新型メガーヌR.S.の走行性能にさらなる磨きを掛けたのがこのトロフィー。素のR.S.と同じ1.8リッター直4ターボはターボの変更などにより300psへと出力を21psアップ。最大トルクも3.0kgm向上し、42.8kgmになった。また"シャシー・カップ"と呼ばれる、よりサーキットでの能力を高めた脚まわりになるのも大きな変更点。新型自慢の4輪操舵も備わる。シートがレカロ製になるのもトピックだ。全長×全幅×全高=4410×1875×1435㎜、ホイールベース=2670㎜。価格は6段MTが489万円、デュアルクラッチ式6段自動MTが499万円。
R.S.トロフィーは、ベースのR.S.に対して最高出力を21psアップの300psに、最大トルクは3.0kgm強化し42.8kgmへ。さらにR.S.がシャシー・スポールに対してシャシー・カップが標準となり、カタログ値ではスプリングレートがフロント23%、リヤ35%ほど高く、アンチロールバーは7%高め、またダンパーは25%ハードな仕様に。トルセンLSDを備え、ブレーキもエグゾーストもすべてに手が入れられた実にルノー・スポールらしいこだわりのモデルだ。
サーキット志向のハードな仕様と思いきや、一般道でゴツゴツと突き上げを感じるような乗り心地ではなく、フラットでしなやかとすら感じる。ワインディングに持ち込むと本領を発揮。試乗車はDCTだったが、変速スピードも速く、正確でギクシャクする場面もない。6段MTも選べるが、操作スピードではもう敵わないだろう。新型から採用された4コントロール(4輪操舵システム)や4HCC(4輪ハイドロリック・コンプレッション・コントロール)の制御も手慣れたもので、量産FF車最速なだけでなく最楽だと思う。
ひと昔前のルノー・スポールほどの”玄人好み”感に満ちあふれていない感じが、今となってはかえって良い。少しは気軽に買ってよさそうな、それで乗っても楽しめそうな感じがある。出で立ちからしてノーマル+αの戦闘モード程度で、気合いのないヤツを拒否するという感じではない。けれどもひとたび駆ってみれば、ドライビングに対して熱くなれない人には容赦がない仕打ちが待っている。
ルノー・スポールはやはりスパルタンの権化なのだ。上手い下手は関係なく、一生懸命ドライブして初めてクルマが素直に動くという感覚。その性能、打てば響くといった感じか。打たない乗り手には響かない、どころか乗り心地も含め面倒なハッチバックでしかない。限界が著しく高くなったことで容易に楽しめないという点も、運転好きマニアの心をかえってくすぐる。ドライビングの腕を鍛えたいと乗り手に思わせるという点においても稀有な存在。しかもこの価格。世界で最もコストパフォーマンスの高い“ホット・スポーツ”の1つであることは間違いない。
こいつのスペシャルバージョンがR。そう、ニュルブルクリンクの北コースでまたFF最速タイムを出したスペシャル・モデルだ。そのベースとなっているのがこのR.S.トロフィー。FFをサーキットでタイムアタックする時、重要なことがある。絶対にアンダー・ステアを出してはいけないということ。そのためにリアのグリップを極力落とす。少ない操舵角でコーナーを曲がれるようにするのだ。つまりFF車でのタイムアタックには勇気とテクニックが必要なのだ。Rはそんなセッティングだと想像する。
しかしR.S.トロフィーにはリア・ステアというギミックが装備される。ドライブ・モードをレースにセットすれば100㎞/hまではリア・タイヤが逆位相になりそれ以上では同位相に変化する。ちなみにノーマルとスポーツ・モードではこの分水嶺は60㎞/hに下げられる。これによって中低速では面白いようによく曲がるし、高速域ではしっかりと安定し、誰でもがまるでプロ・ドライバーのハンドリングが経験できるのだ。頭の中が空っぽになるようなこのハンドリングがスゴイ!
乗るなり予感はした。やたら原始的でイマドキあり得ない古典的ホットハッチ。言わば80年代のアントニオ猪木が戻ってきたような時代錯誤な匂い。インパネはモダンなセンター・モニター付きだが、ベゼルばっか太くて画面は小さいし、メーターもデジタルなのにかなりアナログ風味。シートもアンコの薄い限りなくフル・バケットに近いセミ・バケット。唯一、ベクタリングが付いてない代わりに後輪が切れる4WS付きだが、どれほどモダンなのか。
すると乗り出したとたん、笑いがこみ上げる。偏平率35%のポテンザは、駐車場の砂を拾い、パチパチとフェンダー内でうるさいし、路面の凹凸でポンポン跳ねる。きたよきたよ、やっぱこの味か!高速ではフラットさは増すが、代わりに路面の継ぎ目でゴムがブチッ!ブチッ!と切れるような音を響かせ、山道ではステアリングを切るなりタイヤ・グリップでクルマをねじ伏せるように曲がる。さらにレース・モードにすると分かり易いバックファイア・サウンドが。久々に暴れ馬を調教したようなキブンですわ。
カットが美しいクリスタル・グラスとか、ごく限られた区画で育てたブドウで作るワインとか、最上級の羊毛で織ったコートとか。技術をきわめていくプロダクトがある。このクルマも、似ている。ここいらで止めとこう、という妥協が感じられない。そこに感心する。メガーヌR.S.でも速いのに、エンジンも足まわりもさらに強化。こだわりの一例をあげれば、セラミックのボールベアリングで滑らかに回るターボのタービン。これによって、回転が上がったときのパワーの“つき”がよくなる。
文章で読んでいると、そこまでやらなくても、と思うかもしれないが、実際にドライブを体験すると、ロケットのような加速感と、地面に張り付くコーナリングで、頭のなかが真っ白になるような楽しさが体験できる。考えてみれば、高級市場におけるフランスのブランドって、そこまでやらなくても、と思うことをやっている。たとえばそこから極上の肌触りが生まれたり……。合理主義といわれるが、じつは“超”感覚主義。そんなものづくりの真髄がこのクルマにもある。
(ENGINE2020年4月号)
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