2020.05.31

CARS

【試乗記】フェラーリのフラッグシップ、812スーパーファストはやっぱりスゴイ 神々しい、とさえ感じる!

フェラーリのフラッグシップ、812スーパーファストに国内試乗。800psの自然吸気V12の咆哮は、フェラーリの本流ここにあり!と叫んでいるようだった。


荒井 欧州スポーツカー4台イッキ乗り、最後はフェラーリ812スーパーファストです。いやあ、さすがフェラーリのフラッグシップ、見ても乗っても魂を揺さぶられました。


村上 4台のなかで、ちょっと突出した、まったく違う乗り物だった。スポーツカーという前に、これはフェラーリなんだ! ということを圧倒的に感じさせるクルマだった。


齋藤 6.5リッターV12を8500rpmまで回して、最高出力800㎰というのは、やっぱりとんでもない。僕はもう取材で3回乗っているけど、毎回そう思う。


村上 それが破綻しないで乗れるようになっているというのが、またすごい。電子制御による各種のコントロールが素晴らしい。


荒井 東京から小田原まで乗ってきたんだけど、ゆったり走っている分には、思いのほかラクチン。7段DCTは1000rpmちょっとで、どんどんシフトアップしていく。50㎞/hでもう7速。ジェントルですね、とさえ思っちゃう。


上田 フェラーリの12気筒モデルで考えると、599GTBからF12ベルリネッタへの進化がとても大きいと思います。


村上 599GTBは怖かった。


齋藤 812スーパーファストはF12ベルリネッタの強化版だからね。6.26リッターを6.5リッターに拡大して、最高出力を引き上げた。


村上 街中をゆったり流しているときと、飛ばしたときの落差が激しいよね。まるで1台のなかにジキル博士とハイド氏がいるみたい。ガス・ペダルを踏み込めば、キバを剥いた猛獣のようになる。


荒井 レブカウンターの針を8500rpmまで跳ね上げようとしたんだけど、車窓の流れが速すぎて、針を見る余裕なんかなかった。クォーン! という咆哮とともに、F1のインカー・カメラ映像を思い出した。直線の加速Gも凄くて、お腹のなかのものがスーッと下に降りていった。


齋藤 でも、そのGを感じるまで、クルマがそういう運動をしていることがわからない。サイド・サポートがパンと張ったバケット・シートではないし、ステアリングも軽い。手やお尻で直接感じるフィードバックがそんなにない。身体にかかるGで、〝こんなに横Gがかかっているんだ!〟ということがわかる。


荒井 横Gを感じるだけで破綻しないのは、F1で培った電子制御技術がシャシーや駆動系にも応用されているからだよね。


FERRARI 812 SUPERFAST


V12を低く

村上 812スーパーファストはF12ベルリネッタの強化版だとサイトーさんが言ったけど、見た目は随分変わった。新しいクルマになったという感じがすごくある。


荒井 オーラがすごい。路上の覇者という感じ。箱根・大観山の駐車場に812スーパーファストが入ってきたときに、駐車場にいた若い男性5~6人のグループから「おおーっ!」という歓声が上がった。


齋藤 只者ではない感じ。自分の想像を超えたフォルム。


村上 スポーツカーというのはプロポーションが大事なんだということが、今回の4台に乗ってよくわかった。812スーパーファストのノーズの長さは半端じゃない。


上田 現代のスポーツカーは、前輪がそんなに遠くないじゃないですか。ノーズがドーン! と長くて、前輪が遠くにあるクルマに久しぶりに乗りました。


荒井 しかも、ボンネットは上からギュッと押したみたいに低い。


齋藤 バンク角65度のV12を極限まで低く搭載している。599GTBは怖かったという話があったけれど、エンジンの搭載位置が下がりきってなかった。599GTBもドライサンプだったけどね。


