2018年12月のロサンジェルス・ショーでデビューした992型911。待つこと1年余にして、ようやく国内でカレラSの試乗車が用意された。先に上陸していたカレラ4Sとともに、箱根の山に繰り出した。
村上 ついに待ちに待った新型911の後輪駆動モデル、カレラSの広報車が用意された。すでに4WDのカレラ4Sの広報車は昨年用意されて、ENGINEでも試乗記を載せているわけだけれど、これでようやく2台の比較試乗ができるようになった。そこで今回、編集部のメンバーにレーシング・ドライバーの大井貴之さんを加えて、箱根まで出かけたわけです。もっとも、僕はすでに 海外で両方乗っている。齋藤さんは4Sだけ国内で乗ったよね。大井さんと荒井さんは両方初めて。まずはその二人に、992型の率直な第一印象を語ってもらいましょう。930ターボ乗りの大井さんから。
大井 古臭い人間です(笑)。この新型を初めて見たのは昨春、ベルギーのブリュッセルでのことでした。街中を走っていたらたまたま前にいて、このバカでかい911はなんだ、と思ったの。しかも、お尻のテールランプの位置が世代を重ねるごとに高くなっていって、こりゃ、パナメーラと見分けがつかんな、と思った。だから、こりゃもうオレの知っている911じゃなくなっちゃったんじゃないかとメチャクチャ疑っていたわけ。ところが今回乗ってみて、あっ、やっぱり911なんだと思った。別に小さくなくても911テイストはしっかり残っているし、その走りのレベルがとにかく呆れるほど高い。930乗りからすると、乗りにくい911テイストというのがあったわけだけれど、それは一切なくなった。でも、あのクセをなくしたら911じゃなくなっちゃうのかと思ったら、そうではなかった。
村上 いきなり本質的なこと言うね。
大井 スポーツカーなのに斜め後方の視界もキッチリあってという911ならではの良さは残っているし、オレが嫌いだったゴテゴテしたセン ターコンソールもスッキリしたし、これだったら買ってもいいと思ったんだけど、値段を聞いて諦めた。
村上 ま、そう結論を急がずに。大井さんが考える911テイストって端的に言うとなんですか?
大井 適度にフロントの軽さを感じることかな。新型でもそういうシーンがいっぱいあるけど、昔の911みたいにおっかなくない。単純に前後重量配分を考えれば、フロントの軽さを感じるのは当り前だよね。でも、今のはグリップが抜けることはない。加速すればフロントの軽さを感じるし、ブレーキング時の制動姿勢の良さも911ならでは。そういうリア・エンジンの良さは残ったまま、圧倒的に乗りやすくなっている。
村上 僕らは、そういう進化を911の民主化と言ってきた。かつては911乗りといえば、まわりの人に一目置かれるような独特の運転技術を習得した人だという感じがあった。
大井 本当は単純に苦労している人というだけだったんだけどね(笑)。
村上 それがいまや極端に言えば、運転免許を持っている人だったら誰が乗っても気持ちよく速く走ることができる。この数世代で911はどんどんその方向に進んでいたわけだけれど、この992型で完全に民主化が達成されたのではないか。とにかくアイドリング・ストップはするわ、ギアは8段もあって、ノーマル・モードではどんどん上げていくわで、街中を流しているとまるでスポーツカーではないフツーのクルマ に乗っているような感覚さえあるもの。荒井さんはどうでしたか?
