2020.05.24

LIFESTYLE

巨大なリンカーン・ナビゲーターが置けて庭もあって居住スペースも広くしたいけど、予算も敷地も限られている!? そんな悩みを建築家のアイディアで解決しました!! 


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Oさん夫婦は、上のお嬢さんが小学校に上がるまでにはと、家を建てることにした。二人はテレビ番組の「建もの探訪」を楽しんできた建築好き。気になる建築家を300人ほど調べた後に、設計を依頼したい何人かに実際に会って、相性などを確認。好みのスタイルの家を設計していたうえに、自分たちの細かな要望を伝えやすいと感じた土田拓也さんにお願いすることにした。アウトドア好きの建築家で、家を建ててからも長い付き合いができそうな点も決め手となっている。

さて、O邸の設計での最優先事項は、敷地内に巨大なリンカーン・ナビゲーターを停めるスペースを確保することだろう。Oさんには、敷地に合わせてクルマを小さくするという選択肢は無い。そして次も、大きなクルマに乗るつもりだ。そう、本当に大きなクルマが好きなのである。

室内に視線が抜ける玄関ホールは、天井を少し低くしてある。

そこで建築家の土田さんは、母屋の形を少し歪ませることにした。これでリンカーンを停めることができるうえ、居住の面積を大きくでき、隣の家との間に庭を設けることもできるのだ。なかなかのアイディアである。さらにリンカーンの隣に小さなクルマ用のスペースと独立した物置を設けた。Oさんの趣味であるアウトドアは用具が汚れやすいので、物置は泥などを家の中に持ち込まないようにとの配慮だ。

さらに、駐車スペースの地面には芝生を植えた。これで2台あるクルマを一旦どかせば、家の前はちょっとした庭に早変わり。ここに子供用プールを出したり、BBQを楽しんだりと、アクティブに活用している。

メリハリのある空間

家の内部に、床面積以上に広く感じられる工夫が随所になされているのもO邸の特徴だ。まずこの家には、廊下のような無駄なスペースを作らなかった。ガラスの玄関扉が付いた玄関ホールにも、上り框は存在しない。しかも三和土(たたき)から家の内部まで、コンクリートの土間となっている。

そのうえ視線が抜けるようなアイディアも。特にリビングのソファ周りの空間処理がユニークだ。奥の壁は2mもないが、ソファに掛けると目の前には特注の大きな窓があり、その先は庭となっている。しかもリビングは、中央部に行くに従って広くなっているうえ吹き抜けなので、驚くほど広さを感じるのだ。

リビングは、ソファの置いてある場所から中央部に行くに従って広がっている。柱に付けられたトグル・スイッチは、建築家の土田さんが多用するアイテム。

リビングに続くダイニング・キッチンの上は子供部屋。天井高は210cmと低く抑えられており、逆にここは包まれ感が心地良い。そして奥のキッチンからリビングを見ると……明るく吹き抜けになっているうえに、土間にはOさん夫婦が集めた大小様々の植物の鉢植えが置かれているので、外部空間のように感じられる。さらにテレビ前の天井には、天窓が設けられて空が見えるように。実はこの場所が、希望にあった青空の下でビールを飲めるスペースだ。たしかに天気のよい昼間、ビールを飲んだら最高だろう。ダンスを習っている上のお嬢さんはここで踊り、下のお嬢さんは縄跳びをすることも。この家の特等席だ。

こうした知恵を絞った建物だが、共働き夫婦の手が届く範囲の予算に抑える必要がある。そこで建築家の土田さんは、メリハリをつけた。例えば、キッチンはオリジナルのデザインで、目につく位置にあるスイッチのカバーは誂えた。一方、外壁や内装には既製品を多用。白い壁や天井には、仕上げの必要のない部材を用いている。寝室などの天井も、高さを抑えたことで安心感が増し、コスト削減にもつながった。

O邸は、延床面積が87平方メートルとは思えない、広さを感じる楽しい家だ。優れたデザインに与えられる「Gマーク」を獲得した話になると、Oさんの笑顔が弾けた。家を建てる前は、想像すらしていなかったそうだ。権威ある賞は、クルマだけでなく、家作りまでしっかり拘ったことへのご褒美であるのは間違いない。

天井の低いダイニング・キッチンと吹き抜けのリビングの高低差が絶妙。子供たちの様子が分かる、大きなワンルームのような間取り。

■建築家:土田哲也 1973年福島県生まれ。関東学院大学卒業。建築事務所勤務を経て、自身の事務所であるno.555を設立。住宅の他に、幼稚園、事務所などを手掛ける。事務所が入居しているのは、改修を手がけた築120年の横浜山手の洋館。事務所名の「555」は、人間が最も光を明るく感じる波長の555nmから来た。愛車は、15年乗っている初代ゴルフ・カブリオレ・クラシック(もちろんクルマのナンバーは555)と初代カングーの2台持ち。母校で教鞭もとる。趣味はサーフィン、スノーボードなど。写真好きでライカ党でもある。

文=ジョー スズキ 写真=山下亮一

(ENGINE2020年5月号)

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