日産の初代リーフが登場したとき、ああ未来はもうすぐそこまできてるんだとワクワクした。乗ってビックリ。新幹線は大袈裟だけど京浜急行くらいのスタート・ダッシュはあって、ゼロ・スタートからグイーンとカラダがのけ反る感覚は新鮮だった。
でも、残念なところもあった。充電を目いっぱいしても、あまり遠くには行けなかったからだ。自動車雑誌はこぞってリーフがどこまで走れるかをテストしたものだ。1年間編集部の長期リポート車として乗っていたときなど、毎日自宅のある国立と矢来町を往復するとき、電気を節約するために夏でも冬でもエアコンをオフにして走った。
自宅は集合住宅で充電設備は新潮社にしかなかったので、毎日がサバイバルだった。それから、デザインも残念だった。フツーのクルマ(エンジン車)から乗り換えても違和感のないようにしたというのが当時の説明だったけど、個人的には、それって反対でしょ、と思った。もっともっとワクワクさせてくれないと。

九州の阿蘇くまもと空港でIペイスの実車をはじめて見て、いいじゃんこれ、と思わずニンマリしてしまった。これこれ、待っていたのはこういうクルマ。電気自動車でないとこういうデザインは絶対にできない。
前輪を思い切り前に出し、Aピラーの付け根も極端に前の方にあるキャビンフォワード・デザイン。ロング・ノーズ・ショート・デッキの古典的なスタイルのFタイプと比べると、エンジン・フードは3分の1くらいしかない。いまSUVはクーペ・スタイルが流行りだが、これはその先を行っている。
全長、全幅、 全高は、それぞれ4695mm、2010mm、1565mm。全長にたいしてかなり横幅が広い。サイドのグラス・エリアやリア・ウインドウも狭く、フロント・セクションだけを見れば、ミドシップのスーパーカーのように見える。同じグループのレンジローバーのイヴォークも斬新なデザインで世界をアッと言わせたが、Iペイスのスタイルも相当なものだ。
こんなデザインが可能なのは、もちろんエンジンのないフルEVだからだ。フロントとリアのそれぞれにモーターを配置した2モーターの4WDだが、前後ともモーターは車軸と一体となった構造になっており、搭載位置も低くコンパクトに設計されている。
さらに432個のリチウムイオン・バッテリーのセルは、ボディの床一面に敷き詰めることでスペースを犠牲にすることなく、低重心化にも貢献している。こうしたパッケージは、専用のプラットフォームを使用するフルEV車の主流と言っていい。既存のプラットフォーム を使うEVだと、こうは行かないだろう。



九州試乗会のコースは、阿蘇くまもと空港から一般道で阿蘇山を越え、その後高速道路で福岡まで走り、翌日は一気に高速道路で熊本まで戻ってホンダの熊本工場の敷地内にあるサーキットを走るという、ほぼ走りっぱなしのプログラムとなっていた。つまり主催者としては、航続距離にも走りにも自信があるということだろう。
結論から言ってしまえば、Iペイスはなんの不安もなく熊本から福岡までノンストップで走りきることができた。アップダウンの続く阿蘇のワインディングもまったく苦にならず、それどころが何度かUターンしてクネクネとした山道を走り込んだくらいである。それほど走りが楽しかったということだ。
試乗したのは22インチの大径タイヤとエアサスが組み合わされ、ほぼフルオプション状態の豪華装備のファースト・エディションだ。キャビンフォワードの外観はEVらしい特徴的なデザインだったが、室内は意外とオーソドックス。それでも車内はビックリするほど広い。
特にAピラーの付け根が前方に張り出してできたダッシュボードの広さはすごい。絶壁のような圧迫感のあるインパネが特徴的だったイギリス車の面影は微塵もない。サイド・ウインドウが狭いのにやけに開放的な感じがすると思ったら、ルーフ全体がスモーク・ガラスだった。
このガラス、熱を通さない特殊ガラスなのだがシェードがないので、常に頭上に空が広がっている。こんなに開放的なのにリア・ウインドウは箱メガネのように狭いのには笑ってしまった。まるでスポーツカーみたい。
走り出しは静か。キーンとかシューンとかモーターの音がするかと思ったが、ほぼ無音。滑らかで滑るように走る。タイヤはオプションの22インチのピレリのPゼロを履いているが、若干ゴトゴトしてアシは少し硬いかなと思ったが、低速でもそんなにバタつくことはない。
フツーに走っているぶんには滑らかさが際立ついい感じのSUVと言ったところだが、ひとたびアクセレレーターを踏み込むと、696Nmの猛烈な加速が味わえる。この加速の立ち上がりの鋭さは、瞬時に最大トルクを発揮するEVならではものだ。
面白いのは、一定以上アクセレレーターを踏み込むと、踏む量に応じて電子音がすることだ。内燃機関のエンジンの音とはまったく違うし、高周波のモーターの音とも違う、少し湿り気のあるような緻密な連打音。
なにかに似ているような気がすると思って、ハタと気がついた。これってもしかして12気筒の音?まったくの電子音なのであくまでもイメージだが、考えてみれば、こんこんと湧き出るモーターのトルクといい、極上の滑らかな回転フィールといい、モーターのフィーリングはまるで12気筒みたいだと思った。



それにしても、電欠を気にすることなく思い切りEVを走らせることが、こんなに痛快だとは思わなかった。バッテリーの残量が気にならないわけではないが、目いっぱい踏んでワインディングを飛ばしても、まだまだ余裕がある。これがリーフだとこうは行かない。まあ、リーフは日常生活主体の短距離EVだから仕方がない。一方、Iペイスはグランドツアラーだ。電気自動車を電欠の恐怖から解放すると、こんなに楽しいのかと正直驚いた。
主催者が設定したワインディング・コースも楽しいことこの上ない。低重心の感覚はリーフやi3などで知ってはいたものの、バッテリー・セルを床一面に敷き詰めたIペイスは、まるで磁石で路面に吸い付けられたように走る。あまりロールはしないが、アシが突っ張っているような感じもない。
ブレーキ回生は強弱の2種類が選べるが、強を選べばワインディングでもアクセルのオン・オフだけの、いわゆるワンペダルで運転できる。車重は2.2トンもあるので、軽々というわけには行かないが、阿蘇のワインディングで音を上げるようなことはなかった。
一番驚いたのは、翌日、ホンダの工場内のサーキットを走ったときだ。そこではジャガーのFタイプSVRやFペイスSVRという550馬力のスポーツ・モデルと乗り換えながら走ったが、400馬力のIペイスも速さはほとんど変わらない。
それどころかサーキットで走りやすいのは圧倒的にIペイスの方だった。さすがにロールも深くなるが、恐怖感はまったくない。Fタイプの荒々しさと比べるとしっとりしていて走りも洗練されている。
プラットフォームも駆動系もまったくの新設計だが、Iペイスはまぎれもなくジャガーになっていた。EVでもジャガー。みごとなチューンです。

Iペイス・ファースト・エディション
文=塩澤則浩(ENGINE編集部) 写真=ジャガー・ランドローバー・ジャパン
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