ゴルフ・サイズのティグアンや、現在は日本への輸入が途絶えているもののカイエンの兄弟車として開発されたトゥアレグなど、フォルクスワーゲンのSUVへの対応はライバルと比べてけっして遅くなかった。
しかし、なぜかポロ・サイズのスモールSUVは用意されず。プジョー 2008やルノー・キャプチャーといったフランス勢を中心とするライバルの後塵を拝していた。しかも、 先ゆくライバルたちはすでに2世代目へと進化しようとしている。そんななか、遅ればせながらようやく準備が整ったフォルクスワーゲンのスモールSUVがこのT-クロスだ。
ポロとは別の車系としてラインナップするが、基本的にはポロのSUVバージョンと思っていい。ほかのフォルクスワーゲンの最新モデル同様、ヘッド・ライトとグリルを一体化したフロント・マスクを持つスタイリングは、コンサバで落ち着いたテイストのデザインが多いフォルクスワーゲンの中ではけっこうカジュアルな仕立てだ。若者をかなり意識した結果だろう。
ドア・ミラーやホイールなどをボディとは別色で塗り分けるといった最近流行りの手法も取り入れることで華やかさをさらに アップさせている。
ボディ・サイズはポロよりも全長が55mm、全幅が10mm、全高が130mmそれぞれ大きい。ただし、ホイールベースは同一。長さ方向は兄貴分のゴルフよりも150mmほど短いが、高さを活かした室内はゴルフ並みの余裕がある。5人乗車時の荷室もゴルフのハッチバックより75ℓも大きい。
いまやゴルフもけっしてコンパクトとは言い難いボディ・サイズになってきたから、同じ利便性を確保しながら、ひと回り小さいというのはT-クロスにとって大きなウリになるだろう。
フォルクスワーゲン肝入りのMQBプラットフォームをはじめ、機能面も基本的にポロに準じる。エンジンもポロのコンフォートラインやハイラインと同じ1.0ℓ直3直噴ターボを搭載。ただし、車両重量が110kgほど重いことに配慮し、ポロ用よりも最高出力が21ps、最大トルクが2.5kgm高い設定となっている。
エンジン出力を向上させ、最終減速比を下げている効果は大きく、1.0ℓながら1270kgというゴルフ級の車両重量を持つボディを軽々と走らせる。最初はこんな小さなエンジンで大丈夫かと思ったが、流れに乗る走りをしている限り、不足を感じることはない。それどころか、上級モデルに備わるパドル・シフトを駆使すれば、けっこうスポーティな走りも楽しめる。
高回転域の伸びがよく、ポロに積まれている仕様よりもスポーティな仕上がりだ。ただし、音と振動はどちらもちょっと大きめ。3気筒の苦手な側面を上手に消し切れていない。そのあたりがちょっと残念なところだ。
重めの車両重量と高い車高を持て余さないためにサスペンションはちょっと硬め。ただ、そのセッティングが功を奏していて、カジュアルな 見た目に相応しいスポーティな走りを見せる。エンジン同様、ハンドリングもトレンドラインやハイラインといった素のポロよりもスポーテかもしれない。ロールの量や速さもよくしつけられていて、車高の高いクルマに有りがちな不安感もない。
ドライビング・フィールはアイポイントが高い以外は背の低いハッチバックに近く、ポロに乗っているのと同じ安心感がある。カジュアルなデザインとスポーティな走りといったように、T-クロスはスモールSUVらしい軽やかさに溢れている。クラス・レスな落ち着きを持つクルマが多いフォルクスワーゲンの中ではちょっと異色な存在だ。
しかもその一方で、ポロと同レベルのコンパクトなボディながら兄貴分のゴルフに勝るとも劣らない使い勝手を持つなど、中身はフォルクスワーゲンらしい実直な作りを有している。ポロはもちろんのことゴルフから乗り換えても十分満足できるのではないだろうか。
ライバルから出遅れた感は否めないものの、フォルクスワーゲンのスモールSUVはそれを補ってあまりある実力が備わっていた。このあとT-クロスがこのクラスの台風の目になることは間違いないだろう。
◼︎フォルクスワーゲンT-クロス 1stプラス
駆動方式 フロント横置きエンジン前輪駆動
全長×全幅×全高 4115×1760×1580mm
ホイールベース 2550mm
トレッド 前/後 1525/1510mm
車検証記載重量 1270kg(前770kg:後500kg)
エンジン形式 直列3気筒DOHC12V直噴ターボ
総排気量 999cc
ボア×ストローク 74.5×76.4mm
エンジン最高出力 116ps/5000-5500rpm
エンジン最大トルク 20.4kgm/2000-3500rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション形式 前/後 ストラット式/トーションビーム式
ブレーキ 前/後 通気冷却式ディスク/ディスク
タイヤ 前後 215/45R18 89V
車両価格(税込) 335万9000円
文=新井一樹(ENGINE編集部) 写真=望月浩彦
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