける。写真の住宅でも、海外の建築賞を受賞。大学などで教鞭もとり講演も多い。愛車はポルシェ・マカン。

■お知らせ:雑誌『エンジン』の大人気企画「マイカー&マイハウス」の取材・コーディネート、執筆を担当しているデザイン・プロデューサーのジョースズキさんのYouTubeチャンネル「東京上手」がスタート。第1回配信は、エンジンでも紹介したことのある国際的建築家、窪田勝文さん設計の山口県のミニマリスティックな住宅。最新のルームツアー、小山光さん設計の「プールのある葉山の別荘」も配信中。ラグジュアリーな雰囲気の大人YouTubeチャンネル「東京上手」、必見です!

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2019年12月号)

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