2005年に『桃の木』を開業した小林武志氏は、台湾A菜やアヒルの舌といった馴染みのない食材に光を当て、自然派ワインをいち早く紹介してきた中華の大御所。15周年を機に三田から赤坂へ移転した今年3月からは、以前とは違うアプローチの料理もコースの中に組み込まれるようになった。
その象徴的な新作「ゴルゴンゾーラの水餃子」は、ほうれん草を練りこんだ生地でエビのすり身とゴルゴンゾーラチーズを包み、澄んだ上湯に浮かべたもの。実は20年前から構想はあったものの、中華の範疇を超えていると考え、頭の中にしまっていたのだとか。
しかし海外で料理をする機会が増えたことで、心境が変化。「今や香港では、中華でもポン酢やフォアグラ、キャビアなどが当たり前のように使われている。美味しくなるなら、縛られずに使ってみよう」と思うようになったのだという。
最近の高級中華では、調味料の量を控えて素材を生かした"きれいな味"が支持される傾向にあるが、『桃の木』は、その元祖。「茄子の唐揚げ 山椒唐辛子風味」や「豚ロースの雲白肉」「干貝柱の炒飯」といった以前からの名物は、香り豊かでキレがよく、澄んだ味わいだ。その背景にあるのは、見た目からは想像がつかないほどの丁寧な仕込みと探究心である。

文=小松めぐみ(フード・ライター) 写真=田村浩章
(ENGINE2020年5月号)
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