2019.12.08

LIFESTYLE

ジャンルを超えた115点の作品を展示 〝 窓〞から見るアートと建築 『窓展』

竹橋の東京国立近代美術館で始まった展覧会のテーマは〝 窓〞。岸田劉生の有名な絵画から、現代美術の巨匠、リヒターによる立体物まで、それぞれの作品の窓からは何が見えるのか?
岸田劉生《麗子肖像(麗子五歳之像)》岸田劉生は麗子が幼かったこの時期、16世紀北ヨーロッパで活躍した画家、デューラーの作品に強く感銘し、影響を受けた作品を多く残した。麗子の頭上には「画家之娘麗子・五歳・娘の父寫す」などの文字が装飾してアーチ状に配されている。1918年 東京国立近代美術館

あれは1995年11月の終わりのこと。テレビから秋葉原の家電量販店で「Windows 95」の発売を待ち、行列する人々の模様が流れてきていた。当時自分は大学生、パソコンもインターネットも携帯電話もない世界で楽しく暮らしていた。それゆえ、初めて耳にした「Windows」 というものがどのようなものなのか全く理解できなかったのだが、それでも、その名前は非常に魅力的に感じた。


窓を意味する英単語から、世界が広がっていく印象を受けた。「Windows」なるものを買えばワープロしか使えない私もパソコンができるようになるのかしら? と、勝手にときめいたりもした。とはいうものの、数年後、初めて買ったパソコンは Macだったのだが......。


そう、「窓」という言葉や概念は、家や建物に取り付けられた開口部という意味だけでなく、「あちら」と「こちら」を繋いでくれる存在という重厚なイメー ジを持っている。そして、私達の想像力を無限に掻き立ててくれる。


だからアー ティストは絵画や彫刻、インスタレーションに窓をモチーフとして持ち込もうとするし、建築家は窓をどのような形にし、配置するかを古代ローマの時代からずっと考えてきた。窓はさりげなく、人々と密接な関わりを持ってきたのだ。


藤本壮介《窓に住む家/窓のない家》 この展覧会のためだけに建てられた、高さ約7mのインスタレーション。藤本の代表作の一つである《House N》(2008)をベース としている。鑑賞者は作品の内と外を自由 に行き交い、風景の見え方、刻々と変化する光の移ろいなどを感じ取っていく。2019年 Photo : DAISUKE SHIMA

現在、東京国立近代美術館で開催されている『窓展 : 窓をめぐるアートと建築の旅』は、そんな「窓」と窓にまつわるイメージをテーマとした一風変わった展覧会だ。展示室を歩いていると、「窓」というテーマで、こんなにたくさんの表現方法があるのか!と驚かされてしまう。


たとえば、ピエール・ボナールは、 窓の向こうのにぎやかな景色を描くことで、室内の静けさをより際立たせようとした。岸田劉生は、愛娘である麗子の肖像画の周囲にわざわざ額縁を描きこんでいる。西洋では、絵と額縁の関係はしばしば窓と窓枠の関係に擬えられることがあり、岸田はそこを意識して作品に表したのだ。


ピエール・ボナール《静物、開いた窓、トルーヴィル》 トルーヴィルはフランス・ノルマンディ地方、ドーヴィルの近くにある港町。ボナールはやわらかな光の降り注ぐこの地を非常に気に入り、頻繁に訪れて作品に描いていた。静かで優雅さのあふれる食卓と、壮大な船と海とが窓を介して一つの画面に収められている。1934年頃アサヒビール大山崎山荘美術館

絵画だけでなく、彫刻作品やインスタレーションなど、さまざまな作家がさまざまな表現手法で「窓」を主題にしており、作品を見るごとに、自分の「窓観」もアップデートされていく。


このごろ町を歩いていると、窓が目に飛び込んでくることが多くなった。心のなかのどこかの窓が、この展覧会をきっかけに開かれたからかもしれない。


ゲルハルト・リヒター《8枚のガラス》 透明度65%という特殊なガラスを組み合わせた作品。ガラスの前に立つと、ぼんやりと反射する自分の姿と、向こう側の景色が溶け合った像が映し出される。さらに、その像は8枚のガラスに複雑に反射し、万華鏡のような幻想的な光景が浮かび上っていく。2012年 ワコウ・ワークス・オブ・アート © Gerhard Richter, courtesy of WAKO WORKS OF ART Photo : Tomoki Imai

『窓展:窓をめぐるアートと建築の旅』は竹橋の東京国立近代美術館で2020年2月2日まで開催中。

問い合わせ=03-5777-8600(ハローダイヤル)


文=浦島茂世(美術ライター)

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