新型の"素のカレラ"は一体どんなスポーツカーなのか? カレラS、カレラ4Sに試乗したことのある本誌編集部員は、新型"素カレラ"の出来の良さに驚いた。
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荒井 922型になった新型ポルシェ911は、本誌2020年3月号でカレラSとカレラ4Sの比較試乗をやったばかり。今回はやっと広報車が用意されたベーシック・モデル、カレラに試乗することができました。2カ月前に乗ったカレラSやカレラ4S、とりわけ2駆のカレラSを思い出しながら、〝素のカレラ〟を語っていきましょう。
村上 海外試乗会でも素のカレラに乗ることができなかったので、みんなと同じように僕も初めて。いきなり結論めいたことを言っちゃうけど、あまりにも出来がいいのにビックリした。これだったら、素のカレラで十分どころか、いろいろなものが付いてない方がいいとさえ、思った。
荒井 カレラSとの違いを整理します。ボディは同じ。3リッター水平対向ツインターボも同じだけど、過給器および過給圧が異なり、カレラが最高出力385ps、最大トルク450Nmなのに対し、カレラSは最高出力450ps、最大トルク530Nmとなる。カレラの標準タイヤは前235/40ZR19、後295/35ZR20なんだけど、試乗車はカレラSと同じ前245/35ZR20、後305/30ZR21を履いていた。カレラSが標準装備するスポーツクロノも付いていた。
上田 オプションを含めない車両本体価格はカレラが1359万7222円。カレラSが1696万8519円。約337万円の差があります。
村上 約35万円のスポーツクロノは付けたい。それによって、ドライブ・モードがスポーツ+まで使える。制御の幅がすごく広がるからね。
齋藤 タイヤは標準で何か問題があるとは思えない。素のカレラに乗って思ったのは、フロントがすごくラクに曲がるということ。驚くほどロールしないでスッと曲がる。先代の991型みたいに一所懸命曲がっていない感じがした。トレッドは広がったけど、ホイールベースは伸びてないでしょう? でも、まるでホイールベースが短くなったかのように、クイクイ曲がる。
村上 相対的に短くなっている。
齋藤 デカくなって、パワーもアップして、ほとんどスーパー・スポーツカーになってしまった新型911でさえ、やっぱりワインディング・ロードが得意なんだと思ったなあ。
上田 自分の入力に対して、正確無比に反応する。手探り感がまったくないです。
村上 試乗車には4WSが付いていなかったけど、必要ないと思った。
齋藤 自分の生活圏にUターンが必要な場所がある人以外いらない。
荒井 僕は相変わらずの高剛性ボディに舌を巻いた。トレッドが広がったことにより、スタビリティも向上した。マセラティ・グラントゥーリズモよりはるかにガッチリしているから、911の方がグランドツアラーとしても上だと思った。
村上 カレラSに乗ったとき、ノーマル・モードだと燃費を良くするためにどんどんギアが上がって、大味な印象があったんだけど、今日乗ったカレラには感じなかった。
齋藤 やり過ぎたという反省が入って、調整が入ったのかもしれない。992型はカレラの方が後から出たからね。なんてったって、数を売っているクルマだから、ポルシェはカスタマーの声に敏感だと思う。それをマジメに一所懸命やってきた会社だからね。
上田 乗り心地も素晴しい。
齋藤 それはフロントが軽いから。911の凄さを支えているのは、フロントが軽いということ。たとえば、フェラーリ812スーパーファストは重い6.5リッターV12をフロントに積んでいる。いくら、フロント・ミドシップです、重心低いですって言ったって、あれだけ重いものが乗ってたら、フロントのロール剛性を上げなきゃいけないし、脚だってそんなに柔らかくはできない。フロントが硬いとどうしても乗り心地が悪くなる。上下動も出るしね。911はフロントが絶対的に軽いし、トレッドが広がってラクになってるから、脚を柔らかくすることが出来る。とりわけ、日本のように路面が凸凹だと、その差が顕著だよね。乗り心地はフロントで決まるから。
村上 FRのスポーツカーと明らかに違うのは、やっぱり後輪のトラクション。なんだけど、長期リポート車の996型にあるようなガツーン!とした後輪の蹴り出し感は薄くなってる。RRを操る危うさはどんどん減ってきているけれど、独特の味も薄くなっている。
