新型BMW 1シリーズがついに後輪駆動から前輪駆動へ大きく変わった。遅れて上陸した同じプラットフォームを使うミニ・クラブマンと乗り比べてみて分かったこととは?
上田 スポーツカーやSUVに続くのは、Cセグメントのハッチバックです。
佐野 まず今年8月末に上陸したBMW1シリーズが2台。最上位モデルのM135iとエントリー・モデルの118i。
上田 対するミニはクラブマンのジョン・クーパー・ワークス(JCW)。3/5ドアで先行した意匠変更が実施され、10月に上陸。一番の識別ポイントはチェッカー・フラッグを模したリア・ランプでしょうか。
佐野 この3台の基本プラットフォームは同じ。そう、ついに1シリーズが前輪駆動に、つまりFF(フロントエンジン・フロンドドライブ)になった。
上田 ただ、M135iはFFベースの4WDですけどね。FFホットハッチ好きの佐野さんとしては2019年下半期の大ニュースでしょう。
齋藤 新しい1シリーズは"VWゴルフのライバルをつくる"というBMWの悲願を実現したクルマでもある。
上田 ゴルフを初めて意識したBMWは3シリーズ・コンパクトで1993年の本国発表ですから、開発が始まったのは今から約30年前。2世代続いたコンパクトの後継が1シリーズで、これも2世代続いたのですが3世代目で大改革となった。
佐野 BMWは1980年代から前輪駆動を研究していたのに、なかなか足を踏み出せなかった。94年にミニを含むローバー・グループを買収したのは、その成果を世に出すためだったという見方もある。
齋藤 買収して最初に出したローバー75なんてシャシーは露骨にBMWだった。ただ、当時BMWを率いていたピシェッツリーダーはクラシック・ミニ設計者であるアレック・イシゴニスのいとこでもあったから、商売以前に「ミニを救いたい」という純粋な心意気もあったはず。
佐野 そうして誕生したニュー・ミニでFFのノウハウを蓄積して、しかも2シリーズのツアラーで地ならしをして、やっとこの1シリーズだよ。満を持すにもほどがある(笑)。
上田 しかも2シリーズ・クーペ/カブリオレは分家して後輪駆動、つまりFR(フロントエンジン・リアドライブ)で残していますから。慎重ですよねぇ。
齋藤 そんな新型1シリーズは見事にソツがない。だけど、VWやプジョー・シトロエン、ルノー、欧州フォードの域には達していないと思う。
佐野 彼らもダテに長くFFをやっていない。1シリーズも室内も十分に広いし、走りも安定しているし、トルクステアなんて無粋なクセもない。まさに教科書どおりの走りをするんですけどね。
齋藤 でも、少し大味。たとえばゴルフならVWの、メガーヌに乗ればルノーの"クルマかくあるべし"という思いがすぐ分かるけれど、1シリーズは無国籍風だ。FRなら乗った瞬間にBMWなのに……。
上田 これと比較すれば、メルセデス・ベンツAクラスなどは"俊敏でスポーティ"という分かりやすい割り切りがあります。
佐野 その点ミニは買収して手に入れた外様ブランドだからか、お客さんに受けるツボを冷静に分析して割り切っている。"ゴーカート・フィール"という分かりやさで一点集中だ。
上田 ただ、クラシック・ミニでいうと、BMWのミニ観は"ミニ・クーパー"の味であって、ミニ本来のそれとはちょっと違うんですけどね。
齋藤 そのミニも小さいハッチバックはもはや"ミニ味"が決まっているけど、今のクラブマンはシリーズとしては初の大きいプラットフォームだからか、今なお少し曖昧なところはある。それでも、同じプラットフォームの1シリーズより確固たる味があるよ。
上田 世の平均からすると1シリーズも俊敏だけど、ミニやAクラスほど芯が通った割り切りができていない。ステアリング・フィールも普通。そういう味わいは118iもM135iもよく似ています。
佐野 M135iは最も高性能なモデルということで、2ℓターボ+4WDなどの基本メカニズムはミニ・クラブマンJCWと共通だけど、こっちは可変ダンパーが装着されていた。オプションなのでノーマルの走りとは少し違うんだろうけど、この2台は同じくらい速いのに、味わいはある意味で対照的だ。
上田 M135iはどこでも文句なしに速く、十分以上に快適でした。対するJCWのアシは明確に硬かった。
佐野 M135iは間口が広い万人向けだけど、JCWはまさにゴーカート・フィールだよ。
齋藤 ミニはボディがすごくしっかりしているからアシは硬くても不快じゃない……といいつつも、1時間も乗ると、中高年にはかなりキツい乗り心地(笑)。でも、それがミニ。さらに、同じ300ps級+4WDの組み合わせなら、メルセデスAMGのA35やVWゴルフRもそれぞれ個性的。だけど、M135iにそういう決め手となる味わいがまだない。
上田 これまでの1シリーズは、最近の3シリーズとも異なる、とても自然なFRだったんですよ。
佐野 新型1シリーズにも自然なクルマに仕立てる意図はあって、だから薄味になっている面もある。
齋藤 いかにも正しい前輪駆動車だよね。指摘すべき明確な欠点もない。そういう慎重さや用心深さはBMWの伝統でもある。
佐野 BMWにとってのBMWブランドは自分そのものなので、そもそも他人だったミニほど客観視できないのは当然。ミニと同じハードウェアを使う新型1シリーズでは、そこが足かせになっているのかも。
上田 これだけ大胆に変わったせいか、約30年も培ってきたものが新型1シリーズには感じられないんです。
