米軍の軍用車両をルーツに持つジープの最新モデル。ルビコンはラインナップのなかでも特にオフロード性能に特化したモデルで、前後のデフロックとスタビライザー切り離しが可能だ。ルビコンが搭載するエンジンは3.6リッターV6のみ。最高出力284㎰/6400rpm、最大トルク35.4kgm/4100rpmを発生、8段ATを介し4輪を駆動する。3ドアのルビコンは100台(黄色60台、グレー40台)のみの限定車となる。全長×全幅×全高=4320㎜×1895㎜×1840㎜。ホイールベース=2460㎜。車両本体価格=589万円。
ラングラーは本物だ。本物はカッコイイ。だからラングラーは大変人気がある。その公式は不動である。が、これまでは、ラングラーを自家用車にするのをためらわせる要素もあった。それは、微妙な快適性の低さであった。もともと本物すぎるオフロード車であるので、快適性が低いのは当然のことながら、3代目にあたる先代は乗り心地や静粛性が大幅に向上。日常利用における最後の壁は、4輪リジッドサスがもたらす高速直進安定性の低さのみになっていた。
が、新型ラングラーは、ついに最後の壁も乗り越えた。オフロード性能維持のために必須の4輪リジッドサスを維持しつつ、高速道路でもほぼ問題なく、ラクにまっすぐ走ってくれるようになったのだ!このルビコンは、オフロード性能強化のために、ファイナル・ギアを大幅に低めてあるが、オンロードでも軽快かつ快適。これでウルトラ本物の悪路走破性を持つのだから、天は二物を与えすぎである。
ラングラーのスゴイところは、アイコンとなるそのスタイリングを継承し続けていることだろう。1941年のウィリスMAを原点に、CJ / YJ / TJ / JKそして現行型のJLと進化させてきたが、どこから見てもラングラーであることは一目でわかる装いとなる。しかも、そうした流れを守りつつハードウェアは時代に合わせたものにスイッチ。今ではエンジンのダウン・サイジングも進み2リッター直4も用意する。ジープも省エネルギーを重んじる時代だ。
そして今回試乗したルビコンに関していえば、こいつはまさにスーパーカー。オフロードを走るために用意されたスペックはもはや非日常なものばかりとなる。これは700馬力のイタリアン・エキゾチック・カーと同じ価値を持つ。サーキットでしか味わえないレーシーな走りを都内で走らせるのと、ありえないオフロード性能でコンビニに行くのは一緒だ。しかもステアリングを握ったのは今年1月にリリースしたばかりの3ドア。5ドア以上の走破性があるのはご承知の通り。究極のオフローダーである。
変わることで新しい魅力が生まれることもあれば、変わらないことで伝統的なファンとともに、新しいファンを増やしていくクルマもある、ジープの製品には今、その両方のタイプが存在するが、このラングラーは明らかに前者だ。今回は残念ながらオフロードの走行はできなかったが、そのサスペンションのセッティングやステアリングのフィーリングからは、我々が想像するよりもはるかにハードな悪路を走破していくラングラーの姿が想像できる。
オンロードでの走りもまずは合格レベル。ステアリングには十分な正確さが感じられるようになったし、サスペンションも不快なピッチングに悩ませられ続けるようなことはなくなった。ライバルと比較しても圧倒的なタフネスさを誇るオフロード走行を継承しながら、ジープの象徴ともいえるラングラーは確実な進化を遂げていたのだ。オフロード好きにとって、このラングラーの進化はとても貴重だ。
ラングラーの凄いところ、まずは特別色のイエローのカラーリング、というかそのイエローが似合うボディが凄いと思う。60年代末から70年代前半にかけての頃、主にスポーツカーで流行ったイエローが似合うクルマなんて、今どきめったにない。乗ってみて驚いたのはそのボディ剛性。伝統的なセパレートフレーム構造だから緩いかと思いきや、ボディは物凄くカッチリしていて、ちょっとやそっとの不整路面ではビクともしない。それにエンジン。3.6ℓ V6はスポーツカーユニットのように活発に回り、8段ATと組み合わせられてジープのイメージを上回る勢いでラングラーを加速させる。
ショートホイールベースゆえに身のこなしはクイックで、高速ではちょっと敏感すぎる嫌いがあるが、それは当然といえば当然。ジープ・ラングラー、本来は道なき道を突き進む、トレイル・ランナーだからだ。舗装路を目指すSUVが続出するなか、トレイル・ランナーの本分を忘れていないところが、実はラングラーの最も凄いところなのだと僕は思う。
コレ、最近は女子人気が凄いらしいんですよ。草食系男子が増殖する今日この頃、強さとか頼もしさが求められているということでしょうか。ラングラーはカウボーイ。見た目こそイメージ通りだが、いろいろハード過ぎてデートに使えるのは1度だけの可能性大。もちろん最近のクルマだから、インテリアは昔のように無骨ではなく寒々しさもない。チルトもテレスコもあるからドラポジも悪くない。アダプティブ・クルーズ・コントロールも装備している。でも本格的なオフロード・タイヤを装着したホイールベースの短い3ドアモデル。直進性の無さとハードな乗り心地。きっと小回りも出来ないに違いない。
と思ったところが、意外な程快適なクルマだった。タイヤがタイヤだからステアリングのセンター付近はフラフラだけど、真っ直ぐ走らせるために修正舵が必要なわけではない。要は気にしなきゃ真っ直ぐ走るということ。乗り心地も悪くなければ小回り性能は想像を大きく上回って合格点。これなら2度目のデートも断られる心配は無い。
(ENGINE2020年4月号)
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