上田 前に荷重をかけないと曲がらないというのが昔の911だったけど、いまはもう関係ないですね。
齋藤 もちろん、軽くブレーキを当てたりしたほうが、切り始めから安心感があるけれど、そういうことしなくても曲がる。運転したときの特殊な感じというのは、昔の911に比べたらないよね。
村上 もうひとつ、気になることがあるとしたら、クルマがあまりにも大きくなったこと。長期リポート車の996型と並べたら、大きさがふたまわりぐらい違った。
上田 さらに空冷と比べたら、昔のミニといまのミニぐらい違う印象。
齋藤 運転のしやすさという意味では進化しているけど、インフラが変わってなくて、車体だけどんどん大きくなっているんだから、扱いにくくなるのは当然だよ。
上田 その代わり、アクティブ・クルーズ・コントロールなどの快適装備は全部あります。
荒井 僕は992型のルックスが大好き。とりわけ、パンと張った後ろ姿がいい。縦のスリットと横長のテール・ランプもカッコイイ。インテリアもモダンになって、新しいものに乗っている感じが強くて好き。扱いやすさだって、フェラーリやアストン・マーティンに比べたら、ずっとフレンドリー。
齋藤 ポルシェ911が欲しい! という人に先代の991型だったら、カレラSがいいですよと言っていた。カレラは2駆であろうと4駆であろうと、ちょっとおっとりで滑らかという面が強調されていた。よりシャープでパワーのあるカレラSの方が、ポルシェ911に乗ってる! ということがわかりやすかった。
村上 991前期型までの自然吸気エンジンはカレラとカレラSで排気量が違ったからね。ターボを搭載する後期型直前は3.4リッターと3.8リッター。ハッキリ差別化した。
齋藤 ターボになってもSの方が明らかに切れ味鋭いシャープなものだった。だけど、992型は素のカレラでなんの問題もない。ロールしない、突っ張った感じもしない、結構シャープにラクに曲がる、しかもピーキーじゃないから怖くない。言うことないです。
村上 それじゃあ、カレラSがいらなくなっちゃう。
齋藤 サーキットで速く走りたい人はカレラSだろうけど。新しい911ってどういうクルマですか? と聞かれたら、これですと差し出すのはカレラだよ。トータル・バランスはいいし、先代のカレラみたいにおっとりしたところがないから。
村上 992型の開発スタッフが、もっとオトコっぽいクルマにしようとしたと言っていたからね。カレラだけでなく全体がそうなっていると思う。エンジンをかけたときの音も先代より大きくなっている。
荒井 スポーツカーに乗っている感はすごい。ほかの3台と違うのは、ものすごく精緻なものが動いている印象があること。それは空冷の911からずっとそうだけど。
齋藤 太刀打ち出来ない感じがする。これまで911キラーを謳って、ライバルたちが次々と挑戦したけど、ことごとく蹴散らされてきた。
荒井 こんなに間口が広くて、奥行きが深いスポーツカーはほかにないからね。
上田 新型911の真髄は素のカレラにあり! ということですね。
村上 素のカレラ、本当に良かった。
▶「ポルシェのおすすめ記事」をもっと見る■ポルシェ911カレラ
駆動方式 エンジン・リア縦置き後輪駆動
全長×全幅×全高 4520×1850×1290mm
ホイールベース 2450mm
車両重量 1530kg(車検証)
エンジン形式 直噴水平対向6気筒DOHCツイン・ターボ
総排気量 2981cc
最高出力 385ps/6500rpm
最大トルク 45.9kgm/195~5000rpm
変速機 8段自動MT
サスペンション 前 マクファーソンストラット/コイル
サスペンション 後 マルチリンク/コイル
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 245/35ZR20 / 305/30ZR21(オプション)
車両本体価格 1359万7222円
語る人=村上 政(ENGINE編集長)+齋藤浩之+荒井寿彦(まとめ)+上田純一郎(すべてENGINE編集部) 写真=小河原 認
(ENGINE2020年5月号)
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