荒井 初めて見て、おっ、デカイと思った。で、座ったら、着座位置が低いのに驚いた。スタイルはこれまでの911独特のくびれが無くなり、ぬたっとなったなと思った。でも、ドア・ミラーを見るとちゃんとお尻が張っているのが分った。最初、高速道路を箱根に向けて走り始めた時は、ノーマル・モードにしていたから、どんどんギアが上がって、結構大味なクルマだなと思ったの。変なたとえなんだけれど、V8のコルベットに乗っているような感じがした。でも、箱根に着いて、アクセレレーターを踏み込んだ時にはもう、全然違うんだなと思った。僕は911といえば、とにかくシャシー剛性の高さが凄いと思ってきたんだけど、それはボディが大きくなっても変わらなかった。それとエンジンがこんなに吹け上がりがいいんだっけ、と思ったな。もう羽根のようにフワァーと吹け上がる。それに驚きました。
村上 一言でいうと、懐が深くなったというのかな、どんどんギアを上げて燃費走行する時と、ひとたび山でスポーツ走行した時の落差が物凄く大きくなりましたよね。大井さんの930はともかく、長期テストで使っている996あたりだって電子制御がそんなに入っているわけではなくて、基本的にスポーツカーというのはスポーツ走行することを前提にしたセッティングにしないと成立しなかった。だけど今は電子制御技術が進んだおかげで、まったく別の性格を両立できるようになっている。
荒井 乗り心地もこういうクルマにしては格別にいいと思いました。だから、スポーツ・モードとかにしないと、普通に都内を走っている限りでは、911にオレは乗っているという感じがあまりしない。
村上 そこがこの992型の微妙なところかな、という感じもある。
村上 さて、今回は後輪駆動と4WDの両方に乗れて、凄く面白かったよね。齋藤さんは4WDには乗ったことがあったけれど、後輪駆動に初めて乗ってどうだった?
齋藤 硬くてビックリした。
一同 (笑)。
村上 そうか、最初にオプションの違いを言う必要があるね。カレラ4Sにはポルシェ・ダイナミック・シャシー・コントロールのPDCC、リア・アクスル・ステアリングが着いていたのに対して、カレラSには10mmローダウンされるスポーツ・シャシーが入っていた。この違いが大 きい。それにセラミック・ブレーキのPCCBも奢られていた。ただしリア・アクスル・ステアリングはなし。そういう意味で、カレラSはよりピュアな走り志向の強いセッティングになっていたということかな。
齋藤 純粋に2駆と4駆の違いよりも、オプションによる違いが大きいように思ったね。とにかく、スポーツ・シャシーの入ったカレラSは硬くて、会社から西神田の高速の乗り口に行くまでの工事中の荒れた舗装路では、突き上げがあまりにヒドイので堪らなかった。でも、2駆と4駆という意味では、コーナーをコンスタント・スロットルで回っている限りでは、特性の違いは感じられなかったな。とにかく、どちらもトンデモなく速いということはわかったけれど、その違いはサーキットでも持っていかない限りはわからないんじゃないかと思ったんだけど。
村上 そうか、齋藤さんは箱根に同行せず、首都高と街中しか乗っていないからね。僕らも山に行くまでは、硬さの違い以外は同じだよなと思っていた。ところが、山道を走ってみると意外なくらいに違っていた。コーナーへの進入時のステアリングの操作に対するクルマの動きだって、乗り比べてみると全然違う。もちろん、それはスポーツ・シャシーのあるなしによるものもあるのかもしれないけれど、全体的にカレラSの方がフロントが圧倒的に軽いと感じられるシーンがたくさんあった。なにしろ、今回の試乗車の場合、カレラSの車検証上の前後軸の重量は前570kgで後970kg、カレラ4Sは前630kgで後980kg。フロントの重さが60kgも違うのだから当然と言えば当然でしょう。
大井 ターンパイクの坂道をスロットルを開けて上っていく時には、フロントが軽いのが良くわかったね。違いと言えば、音も同じスポーツ・エグゾーストのオプションが付いていたのはともかくとして、カレラSの方がずいぶん大きい感じがした。
村上 あれはなんでなのか良くわかりませんね。でも、とにかくワイルドな感じを受けたのは間違いない。乾いたサウンドといい、足の硬さといい、軽快なハンドリングといい今回のカレラSは飛びきりワイルドな面を強調したクルマに仕立てられている感じがした。