佐野 1シリーズのスタイリングで意外だったのは、Aピラーを後退させるなどして後輪駆動車と近似性のあるプロポーションにしていないことだ。最近は"FRみたいに見えるFF"が盛んなのに、FRの権化のようなBMWがそっちに行かなかった。
上田 ミニは良くも悪くもミニなんですけど、1シリーズのデザインはどこか間延びしています。
佐野 そのかわり、1シリーズの室内空間はきちんとクラス平均以上に優秀だけどね。それにしても、上田君は1シリーズに厳しいね(笑)。
齋藤 なにせ、彼は先代1シリーズのオーナーだから(笑)。
上田 正確には義母の愛車です。とはいえ個人的にもおおいに気に入っています。FRの1シリーズは世界でも唯一無二の存在でした。
佐野 でも、従来の1シリーズに格別の思い入れがない人間からすると、こうして"キドニーグリルがついたゴルフみたいなクルマ"になれた時点で、このクルマの役割はあらかた達せられたといっていい。普通の人に「クルマのことはよく分からないけどBMWってかっこいい!」と思ってもらうのが最大目的で「小うるさい皆さんは3シリーズ以上をどうぞ」ということでしょう。
上田 そんな元も子もない(苦笑)。
齋藤 そういうことを考えると、ミニはさすがクルマ好きが積極的に選べるものになっている。走りやデザインだけでなく、インテリアの質感も明らかにミニのほうが魅力的だ。
上田 あえてトグルスイッチを並べるデザインなど、楽しくてキャラクターが立っていて、手が込んでいるように見えるのはミニですよね。
齋藤 でも、118iを見ると分かるけど、140ps程度のFFでこんな大きいブレーキを与えるのはBMWくらい。こういうところは本当に真面目。
佐野 ブレーキだけでなく、ミニよりBMWが格上という設定なので、インテリアの素材や組み立て品質も、1シリーズのほうがきちんとコストをかけている。真面目だよ。
上田 ……佐野さんはやけに新型1シリーズに優しい(笑)。
佐野 個人的にはBMWだろうとなかろうと、このクラスはFFベースで必要に応じて4WDにするのが、実用性、性能、バリエーション展開のしやすさ……すべての面でエンジニアリング的に正しい思う。だからこそFF化はBMWにとっても30年越しの悲願でもあるわけで、そこは素直に応援したいと思う。
齋藤 まあ、BMWのことだから、フルモデルチェンジとはいわず、次の改良からBMWならではのFFテイストをぐいぐい打ち出してくると思う。お楽しみはこれからだよ。そのための土台としては1シリーズは真面目につくってあるんだから。
話す人=齋藤浩之+上田純一郎(以上すべてENGINE編集部)+佐野弘宗(まとめも) 写真=神村 聖
■BMW M135i xドライブ
駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4355×1800×1465㎜
ホイールベース 2670㎜
トレッド(前/後) 1565/1560㎜
車両重量 1580㎏
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1998cc
最高出力 306ps/5000rpm
最大トルク 45.9kgm/1750-4500pm
変速機 8段AT
サスペンション(前) マクファーソンストラット+コイル
サスペンション(後) マルチリンク+コイル
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ(前後) 225/40R18
車両本体価格(10%税込) 630万円
■BMW 118iプレイ
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4355×1800×1465㎜
ホイールベース 2670㎜
トレッド(前/後) 1565/1560㎜
車両重量 1410㎏
エンジン形式 水冷直列3気筒DOHCターボ
総排気量 1499cc
最高出力 140ps/4600-6500rpm
最大トルク 22.4kgm/1480-4200rpm
変速機 7段デュアルクラッチ式自動MT
サスペンション(前) マクファーソンストラット+コイル
サスペンション(後) マルチリンク+コイル
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ(前後) 205/55R16
車両本体価格(10%税込) 375万円
■ミニJCWクラブマン
駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4275×1800×1470㎜
ホイールベース 2670㎜
トレッド(前/後) 1553/1555㎜
車両重量 1600㎏
エンジン形式 水冷直列4気筒DOHCターボ
総排気量 1998cc
最高出力 306ps/5000rpm
最大トルク 45.9kgm/1750-4500pm
変速機 8段AT
サスペンション(前) マクファーソンストラット+コイル
サスペンション(後) マルチリンク+コイル
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ(前後) 235/35R19
車両本体価格(10%税込) 568万円
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