齋藤 では、次はアルファ・ロメオのステルヴィオ・クアドリフォリオ。アルファ再生を期して開発されたジョルジオ・プラットフォームを使ったジュリアもステルヴィオも、まずはこの510psを叩き出すフェラーリ設計の2・9リッターツインターボ・エンジンを積んで一切の不都合なく成立することを前提に開発されたクルマです。ジュリアと違ってステルヴィオは、SUVだから4WD。
新井 登場するなりニュルブルクリンク北コースでタイムアタックをやって、SUV世界最速を謳った。その後、ウルスに塗り替えられちゃいましたけど。
齋藤 でね 、例えばX3Mって、驚天動地の速さだけど、ドライビング・ポジションや眼前の視界の広がり方とか、クルマの動き方とかって、SUVのそれですよね。とんでもなく速くて、それに対応すべく脚が硬いということを除けば。一方で、ほぼ同等の車両重量とエンジン出力のステルヴィオ・クアドリフォリオってアイポイントが高いだけで、まるでセダンに乗っているような感じがある。SUVだけどSUVじゃないみたいな。重心も低く感じる。
大井 X3Mは動力性能へのこだわりが尋常じゃない。とにかく速い。 そして、その速さ自体が印象的。対して、ステルヴィオ・クアドリフォリオに乗ると、フェラーリって、気持ちのいいエンジンを作る天才なんだなって思う。爆発的な速さを感じさせるわけではないんだけど、心地よくて、心地よいままに凄まじい速さを達成してみせる。
齋藤 速さがすべて、問答無用、という感じではない。速くて気持ちのいい、美しい世界を構築するのが目的みたいな感じがする。
新井 下から綺麗に伸びていって最後、突き抜けるように炸裂する。そういう感じがあるせいなのか、同じ510psでも、BMWよりもこっちの方がパワーが出てる感じがした。 よく観察すれば、X3Mは下から猛烈なパワーが出てるから、トップエンドが逆に際立たないということが分かるんですけどね。アルファには昇天するようなドラマチックな印象が強く残るんですよ。
大井 ステルヴィオのエンジンは低中速回転域のパワーではX5Mに負けるかもしれないけれど、速度の低いコーナーでもアルファの方が速いですよ、おそらく。ステルヴィオはコーナーで速い。コーナリングが始まった瞬間に姿勢が落ち着く。
齋藤 そこがセダンのジュリアと変わらないんですよ。
新井 ただし、ステアリングの切り始めの鋭さとかスロットルを開け始めた時の電光石火の反応が、ちょっと過剰に思える。初めて乗って、すっと馴染めるものではない。
齋藤 アルファ担当の実験開発部隊の人たちって、とにかくイニシャル・アンダーステアが嫌いなんだよね。 これはもうこの30年以上、変わっていない。もはや伝統。切った瞬間からリニアリティがないと気が済まないひとたちなんだよ。そこに慣れてしまえば、深い舵角までゲインは直線的に増していくから、扱いにくいものではないんだけどね。これはもう慣れるしかない。ステアリングホイールのリムをギュッと握っちゃだ めよ。繊細に丁寧にが基本。ポルシェとは流儀が全く違う。
大井 そういう意味では、これまでの3台は、それぞれにメーカーの色を強く出していると言っていいんじゃないかな。そこが面白い。
齋藤 メーカーの特色や好みがヴィークル・ダイナミクスに出ているというところが、まさに体育会系のクルマならではと言えるんじゃない。
大井 色は出ざるをえない。車高が高くて重心も高くて車重は大きい。その慣性質量をなんとかして御さなければならないわけだから、クルマがどう作られているかで動き方は大筋決まってしまう。開発陣が持てる力を十全に発揮しないことにはどうにもならない。SUVの難しさは本来そういうところにある。こうした 高性能モデルともなればなおさらそう。だから特色が色濃く出るんですよ。
齋藤 で、4台目のマセラティ。レヴァンテ・トロフェオはどうでしたか?ひとクラス上のクルマですが。3.8ℓのV8ツインターボで580psも出ています。
新井 DセグメントとEセグメントって、セダンでも乗るとかなり違うものになってますよね、今。それがまんまここにも出ていると思った。 メーカー側はお客さんの望むものがクリアに見えているんだと思う。
齋藤 レヴァンテ、高級車だよね。
新井 体育会系でも、こちらは先生ですよ。生徒じゃなくて。
齋藤 3台の後に乗ると、「お前らまだそんなことやってんのか」って言われているような気がしてしまう。
新井 「じゃあ、監督がやってみせてくださいよ」とけしかけると、誰よりも上手くやってみせる。レヴァ ンテ・トロフェオはそういう感じ。
齋藤 身のこなしが一々優雅。しかも、ボディが大きいから2.3tもあるのに、とんでもなく速い。
大井 これもエンジンの開発担当は フェラーリなんでしょ。フェラーリ凄いよねぇ。パワーも音も。
齋藤 カッコイイ、速い、音がいい。イタリア人にとって大切なものがすべてここにある。
大井 これでもかと顔を大きく見せようとする最近流行りのデザインではないのに、これが後ろから迫ってくると、迫力があるんだよねぇ。
齋藤 そして、乗り心地がいい。レヴァンテの乗り心地の良さはマセラティのなかで随一だと思うけど、こ のトロフェオであっても何ひとつ削がれていない。優しい乗り心地。オペラ・ハウスに乗り付けても違和感 のないクルマ。クラスが違うんだね。(後編・終わり)
■アルファ・ロメオ・ステルヴィオ・クアドリフォリオ
駆動方式 フロント縦置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4700×1955×1680mm
ホイールベース 2820mm
トレッド 前/後 1620/1675mm
車両重量 1910kg(前1010kg:後900kg)
エンジン形式 90度V型6気筒DOHC 24V直噴ツインターボ過給
総排気量 2891cc
ボア×ストローク 86.5×82.0mm
最高出力 510ps/6500rpm
最大トルク 61.2kgm/2500rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後 ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 255/45R20Y/285/40R20Y
車両価格(税込) 1189万円
■マセラティ・レヴァンテ・トロフェオ
駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 5020×1981×1698mm
ホイールベース 3004mm
トレッド 前/後 1637/1699mm
車両重量 2340kg(前1220kg:後1120kg)
エンジン形式 90度V型8気筒DOHC 32V直噴ツインターボ過給
総排気量 3799cc
ボア×ストローク 86.5×80.8mm
最高出力 580ps/6250rpm
最大トルク 74.4kgm/2500-5000rpm
変速機 8段AT
サスペンション 前/後ダブルウィッシュボーン/マルチリンク
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 265/40R21Y/295/35R21Y
車両価格(税込) 2035万円
話す人=大井貴之+新井一樹(ENGINE編集部)+齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
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