齋藤 今回、改めて992型に乗って、991型との違いで大きいと思ったのは、フロントのトレッドが拡がったこと。911の独特のテイストというのは、リアにエンジンがあることもひとつだけれど、フロントのトレッドが狭いことにあったのだということが良く分かった。ドライバーと前輪の位置関係が、もちろんナロー時代から比べたらどんどん外に出てはいたんだけど、その狭さがいかにも911を運転しているという感覚に繋がっていたんだなと思った。今度のは911な感じじゃないんだよね。思い切りトラクションをかけた時には911だとすぐにわかるけれど、コンスタント・スロットルで走っていると前輪が車体の中心から離れた所にある感じ、幅広い感じがあって、フェラーリやランボルギーニみたいなスーパースポーツカーを運転しているような感覚になる。
村上 速さだって間違いなくスーパースポーツの領域に入っているからね。フツーに走っている限りでは2駆も4駆も変わらないように思うん だけど、やはり山道なんかを走ると2駆の方がスッとノーズが入るし、4駆は少しおっとりしている。僕は今回はカレラSのあの軽快なハンドリングが素晴らしく楽しかった。それでいて高速道路を走っていても全然フロントが浮いて怖いなんてことはないし、これなら4駆でなくても 十分に安心感を得られると思った。
大井 オレの911観は違うんだよ ね。911はピュア・スポーツではなく、グランド・ツアラーだというのが本質だと思っている。その観点からすると、今回のカレラ4Sは満点だね。凄く完成度の高いスポーツカーの素性を持ちながら、フツウのセダンと同じように乗れるというところが魅力的だよね。
荒井 それって2駆じゃダメなの?
大井 だって450馬力ですよ。ちょっと路面の悪い中速コーナーなんかでちょっと踏んじゃった時に見た目よりミューが低かったりしたら絶対に危ない。そういうところでも、もっとルーズに走ることができる安心感では、4駆に勝るものはない。
齋藤 ちょっと雪や雨が降っていたりした時、どうしようかと考える。
荒井 雪でも乗るの?
齋藤 911の人は乗りますよ。
村上 僕は雪の日は乗らないからカレラSがいいし、このシャシーでGT3が出るのが本当に楽しみだな。
大井 そりゃ、GT3だったらオレもそっちの方がいい(笑)。
荒井 それにしても、最初見た時には、ちょっと間延びしたカッコウになったなと思っていたのに、一日箱根で走って帰る時には、これカッコイイじゃんって思っていた。後ろも真横もいいし、フロントから見るとスーパーカーみたいだよね。
大井 オレもね、ブリュッセルで見た時には、なんじゃコリャと思ったのに、乗ったら良くなっちゃった。
齋藤 991が出た時には、こんなに速くなっちゃって、もうこれ以上速くなりようがないんじゃないかと思っていたのに、あっさりそれを超えちゃった。しかも圧倒的に乗りやすくなっているのだから、凄いよ。
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◼︎911 カレラS(スポーツシャシー付き)
駆動方式 エンジン・リア縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4520×1850×1290mm
ホイールベース 2450mm
車両重量 1540kg
エンジン形式 直噴水平対向6気筒DOHCツイン・ターボ
排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力 450ps/6500rpm
最大トルク 54.0kgm/2300-5000rpm
トランスミッション 8段自動マニュアル(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ (前後)通気冷却式セラミック・ディスク
タイヤ (前)245/35ZR20、(後)305/30ZR21
車両本体価格(税込み) 1696万8519円
◼︎911 カレラ4S(リア・ステア付き)
駆動方式 エンジン・リア縦置き4WD
全長×全幅×全高 4520×1850×1300mm
ホイールベース 2450mm 車両重量 1610kg
エンジン形式 直噴水平対向6気筒DOHCツイン・ターボ
排気量 2981cc
ボア×ストローク 91.0×76.4mm
最高出力 450ps/6500rpm
最大トルク 54.0kgm/2300-5000rpm
トランスミッション 8段自動マニュアル(PDK)
サスペンション(前) マクファーソン式ストラット/コイル
サスペンション(後) マルチリンク/コイル
ブレーキ (前後)通気冷却式ディスク
タイヤ (前)245/35ZR20、(後)305/30ZR21
車両本体価格(税込み) 1804万8148円
話す人=大井貴之+村上 政(ENGINE編集長、まとめも)+齋藤浩之(ENGINE編集部)+荒井寿彦(ENGINE編集部) 写真=柏田芳敬
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