あれは1995年11月の終わりのこと。テレビから秋葉原の家電量販店で「Windows 95」の発売を待ち、行列する人々の模様が流れてきていた。当時自分は大学生、パソコンもインターネットも携帯電話もない世界で楽しく暮らしていた。それゆえ、初めて耳にした「Windows」 というものがどのようなものなのか全く理解できなかったのだが、それでも、その名前は非常に魅力的に感じた。
窓を意味する英単語から、世界が広がっていく印象を受けた。「Windows」なるものを買えばワープロしか使えない私もパソコンができるようになるのかしら? と、勝手にときめいたりもした。とはいうものの、数年後、初めて買ったパソコンは Macだったのだが......。
そう、「窓」という言葉や概念は、家や建物に取り付けられた開口部という意味だけでなく、「あちら」と「こちら」を繋いでくれる存在という重厚なイメー ジを持っている。そして、私達の想像力を無限に掻き立ててくれる。
だからアー ティストは絵画や彫刻、インスタレーションに窓をモチーフとして持ち込もうとするし、建築家は窓をどのような形にし、配置するかを古代ローマの時代からずっと考えてきた。窓はさりげなく、人々と密接な関わりを持ってきたのだ。
現在、東京国立近代美術館で開催されている『窓展 : 窓をめぐるアートと建築の旅』は、そんな「窓」と窓にまつわるイメージをテーマとした一風変わった展覧会だ。展示室を歩いていると、「窓」というテーマで、こんなにたくさんの表現方法があるのか!と驚かされてしまう。
たとえば、ピエール・ボナールは、 窓の向こうのにぎやかな景色を描くことで、室内の静けさをより際立たせようとした。岸田劉生は、愛娘である麗子の肖像画の周囲にわざわざ額縁を描きこんでいる。西洋では、絵と額縁の関係はしばしば窓と窓枠の関係に擬えられることがあり、岸田はそこを意識して作品に表したのだ。
絵画だけでなく、彫刻作品やインスタレーションなど、さまざまな作家がさまざまな表現手法で「窓」を主題にしており、作品を見るごとに、自分の「窓観」もアップデートされていく。
このごろ町を歩いていると、窓が目に飛び込んでくることが多くなった。心のなかのどこかの窓が、この展覧会をきっかけに開かれたからかもしれない。
問い合わせ=03-5777-8600(ハローダイヤル)
文=浦島茂世(美術ライター)
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