荒井 ハンドリングに影響が出ると。


齋藤 そう。599GTBは脚をガチガチに硬めてあった。脚が突っ張っていると、荷重変化がピーキーで、動きはシャープだけど怖かった。F12ベルリネッタでは搭載位置を下げることが出来たから、その分脚が柔らかくなった。結果、荷重変化の立ち上がりが穏やかになって、扱いやすくなった。


荒井 だから812スーパーファストはステアリング・フィールが軽いけど、そんなに怖くないんだね。


上田 マセラティ・グラントゥーリズモと並べると、V8を収めるマセラティのボンネットの方が高い。


齋藤 AMG GT、先代のシボレー・コルベットも搭載位置が低い。アストン・マーティンも頑張ってるよね。フロント・エンジンでも本気で低くしようと思ったら、こういうことができるんだなと思った。




デイトナに似ている

村上 最近はフェラーリと言えば、V8ミドシップというイメージが強くなったけれど、812スーパーファストに乗ると、フェラーリの本質はこっちにあると思う。


上田 ご本尊な感じ。


齋藤 いまに続くフェラーリ12気筒のスーパースポーツというのは、デイトナ以降なんだと思う。250とか275の時代はクルマが細身でコンパクトだったし。エンジンもスモール・ブロックの12気筒だった。アメリカ向けのビッグ・ブロック12気筒を積んだフェラーリとして印象を決定づけたのは、365GTB/4、つまりデイトナ。だから812スーパーファストはデイトナに似ているよね。


村上 812スーパーファストはリア・スタイルもコーダ・トロンカになっている。ちょっとクラシカル。


上田 マフラーが目立つ感じもデイトナを意識している。


齋藤 ランボルギーニを見てあっけにとられる感じと全然違う。


荒井 812スーパーファストの方が神々しい。



村上 ミドシップのスーパー・スポーツカーは、レーシング・カーから派生したフォルムなんだけど、812スーパーファストは現代のレーシング・カーとは全然違う。


荒井 全然違うと言えば、ほかの3台と価格も全然違う。今日乗った812スーパーファストは約900万円のオプションがついていて、約4900万円! いったいどういう人が買うの?


齋藤 12気筒で言うとGTC4ルッソを買う人はわかる。そんなにジロジロ見られないでしょう?  箱根で奥さんとドライブしている人を見かけたしね。でも、812スーパーファストはなあ。


村上 昔から本当のフェラーリのお客さんというのは、V8ではなく12気筒を乗り継いでる。


荒井 とにかく、フェラーリのフラッグシップだけ乗ると。


村上 そういう人にとって、V8は子供っぽい。もとをただせば、ディーノから始まったわけでしょう?


齋藤 エンツォ・フェラーリがこだわったのは12気筒だからね。812スーパーファストの12気筒は、集大成と言っていいんじゃないの?


上田 自然吸気V12はこれで最後ですか?


齋藤 F12tdfのような〝サーキットも走れます〟という限定モデルが出るはず。そのあとのフルモデルチェンジでは、ハイブリッドになるだろうね。


荒井 あのエンジンの歌い上げるような咆哮をいつでも聞くことのできるオーナーは本当に幸せだと思う。本当に凄かった。2座、V12、FRこそ、フェラーリの保守本流だと改めて思った。

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■フェラーリ812スーパーファスト

駆動方式 フロント縦置きエンジン後輪駆動
全長×全幅×全高 4660×1970×1275㎜
ホイールベース 2720㎜
トレッド 前/後 1670/1645㎜
車両重量 1790㎏
エンジン形式 65度V型12気筒DOHC
総排気量 6496cc
最高出力 800ps/8500rpm
最大トルク 73.2kgm/7000rpm
変速機 7段自動MT
サスペンション 前&後 ダブルウィッシュボーン
ブレーキ 前&後 通気冷却式ディスク
タイヤ 前/後 275/35ZR20 / 315/35ZR20
車両本体価格 4000万円


語る人=村上 政(ENGINE編集長) 齋藤浩之+荒井寿彦(まとめ)+上田純一郎(すべてENGINE編集部) 写真=小河原 認


(ENGINE2020年5月号)

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