この先5年間に15台のニューモデルを発表するというフェラーリ。まずは2019年に5台をデビューさせたが、その掉尾を飾ったのがコレ。1960年代の映画「甘い生活」の世界を現代に甦らせたGTクーペだという。
そりゃ、マルチェロ・マストロヤンニがこんなクルマを運転して夜のネオンきらめくローマ・ヴェネト通りのオシャレなクラブに乗り着け、助手席からアニタ・エクバーグみたいなグラマーな金髪美女が、長く美しい脚をチラリと見せながら降りてきたら、それこそ映画「ドルチェ・ヴィータ(甘い生活)」の世界そのものでしょう。そんな、飛びきりエレガントなスタイルを持ったGTクーペがフェラーリから登場した。
その名も"フェラーリ・ローマ"。これまで、なによりもグランプリに勝つことを至上命題とし、その余技として、あくまで資金稼ぎのために市販ロードカーを生産してきた感があったフェラーリが、あたかも180度宗旨替えしたかのように享楽的な1960年代ローマの「甘い生活」をモチーフにしたGTクーペをデビューさせたのだから、これはもはやひとつの"事件"と言っていいのではないか。そして、私はその目撃者のひとりとして、1960年のローマ・オリンピックでホッケー競技の会場としても使われた「大理石のスタジオ」で開かれた発表会に臨席する幸運を得たのだが、実はその前の晩から、フェラーリ・ローマの「甘い生活」的発表会は始まっていたのだ。
宿泊先は、まさに映画の舞台となったヴェネト通りに面した5つ星ホテル。ディナー会場はそこから歩いてすぐの「クラブ・ジャッキー・O」。ここはかのジャクリーン・オナシスの名を冠した、ローマの「甘い生活」的ライフスタイルを満喫できるアイコニックなスポットとして知られるナイト・クラブ&レストランだ。すなわち、前日からローマの「甘い生活」にどっぷり漬かってもらおうというフェラーリの粋な演出であったわけだ。
しかし、さらに派手な演出は発表会当日の会場そのものにあった。なんと「ヌオーヴァ・ドルチェ・ヴィータ(新・甘い生活)」と書かれたエントランスを通って大理石のスタジオに入ると、そこは1960年代の夜のローマを彷彿とさせる巨大なナイト・クラブになっていたのだ。壁一面にリキュールのボトルが並ぶバー・カウンターがあるかと思えば、赤いネオン照明の下、コーヒーや酒、食事を楽しめるテーブルも用意されている。壁に掛けられた大きなスクリーンには、1960年代の最新ファッションに身を包んだ男女が、フェラーリのスパイダーやクーペに乗って文字通り「甘い生活」を満喫している写真が大写しにされていた。
やがて、会場が暗くなると、どこからかフェラーリのチーフ・マーケティング&コマーシャル・オフィサーのエンリコ・ガリエラ氏の声が聞こえてきて、発表会が始まった。舞台でプレゼンテーションするのではなく、バーで一杯ひっかけて、通りを歩いていたら、偶然、カフェでデザイナーの友人に会ってクルマについてお喋りを楽しむ、というようなスタイルで、クルマのコンセプトが紹介されていく。
「ローマのカフェで話している人たちの会話を聞いていると、デザインに関してはちょっと控え目で、毎日使えるようなフェラーリが欲しいという声を聞くことができます。ローマのヴェネト通りをフィアットではなく、フェラーリで走りたいという声もある。そういうリクエストに対して私たちは何ができるのか。私たちのヘリテージを考えた時、60年代にはエレガントなクルマがたくさんありました。そのエレガントでラグジュアリーなスタイルをGTという形にして現代に持ち込もうと考えたのです」
キイ・コンセプトは、"控え目なラグジュアリー"。チーフ・デザイナーのフラヴィオ・マンツォーニ氏はそれを、できうる限りシンプルなラインで表現しようと考えたという。「デザインの出発点はイブニング・ドレスを着たF1マシン。詩的でピュアなものをシンプルなラインで表現したいと思いました。テールは低めで、プロポーションはバランスが取れている。ボディ・サイドのラインは2本だけ。ラップアラウンドなシェイプ。フロントのシャーク・ノーズは60年代のF1マシン"156"からアイデアを取り入れていますが、ほかにもたくさんのフェラーリのアイコン的エレメントが入っています」
その後、もちろん620㎰の4ℓV8ツインターボ・エンジンや新しい8段デュアルクラッチ・ギアボックス、既存のものから70%が刷新されたアーキテクチャーなどについての技術的説明は行なわれたが、最高速や0‒100㎞/h加速、サーキットでのラップタイムなど、スポーツカーとしての性能面には触れられることなくプレゼンは進んでいった。
再びガリエラ氏によれば、2019年夏に発表したSF90が今までのフェラーリ・オーナーをターゲットにしたフェラリスタのためのクルマであるのに対し、ローマはそれとは正反対。スポーツカーにまったく興味がなく、クルマにエレガントさを求める新しい顧客層に乗ってもらいたい、と断言した。やはり、ここにきてフェラーリが大きく舵を切ったのは間違いない。これは"事件"だ。
文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=フェラーリspa /村上 政
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