雪と氷の上を走り続けるのが、ただただ楽しかった。これぞまさしく冬のファン・トゥ・ドライブ。扱い易い大パワーの恩恵まざまざ。コンパクトなボディとほどほどに収まった車両重量のおかげで、手に余ることがない。低ミュー路で楽しめるハイパワーSUVの筆頭としてあげるのに、なんの躊躇もない。
走らせたのは、アウディのRS・Q3とRS・Q3スポーツバック。その名前から想像がつくように、Q3とそのクーペ・モデルとなるQ3スポーツバックの最高性能モデルだ。RSの名を冠するクルマだから、開発と生産を担うのはアウディ・スポーツ社である。
2台の違いはスタイリングだけといってもいい。厳密に見れば全長も1㎜違っているが、ボディ寸法で大きく違うのは事実上、全高のみ。クーペ・バージョンとなるスポーツバックは背が低く、ルーフレールも付かないこともあって、45㎜低い。プラットフォームもサスペンション・システムもパワー&ドライブトレインも共通。だから、ホイールベースとトレッドも同一である。
もちろん、背の高さに違いがあるから、室内空間にも少し違いはあって、スポーツバックの方の後席頭上空間は、A3のそれに近いものとなる。つまり、困ることはない。余裕がもっと欲しければ、RS・Q3にしておけばいいだけのことだ。
この2台の技術的なハイライトは、なんといってもノーズ内に横置きされる直列5気筒ターボ過給エンジンである。RS3やTT・RSにも使われてきたエンジンが、最新の仕様になって搭載されている。最高出力はじつに400ps。5850rpmでピークに達した後も、減衰することなく7000rpmまでそれを維持する。最大トルクも印象的だ。48・9kgmの最大値を早くも1950rpmで捻り出すが、それを5850rpmまで搾り出し続ける。排気量は2480㏄。
組み合わされる変速機は、デュアルクラッチ式の7段自動MTのみとなっている。駆動システムはもちろん、クワトロ4WDだが、横置きエンジンのこのクルマではリアのディファレンシャル・ケースに一体化されたハルデックス・カップリングが前後アクスルの駆動力配分を塩梅する。電動モーターを使って作られた油圧を電子制御して多板式クラッチの繋合具合を電光石火の速さで調節するカップリング機構だ。これが前後アクスル間の差動装置としての役目を兼ねる。
サスペンションは前がマクファーソン・ストラットで、リアが4本のリンクを使ったマルチリンク。ブレーキは標準仕様が、ハブへの接合部位をアルミニウム製としたスチール製ディスクを使うタイプ。オプションでフロントにだけ大径のカーボン・セラミック・ディスクを使うシステムが選べる。
早い話が、RS3スポーツバックのSUVバージョンといっていい内容になっているクルマである。
このクルマは、運転するのがとにかく楽しい。今回は雪上、凍結路上だけで、乾燥路面を走るチャンスは一度もなかったことは言っておかなければならないかもしれないが、低ミュー路でこれだけ扱い易ければ、乾燥路面でも存分に楽しめるはずだ。
楽しさの原動力になっているのは、なんといってもその心臓たる5気筒ターボ過給エンジンである。いちばんの魅力は、ターボ過給エンジンでありながら、パワー・デリバリーがリニアリティに優れていることだ。排気量が2・5リッター近いだけあって、十全な過給効果が望めない、ごく低い回転域でもきっちりとトルクを捻り出すことが可能で、低中速回転域に達すれば、もういつでも最大トルクを引っ張りだせる。
そして、アクセレレーターを深く踏み込み続けるような状況で明らかになるのは、いかにも高過給圧を使うターボ・エンジンらしく中高回転域で強大なパワーを発揮するだけでなく、トップ・エンド回転域までそのパワーが減衰感なくずっと続くことだ。ボトム・エンドからトップ・エンドまで、体感的にはほんとうに直線的にパワーが増えていく。アイドリングのすぐ上からレヴリミットまでが使える実用回転域なのだ。
しかも、過渡領域でのパワーの増減が思いのままに調整できる。応答遅れに舌打ちすることなど一切ないし、オーバーシュートして、パワーが出すぎてしまうこともない。よく出来た自然吸気エンジン並みかと問われれば、そこには僅かに及ばずと言うのが正直だろうが、この直5ターボと同程度のトルクとパワーを出すためには、はるかに大きく重い4ℓ級の高回転型V8が必要になってしまうことを思い出すなら、このエンジンは実にいい仕事をしているといわざるを得ない。2リッター4気筒でももっとパワーを引き出すことが可能なご時勢だけれど、これほどの扱いやすさと広い回転域でのリニアリティを実現するのは難しいだろう。横置きエンジン用プラットフォームを使うコンパクト・サイズのSUV用として、この2・5ℓ直5ターボに優るスポーツ・ユニットはない。
遠く1970年代半ばに、2代目アウディ100用として、世界初のガソリン直5エンジンとして生まれたユニットが起源だが、当時、フロント・オーバーハングに縦置きするために、直6では長大に過ぎるという理由で生み出された直5が、21世紀の今、横置き搭載用としていかんなくうま味を発揮しているのがなんとも痛快である。
もとより隣接ボア・センター・ピッチを詰めてエンジン全長を詰めて、オーバーハング・マスを減らそうとした基本設計が、横置きする際にも、変速機に十分なスペースを残すことに役立っている。直噴時代になって高い圧縮比が使えるようになったことも、ターボ過給との相性をことさらによいものとしているとはいえ、ロング・ストロークであることも有利に働いているだろう。直5を諦めずに続けた甲斐あって、その究極的なものとして完成した感がある。
どうしても直4より重量がかさんでしまう不利を減じるために、軽量化にも抜かりはない。フル・カウンターウェイトのクランクシャフトは最新仕様の軽量型で、ディープ・スカート型アルミ・シリンダーブロックの下につくオイルパンはマグネシウム合金製。オイルポンプもアルミニウム製としているという。気筒当たり4本のバルブを駆動する機構も、カムシャフトとバルブの間にローラー組み込み型のフィンガー・フォロワーを挟んだ、系としての軽量化とハイリフトを実現するものとなっている。どこを見ても手抜きなしだ。
デュアル・クラッチ式の7段自動MTも、このエンジンのうま味を十二分に引き出すのに大きく貢献している。ギア段間のステップ・アップ比は理想的で、強力な駆動力がどんな速度域でも引き出せる。文句のつけようがないパワートレインだ。
このパワートレインの扱いやすさ、面白さを生かしきるクワトロ4WDの性格も忘れるわけにはいかない。反応速度の速い最新世代ハルデックス・カップリングの威力をまざまざと見せつけられる思いがした。
形式的には電子制御のオンデマンド式ということになるのだろうが、RS・Q3/RS・Q3スポーツバックでは積極的に後輪へ駆動力を流し、カウンターステアを当てたドリフト走行では、まるでFRかと錯覚させるような走りが楽しめる。パワーに大きな余裕があるだけに、雪上路とはいえタイトコーナーで45度とか50度といった深いドリフト・アングルがついてもトラクション能力を頼りに容易に立て直せる。冷静に考えれば、これが本当にFRだったら、こうは容易にはいかないわけで、最大でも50%がリアに配分される機構でありながらあたかもFRで楽しんでいるかのように錯覚させるようなトータル・トラクション特性を与えることに成功していると言うのが正しいだろう。
もちろん、そこにはこの地とテストコースの条件に合わせて装着されていたスタッド付きウィンター・タイヤの強力なグリップ性能があってこそともいえるのだけれど。
MQBプラットフォームによる横置きエンジンだから、フロントには凝ったサスペンション・システムを使うことは叶わず、マクファーソン・ストラットを入念に設計することで事に当たっているが、リアにも常に駆動トルクを流すことで結果的にフロントが楽になっているため、シンプルなシステムでもキャパシティに不足を覚えない。RS3もそうだが、このRS・Q3/RS・Q3スポーツバックも、実に巧妙に仕立てられていると言うほかない。
さらに付け加えておかなければならないのは、このSUVのRSが、RS3以上に快適な乗り心地性能を備えていることだ。氷結湖上のテストコースだけでなく、アイスバーンに雪が乗って硬く踏みしめられた一般道も走ることができた。そこで分かったのは、姿勢変化をよく抑えたフラットな姿勢を終始維持する脚の仕立てでありながら、脚がよくストロークしながら良好な乗り心地を作りだしていることだ。SUVということで、十分なバウンド・ストロークが確保されているのが活きている。電子制御ダンパーの仕事も惚れ惚れとするような仕上がり具合である。
残念ながら、日本市場への導入には1年弱ほどかかるようだが、早くドライ路面で堪能してみたいという思いを抑えることができない。
文=齋藤浩之(ENGINE編集部) 写真=AUDI AG
■アウディ RS Q3
駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4506×1851×1602㎜
ホイールベース 2681㎜
トレッド 前/後 1590/1583㎜
車両重量 1715㎏
エンジン形式 直列5気筒DOHC 20Vターボ過給
総排気量 2480㏄
ボア×ストローク 82.5×92.8㎜
最高出力 400ps/5850-7000rpm
最大トルク 48.9kgm/1950-5850rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション 前/後 ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(op. 前CCMC)
タイヤ 前後 255/40R20 101Y XL
車両価格(10%税込) 未定
■アウディ RS Q3 スポーツバック
駆動方式 フロント横置きエンジン4輪駆動
全長×全幅×全高 4507×1851×1557㎜
ホイールベース 2681㎜
トレッド 前/後 1590/1583㎜
車両重量 1700㎏
エンジン形式 直列5気筒DOHC 20Vターボ過給
総排気量 2480㏄
ボア×ストローク 82.5×92.8㎜
最高出力 400ps/5850-7000rpm
最大トルク 48.9kgm/1950-5850rpm
変速機 デュアルクラッチ式7段自動MT
サスペンション 前/後 ストラット式/マルチリンク式
ブレーキ 前後 通気冷却式ディスク(op. 前CCMC)
タイヤ 前後 255/40R20 101Y XL
車両価格(10%税込) 未定
(ENGINE2020年4月号)
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